第100話 ここが僕の終端
光が収まると、僕は先ほどの王宮とはまるで違う、デコボコした地形の上に立っていた。
空が見える。
どうやら地中ではないらしい。
「こ、ここは……?」
周囲を見渡しても、見覚えのある場所はどこにもない。
つまり、僕が来たことのない土地だ。
天城君が言っていた。
『その魔石は何処に転移するか分からない不良品だ。海か、土の中か、俺にも分からない』
――本当にランダムで飛ばされたらしい。
近くに人里があることを期待するのは、希望的観測だろう。
魔力は尽きて傷も回復できない。
万事休すだ。
『お主、このままだと死ぬぞ?』
まさか一緒に飛ばされているとは思わず、バズヴの声に驚いた。
「ど、どうして……ここに?」
『我が契約者なのだからな。最期くらいは看取るのも一興だと思ってな』
義理堅いのか気まぐれなのか分からないが、ついて来るとは酔狂すぎる。
でも、最期を誰かに看取られるのは……正直、ありがたい。
「……ここはどこか、わかる?」
『ここか。ここは龍の巣じゃ』
「な、なんだって……ぐふっ」
バズヴの言葉に思わず声を上げ、吐血した。
龍の巣。
竜人族と天人族の領地の境界にある山の名前。
その名の通り、龍の住処だ。
龍――知性を持ち、「龍魔法」と呼ばれる特殊な魔法を使う魔獣。
自尊心が強く、人を乗せることは滅多にない。
竜――知性がなく魔法も使えない魔獣。こちらは乗り物として使われる。
つまり、知性があるのが龍。
知性がないのが竜。
そして僕は今、その 龍の巣 にいる。
このままでは、龍のブレスで黒焦げになるか、噛み殺されるかのどちらかだろう。
龍に見つからなくても、この傷では出血多量で死ぬ。
「さ、さすがに……くろこげになるまで焼かれるか……龍に食われて胃袋の中で溶かされるのは……いやだな」
『では、どうする?』
「仕方ないから……こうする」
僕は懐から小さな筒を取り出した。
『それは?』
「ある魔法が入っている……魔法の筒さ。名称はまだ決めてないけど」
『その筒の中には、どんな魔法が入っているのだ?』
「魔法の名前は……『クリスタル・シールド』」
『水晶封印とな。封印系の魔法か』
「これはね……魔王を倒せなかった場合を想定して作ったんだ。魔力が尽きても使えるように、この筒に魔法を封じてある」
『成程。それで、その筒を見せるのはどういう事だ?』
「簡単だよ……その魔法を僕に使って、僕の身体を封印してほしい」
『何故、そんな事をする?』
「さっきも言ったけど……焼き殺されるのも、龍に噛み殺されるのも……ごめんだよ」
『それで、この筒の魔法で封印されると?』
「お願い……できるかな?」
『我が契約者の最後の願いだ。聞き入れてやろう』
「……ありが、とう……」
『それで、これはどう使うのだ?』
「鎖を引くと魔法が発射される。先端を僕に向ければいいよ」
『分かった。他に何か言いたい事はあるか?』
「……まいちゃん……ゆえ……しいなさん……むらまつさん……えりざさん……そして……セリーヌ王女に伝えて……くれ……やくそく……まもれなくて……ごめ……ん……って……」
そこまで言って、僕は意識を保てなくなり、目を閉じた。
バズヴ視点
動かなくなった契約者を見て、我は一時だけ目を閉じた。
今まで多くの者と契約を結んだが、この者ほど気に入った者はいなかった。
いずれ、この世界で何かしらの種族として生まれ変わるだろう。
縁があれば会えるであろうな。
『さて、契約者の最期の願いだ。とはいえ、この姿のままでは鎖を引くことも出来ぬな』
仕方がない。変化の魔法を使うか。
こやつには秘密だったが、実は変化の魔法で姿を変える事が出来る。
あまり知られていないが、我のような神使は様々な姿に変えて、現界する事がある。
我は変化の魔法で、烏から人の姿に変わった。
『ふむ。久しぶりだな。ここのところ烏の姿でいたが、やはりこの姿も良い』
身体の調子を確認し、契約者の言葉通りに筒の鎖を引く。
透明な魔法弾が発射され、契約者に当たると、水晶が幾つも生まれ、身体を包み込む。
やがて大きな水晶となり、その中に契約者の身体が収まった。
『これで良いのだろう、契約者よ』
死んだはずなのに、契約者の顔が微笑んだように見えた。
『ではな。輪廻の輪を巡った先で、生まれ変わった姿でまた会おうぞ。我が契約者――猪田信康よ』
我は再び烏の姿に戻り、飛び立った。
本人は恨み言一つこぼさなかったが、少々腹が立つことをしてくれた奴に、仕返しをしてやるとしよう。




