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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

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第101話 断罪の時間

 天城視点。


 猪田が転移して消えた直後、天城は剣についた血を布で拭い取った。

「ふっ……負け惜しみかどうかは知らないが、お前の予想通りにはならないぞ、猪田」

 証拠となる血痕は消えた。あとは布を燃やすだけでいい。

 これで猪田を殺したと思われる証拠は無くなった。

 魔王との戦いが終わり、一息ついていると下から誰かが上がって来た。

 二人は満身創痍ながら生きていた。

 遠山は四魔将「巨山」を倒したが、武具はすべて壊れたらしい。

 西園寺が相手をしていた「疾風」は戦闘の途中で手を止め、「陛下、後の事はお任せください」と言い残して姿を消したという。

 オレは、猪田を殺した事実を隠しながら、魔王討伐の経緯を語った。

 部屋には瓦礫と、猪田が使っていたグレイヴだけが残されていた。

 壁に突き刺さったグレイヴの下には血が広がっている。

 二人がどこまで信じたかは分からない。

 だが、魔王が倒れ、猪田がいないという事実だけは確かだった。

 階段を降りると、壁にもたれかかる斉藤を見つけた。

 四魔将「輪撃」のコゲンツナは大穴を開けて死んでおり、斉藤は未完成の技「星皇一殺」を使った反動で四肢が動かない状態だった。

 オレが斉藤を背負い、三人は王宮を出た。

「良い奴だったんだけどな」

「……ああ、良い奴だったな」

 歩きながら、遠山と斉藤は猪田の死を悼んだ。

 しかし、猪田のおかげで帰還方法を聞き出せたことを知り、二人は少しだけ顔を明るくした。

 やがて、王宮を出る。

 すると俺達は連合軍の兵士達に出迎えられた。

 戦況はどうなったのかと聞くと、敵の奇襲などがあったが何とか退け、その奇襲部隊を指揮していた四魔将を椎名さんが討ち取ったそうだ。

 魔人族軍の兵は一人も降伏することなく、討ち死にしたそうだ。

 オレが魔王を討ち取ったと宣言すると、連合軍の兵士達は歓声をあげた。

 そして各軍団の将軍達と共に、本陣に戻り、王女様にオレ達がした事と、猪田がこの場に居ない理由を全て話した。

 それを聞いて、王女様は「そうか」と言って従者を呼んで、何事か命じた、従者は一礼してテントから出て行った。

 王女は静かに酒瓶の蓋を開け、地面に酒を流した。

「安らかに眠れ。我が義弟よ」

 猪田が第二王女の婚約者だったことを知り、驚いた。

 その夜、王女の許可で兵士たちに酒が振る舞われた。

 獣人族の王が声を張り上げる。

「偉大なる大賢者にして、我らの良き友人であったターバクソン男爵に!」

 兵士たちも続き、酒を地面に流した。

 泣く者もいた。

 猪田がいつの間にか多くの者に慕われていたことを知った。

 翌日、オレ達は帰還魔法の書物を探し、図書館で発見した。

「召喚した物を帰還させる魔法」と記された書物には複雑な魔法陣が描かれていた。


 数日後、王都へ凱旋。

 三ヶ月ぶりの帰還に都の人々は歓声を上げた。

 謁見の間で王女が遠征の結果を報告し、王は魔王討伐を称賛した。

 猪田の死を聞くと、王は顔を覆い悲しんだ。

 褒賞として、クラスメートには大量の金貨が、オレには宝石を散りばめた短剣が授けられた。

(猪田、見ててくれ。お前の代わりに椎名さんを幸せにするからな)

 その時、羽ばたきの音が響いた。

 あの三本足の烏、あれは確か猪田が肩に乗せていた烏じゃないか。

『やれやれ、ここまで来るのに随分と時間が掛かったわ』

 そんな声が聞こえてきた。

 その声が聞こえた方を見ると、烏が居た

『ふむ。察するに、今は丁度凱旋したばかりといった所か』

 この烏喋れるのか⁉ 

 ま、まずい。あの烏、確か猪田を殺した時も肩に止まっていた。

 猪田と一緒に転移されたので気にしていなかったが、まさか喋れるとは思わなかったので、特に何もしていない。

 もし、オレが猪田を殺した事を話されたら‼

 そう思うと、オレは立ち上がり、腰の剣を抜いた。

 すると。王女様がオレに怒鳴る。

「慮外者がっ、誰の許しを得て剣を抜いた‼」

「っ⁉ す、すいません」

 って、今は謝っている場合じゃない。

 あの烏を仕留めないと、そう思っていると、烏は王様の玉座の肘掛けに止まる。

「ふむ。この烏は見た事があるな」

『それは当然であろう。我は猪田の肩に止まっていたのだからな』

「おお、男爵の使い魔であったか」

『使い魔か、まぁ、そうゆう風に見せていたのだから、そう思うのも仕方がないか』

「して、烏よ。お主、ここに何用で来た?」

『決まっている』

 烏が僕を見て、羽で指差す。

『そこに居る薄汚い卑怯者の断罪の為に来た』

 謁見の間は凍りついた。


 西園寺視点。

『そこにいる薄汚い卑怯者を断罪しに来た』

 猪田の使い魔である烏がそう告げた瞬間、謁見の間に雷が落ちたような衝撃が走った。

 卑怯者の断罪。

 その言葉を聞いたとき、俺は直感した。

 やはり猪田を殺したのは天城なのではないか、と。

 魔王の間に到着したとき、天城はこう説明していた。

『魔力を込めたグレイヴを魔王に投げて倒したと思い近づいたら、魔王が猪田に攻撃して猪田が死んだ。その後、魔王は黒い砂になった』

 だが、あいつは用心深い。

 武器もない状態で、まだ死んだか分からない魔王に近づくとは思えない。

 それに──猪田の死体がない。

 魔王が魔法の代償で砂になるのは分かる。

 だが猪田は違う。魔王の攻撃で死んだなら、死体は残るはずだ。

 死体すら残らないほどの威力なら、周囲に痕跡が残るはずだが、それもなかった。

 だから俺は考えた。

 天城が猪田を殺し、何らかの手段で死体を隠したのではないか、と。

 動機はある。

 猪田が死ねば雪奈を口説ける。

 実際、王都に戻るまでの間、天城は雪奈にしきりに話しかけていた。

 雪奈は好きな男を失ったショックで、目の焦点が完全に死んでいた。

 傷心の女に優しく声をかける。

 傍から見れば気遣いだが、俺には違うように見えた。

 いきなり口説くのではなく、少しずつ距離を詰め、信用させ、いずれ落とすつもりなのだと。

 だが雪奈はほとんど反応しない。

 元々天城を嫌っていたからな。

 天城は気づいていないようだが。

 内心、哀れな奴だと思っていた。

「それで、烏よ。何故アマギ殿が卑怯者だと言うのだ?」

 バァボル陛下が静かに問いかける。

 魔王を討ち取った者を卑怯者呼ばわりされても、王は平然としていた。

『この者は好いた女に振られた腹いせに、我が契約者を殺し、魔王討伐の手柄すら奪った狡賢い卑怯者よ』

「な、なにを根拠にっ」

 天城の顔が青ざめる。

 これは、何かあるな。

『では証拠を見せてやろう』

 烏がそう言った瞬間、謁見の間が暗転した。

 ざわめきが広がる中、闇の中にパネルのような光が浮かび上がる。

「これは……?」

『我が見たものを映像として見せてやろう』

 パネルに魔王の間の映像が映し出された。

 魔王との激戦。

 猪田の援護を受けながら戦う天城。

 片腕を切り落とした瞬間、戦局が一変する。

 そして──猪田が魔力を込めたグレイヴを投げ、魔王の胸に大穴が開いた。

 魔王は壁に縫い付けられたように立ち、黒い煙を吐きながら敗北を認め、砂となって消えた。

 その直後だった。

 猪田が喜びの声を上げた瞬間、背後から天城が近づき、その背中を刺した。

 謁見の間の空気が凍りついた。

『ど、どうして……こんなことを……』

 血を吐きながら猪田が問う。

『お前が邪魔だったからだ』

 天城は淡々と答えた。

 俺は怒りを必死に抑えながら映像を見続けた。

 天城は続ける。

『お前がいると、オレがただの引き立て役になる。内政でも戦場でも外交でも、各種族から高く評価されているのに、オレは何も評価されない。逆に失敗ばかり責められる。全部、お前が功績を立てすぎるせいだ!』

 責任転嫁も甚だしいぞ。

 そして天城は懐から「転移(テレポート)の魔石」を取り出し、猪田に投げ渡した。

『不良品だ。どこに飛ぶか分からない。海か、地中か……ただ一つ言えるのは、もう二度と会うことはないってことだ』

 猪田は弱々しく笑い、魔石の光に包まれた。


 場面は何処かにへと変わる。

『此処は龍の巣(ドラゴン・ネスト)だ』

 烏が教えるのを聞いて、この場に居る者達は耳を疑っていた。

 そこから先は、猪田の最後の願いと、烏による封印の場面が続く。

 そして映像は途切れた。

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