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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

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閑話 IFストーリー もしも天城が猪田を殺さなかったら

「どうやら、わたしはここまでのようだ……異世界から来た者よ。名は何という?」

 どうやら、自分を倒した相手の名前を知りたいらしい。

「猪田信康」

「イノータ・ノブヤスか。わたしの最期の相手だ。死んでも忘れることはない」

「魔王、もう一つ聞きたい。この王宮には、僕たちが元の世界へ帰る方法を記した書物はあるのか?」

 バァボル陛下はあると言っていたが、本当かどうかは分からない。

 そう思っていると、魔王は震える唇で答えた。

「ある。この王宮図書館に、異世界から来た者たちの帰還方法を記した書物が残されている」

「そうか……良かった」

 これで皆、元の世界へ帰ることができる。

「もう限界のようだ。さらばだ」

 そう言い残すと、魔王ツシカーヨロウリの身体は黒い砂となって崩れ落ちた。

 後には、魔王が身に着けていた服と黒い砂だけが残されていた。

「……これで戦いは終わった。そして、帰れるんだ!」

 元の世界へ帰れる。

 そう思った瞬間、肩をぽんと叩かれた。

「やったな、猪田」

「うん。天城君も無事でよかったよ!」

 しかも、この王宮の図書館には元の世界へ帰る方法が記された本まである。

 これで本当に帰れるんだ。日本へ。

 そう思うと、自然と涙がこぼれた。

「ああ、本当にそうだな」

 天城君はため息を吐いた後、じっと僕を見た。

「元の世界に帰ったら、椎名さんのことを気にかけてやってくれ」

「えっ!?」

 僕は思わず耳を疑った。

 天城君が何となく椎名さんに好意を抱いていることには気づいていた。なのに、そんな彼が僕にそんなことを言うなんて。

「魔王の攻撃で頭でも打ったの?」

「はは、違う違う」

 僕の問いかけに、天城君は苦笑しながら手を振った。

「決戦の前夜にな。俺、椎名さんに告白したんだ」

「ああ、そうなんだ」

 もしこのまま天城君が死んでいたら、完全に死亡フラグだったな。

「でも、見事に振られたよ」

 天城君は苦笑いを浮かべた。

「えっと、その……何て言えばいいのか……」

 かける言葉が見つからない。

「その時に分かったんだ。そう、シイナサンニフサワシイノハ、イノタダケダッテ」

「うん!?」

 何か途中から片言になっていないか?

「ソウワカッタカラ、オレハミヲヒイタンダ。スベテハ、シイナサンノタメニ。シイナサンノタメニ、シイナサンノタメニ、シイナサンノタメニ、シイナサンノタメニ、シイナサンノタメニ……」

「天城君っ!? しっかり帰って来てっ!」

 いったい何があったんだ!?

「あっ、すまない。そんなわけで、俺は身を引いたんだ。だから、椎名さんのことを頼む」

「う、うん。分かった」

 告白した時に何があったのか気にはなったが、今は深く聞かないことにした。

 そう話していると、遠山君と西園寺君がボロボロの姿でやって来た。

 お互いの無事を喜び合いながら、僕たちは下へ降り、斎藤君と合流して本陣へ帰還した。

 本陣に帰還すると、僕たちを待っていたのは称賛の声でも歓喜の声でもなく、説教だった。

 マイちゃん、椎名さん、そしてエリザさんは、僕たちが相談もなく敵本陣へ突入したことに相当腹を立てていたらしい。

 僕たちはその場に正座させられ、延々と説教を受ける羽目になった。

 ユエと瀬奈はそんな僕たちを見て笑っている。

 総大将であるアウラ王女様まで笑っていた。

 正直、全員満身創痍なのに座らされたまま説教されるのはかなり辛い。

 だが、相談もなく突っ走ったのは事実なので、甘んじて受けることにした。

「もう、聞いてるの!? ノッ君っ!」

「はいっ! 聞いていますっ!」

「まったく! 自分たちだけで突入して魔王を倒すなんて、そんな羨ましいことをするなら、あたしにも声を掛けてよっ!」

「すいませんでした」

「違うだろう。マイ! ここは勝手に魔王の所へ突入したことを怒る場面で、自分が参加できなかったことを悔しがる場面ではない!」

「そうだよ、真田さん」

 という具合で、説教なのか、それとも僕たちをネタに口喧嘩しているのか分からなくなってきた。

 そんな不毛な時間が終わると、僕たちはそれぞれテントへ戻って休んだ。

 その夜、勝利を祝う盛大な宴が開かれたらしい。

 しかし僕たちは全員ぐっすり眠っていたので参加していない。

 後で話を聞いた僕は、参加できなくてよかったと心の底から思った。

 だって、どう考えてもライオルダルク陛下に絡まれる未来しか見えなかったからだ。


 その後、連合軍は王国の首都へ凱旋した。

 主要将軍たちと共に、魔王の宮殿へ突入した僕たちは謁見の間へ集められた。

 ライオルダルク陛下以外の全員が玉座の前に跪き、バァボル陛下の到着を待つ。

 そして数十分後。

「バァボル陛下の御成りです!」

 近衛兵の声が響き、奥の扉が開かれる。

 やがて、玉座へ腰掛ける音が聞こえた。

「皆の者。面を上げよ」

 その言葉と共に、僕たちは顔を上げた。

 そして僕は目を見開いた。

 バァボル陛下の右隣には仮の玉座が置かれ、ライオルダルク陛下が座っている。

 そこまではいい。

 問題は左隣だった。

 そこにはセリーヌ王女が座っていた。

 しかも以前よりもゆったりとしたドレスを身にまとっている。

 そして何より、目に着くのは。

 お腹が大きく膨らんでいた。

「え、えっと……王女様?」

「はい。旦那様♥」

 セリーヌはにっこりと微笑んだ。

 旦那様?

 今、旦那様と言ったか?

 しかも僕を見ながら。

 恐る恐る自分を指差す。

 セリーヌ王女は笑顔で頷いた。

「「「……………………」」」

 その場にいた全員が沈黙した。

「マジで?」

「はい♥」

 僕は言葉を失った。

 本気で言葉を失った。

 その後は大変だった。

 セリーヌ王女を妊娠させたことで、バァボル陛下から。

「まさか娘を妊娠させておいて、元の世界へ帰るとは言わぬよな?」

 という圧力満載の言葉をいただいたので、僕は頷くしかなかった。

 さらに魔王討伐の功績も認められ、爵位は男爵から公爵へと陞爵。

 だが、その話を聞いたマイちゃんたちは大激怒した。

 それをなだめるのにも相当苦労した。

 ようやく落ち着いたと思ったら。

「じゃあ、元の世界には帰らないの?」

 と聞かれ、今度は返答に困ることになる。

 さすがに両親も心配しているだろうし、友達にも会いたい。

 かといって、セリーヌと生まれてくる子供を置いて帰る気にもなれなかった。

 悩みに悩んだ末に出した結論は、一つだった。

 両方の世界を行き来する。

 それが僕の出した答えだった。

 ヒントになったのは、異世界で自衛隊が活躍する漫画だ。

 その作品では、自衛隊が異世界へ通じる門を利用して行き来していた。

 だったら、僕も似たようなものを作ればいい。

 そう考えたのだ。

 ひとまずクラスメート達には帰還魔法で元の世界へ戻ってもらい、僕はこの世界に残ることにした。

 ところが、そのことを伝えると、マイちゃんたちまで残ると言い出した。

 結局、僕は与えられた領地で門(ゲート)の開発に取り組むことになった。

 転移魔法そのものは存在する。

 あとは、その魔法を常時発動させる素材と、門(ゲート)を起動するための魔石を見つけるか作り出せれば完成だった。

 試行錯誤を何度も繰り返すうちに、一年が過ぎた。

 その頃になると、セリーヌ王女のお腹にいた子供も無事に生まれていた。

 男の子だった。

 皆からは。

「どことなくノッ君に似てるね」

 と言われた。

 名前を決める際には一悶着あった。

 マイちゃんは「華康」、ユエは「月信」、椎名さんも「白人」、村松さんは「瀬太郎」を推していた。

 最終的には家康に落ち着いた。

 セリーヌも特に異論はなかった。

 子供が生まれてからというもの。

「子供っていいね」

「わたしも欲しいなあ」

 などと、マイちゃんたちが僕を見ながら意味深なことを言うようになった。

 そんな視線から必死に逃げつつ、僕は門(ゲート)の開発に没頭した。

 数え切れない失敗を乗り越えた末に、ついに完成の日が訪れる。

 僕は門(ゲート)の前に立った。

 ゆっくりと起動魔法を流し込む。

 重々しい音と共に門扉が開いた。

 何もない空間に亀裂が走り、その向こう側に漆黒の空間が広がる。

「・・・・・・」

 ついに完成した。

 僕は皆に見送られながら、その門をくぐった。

 次の瞬間。

 視界が真っ白になった。

「寒っ! どこだ、ここ!?」

 吹雪。

 視界は数メートル先も見えない。

 その中で、近くで雪かきをしている人影を見つけた。

「すみません! ここは……って、おじいちゃん!?」

「ああ? お前、信康じゃないか?」

 そこにいたのは、今年で九十歳になる祖父だった。

 そして僕はようやく気付く。

「ま、まさか……北海道!?」

 僕は祖父の家に駆け込み、電話を借りて家族へ連絡した。

 その後、家族たちは大慌てで駆けつけてきた。

 久しぶりの再会に皆が涙を流して喜んでくれた。

 事情を説明し、吹雪が収まったのを見計らって再び門(ゲート)へ向かう。

 そしてゲートを安定化させるための素材を作り上げた。

 その作業を見ていた家族には、ついでに僕の息子も紹介した。

 父さんと母さんは孫ができたと喜び、祖父母は曾孫ができたと大喜びだった。

 その後、西園寺君にも連絡した。

 どうやったのかは知らないが、彼は門(ゲート)周辺一帯に特別な権限を設定し、日本や外国の影響を受けない地域として扱えるようにしてしまった。

 ちなみに、その統治権は門(ゲート)を管理する領主に与えられることになり、結果として僕の領地になった。

 まあ、いろいろあったが。

 何とか異世界と元の世界を自由に行き来できるようになったのである。

 だが、今の僕にはそれ以上の悩みがあった。

「ノッ君、今日は向こうの世界で花見をしよう!」

「賛成! 友好の証として植えた桜も育ってきたし!」

「では、我が家から料理人を呼ぼう」

「ふふっ。じゃあ、わたしも料理を作るね」

 マイちゃん、村松さん、ユエ、椎名さんが花見計画を立て始める。

 すると反対側から声が上がった。

「いえいえ。今日は旦那様の世界で行われる雪まつりというものを見に行きましょう」

「いいわね! 私たちの国には雪がないもの!」

「私も賛成です」

 セリーヌ、パリュサ、エリザさんも負けじと主張する。

 ちなみにパリュサがここにいるのは、セリーヌの妊娠を知ったライオルダルク陛下が、強引に押し付けてきたからである。

 なお、雪まつりはまだ開催されていない。

 つまり彼女たちは、ただ観光したいだけだ。

「はぁ……雪まつりはまだ先だよ」

「どうせ観光したいだけだろう」

「それなら花見の方がいいでしょう。桜が咲いている今しかできないのだから」

「そうだそうだ!」

「あら? そちらこそ元はこちらの世界の人間ではないのに、どうしてこちらで花見をするのですか?」

「それに花見なんて、どこでやっても同じだろう?」

「そうね。結局、お酒を飲んで騒ぐだけなのだから」

 僕を挟んで両陣営が睨み合う。

 火花が飛びそうなほどの空気だ。

 僕は深々とため息を吐いた。

「ああ……疲れる」



 決戦前夜で起きた事。

 天城は本陣から少し離れた場所に立っていた。

 腕を組み、指先で二の腕を軽く叩いている。その様子は、まるで誰かを待っているかのようだった。

 そうして待つこと数時間。

 ようやく人影が現れた。

 その姿を認めた瞬間、天城の顔がぱっと明るくなる。

「良かった。来てくれたんだ」

「……何か用?」

 心底面倒そうな声を返したのは椎名だった。

「あ、あのさ。明日は決戦だろ? だから、その前に君に言いたいことがあって」

「ふーん。そう」

 椎名は興味がないのか、前髪を指で弄りながら適当に返事をする。

 そんな態度にもめげず、天城は意を決したように口を開いた。

「椎名さん。ずっと好きだったんだ。この戦いが終わって、生き残ることができたら、僕と付き合っ」

「嫌」

 言い切る前に、椎名は即答した。

 あまりにも迷いのない返答だった。

 言い終える前に振られた天城は、しばらく言葉を失う。

「用事はそれだけ? それじゃ」

 椎名は踵を返した。

 その背中に向かって、天城はか細い声を投げかける。

「……どうして?」

「どうしてって?」

 椎名は振り返りもせず答えた。

「そんなの決まってるでしょう。わたしには好きな人がいるの。それに、あなたのことは好きじゃないから」

「……俺じゃ駄目なのか?」

「ええ、駄目よ」

 あまりにもはっきりした返答に、天城は肩を落とした。

 それでも諦めきれずに問いかける。

「……じゃあ、猪田はいいのか?」

 その言葉に、椎名の眉がぴくりと動いた。

「あいつはいい奴だ。それは認める。でも、あいつが君をどう思っているか分かってるのか?」

「知らないわ」

「だったら」

「でも」

 椎名は天城の言葉を遮った。

「そんなこと、あなたには関係ないわ」

「っ!?」

 その瞬間。

 椎名の身体から溢れ出した凄まじい圧に、天城は思わず言葉を呑み込んだ。

 そして椎名は、とても優しい笑顔を浮かべて言った。

「あなたにも、猪田君の良いところを教えてあげる」


 それから数時間後。

「イノタハスバラシイ……イノタハスバラシイ……イノタハスバラシイ……」

 目から光を失った天城が、虚ろな声で延々と呟き続けていた。

 そんな様子を満足そうに眺めていた椎名は、パンッと手を叩く。

 すると天城はぴたりと呟くのを止めた。

「じゃあ、猪田君に相応しいのは誰?」

 椎名は満面の笑みで問いかける。

「ハイ。イノタニフサワシイノハ、シイナサンデス」

「そう。良かった」

 椎名は嬉しそうに頷いた。

「猪田君の素晴らしさを理解してくれて嬉しいわ。それで、お願いがあるんだけど」

「ナンナリト」

「わたしと猪田君が上手くいくように協力してね」

「ハイ」

「それと、猪田君を守ってね」

 そこで椎名は少しだけ笑みを深めた。

「たとえ、あなたが死ぬことになっても」

「ハイ。ワカリマシタ」

「うん。それじゃ、よろしくね」

 満足そうに微笑むと、椎名は背を向けた。

「じゃあ、わたしは先に戻るわ」

 そう言い残し、椎名は上機嫌な足取りで本陣へと戻っていった。

 一人その場に残された天城は、

「イノタハスバラシイ……」

 と、小さく呟いていた。

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