第99話 遂に魔王を討ち取った‼ しかし
僕と天城君の連携攻撃で、少しずつではあるが魔王を追い詰めていった。
片手しかない状態なのに、この魔王強すぎでしょう。
もし手を切り落としていなかったら、僕たちは負けていたかもしれない。
『敵を前にしてそんなことを考えるとは、余裕じゃな?』
バズヴがそう言ってくるが、返事をする余裕などない。
一杯一杯なんだからね。
というか、もし魔王を倒せなかった場合の保険は考えていたから、そこは大丈夫なんだ。
『いつの間にそんな手を考えていたのやら』
ここに来る前に、かな。
まあ見せることはないからいいとして、今は戦闘に集中しないと。
天城君と僕の攻撃でも、魔王はびくともしない。
このままだと魔法強化の効果も、僕の魔力も尽きる。
どうしたものか。
「猪田、俺に良い考えがある」
天城君が攻撃の手を止めて僕のもとへ来た。
「なに、天城君?」
「今から魔法を放て」
「ふむ。それで?」
「当然、魔王は迎撃するだろう。そこで・・・こうするわけだ」
「なるほど。このまま攻め続けて味方を待つよりはいいね」
「ああ、任せたぞ」
「分かったよ」
天城君が離れる。
魔王は僕の顔を見て鼻で笑った。
「何か考えているようだが、所詮は小手先の知恵。そんなもので私を倒せると思うな、百年早いわ!」
うん。魔王が言うと死亡フラグにしか聞こえない。
まあ、倒させてもらいますけど。
「これでも喰らえ――『爆炎』!」
魔王の周囲に火種が生まれ、次々と弾けて爆発した。
魔王は煙に隠れる。その瞬間を狙って天城君が切りかかる。
「これで終わりだ!」
だが魔王は見えないはずなのに、剣を難なく受け止めた。
「二度も同じ手が通じると思うな、小童!」
鍔迫り合いになる二人。
天城君は笑みを浮かべた。
「? 何が可笑しい?」
「ふっ、俺の作戦通りの展開になったからさ」
「なにっ⁉」
「今だ、猪田!」
そこで僕を呼ぶのは普通ダメだと思うけど……まあいいか。
「魔力はこれくらいでいいかな」
僕はグレイヴに魔力を込め、跳び上がって投擲の構えを取る。
「これで終わりだ――『勝利をもたらす槍』!」
魔力を込めた槍は真っ直ぐ魔王へ飛ぶ。
本当はゲ○ボルグって言いたかったけど、色々と問題なので、少し名前を変えた。
片手しかない魔王は防げない。
これで決まりだ。
「ぐ、ぐうおおおおおおおっ⁉」
魔王は魔力障壁を張ったが、槍はそれを貫き、魔王の胸をも貫いた。
魔王は玉座を突き破り、壁に叩きつけられてようやく止まった。
僕は確認しようと歩き出すが、足が縺れて転びそうになる。
『魔力切れだな。少し休んだらどうだ?』
「いや、ちゃんと確認してから休むよ」
魔王のもとへ行くと、槍に胸を貫かれたまま壁に縫い付けられていた。
「ぐふっ、見事だ……どうやら、私の負けのようだ……」
「そうですね」
身構えていたが、魔王の身体から黒い煙が出始めた。
「な、何だ?」
「『魔王の軍勢』は魔力で兵士を生み出せるが、代償として生命を削る魔法なのだ」
「生命を……そこまでして勝ちたかったのか?」
「違う。私の最後の意地だ」
意地? ここで意地を張って何があるのやら。
「そういえば、首都には非戦闘員がいなかった。何故だ?」
「我が国の民は既に、この大陸を出て行ったわ」
ユエが言っていたことが本当になったのか。
「東の海を渡り、新大陸へ向かった。今さら追っても遅い」
「だろうな。そのための時間稼ぎだったわけだ」
魔王は笑い、身体が黒い砂になり始める。
「いせかいから来た者よ……名はなんという?」
「猪田信康」
「イノータ・ノブヤスか……最後の相手だ……死んでも忘れぬ」
「魔王、もう一つ。王宮には僕たちが元の世界に帰る方法を記した書物はあるか?」
魔王は唇を震わせながら答えた。
「ある……王宮図書館に、異世界から来た者の帰還方法を記した書物が……ある」
「そうか、良かった」
これで皆帰れる――そう思った瞬間。
ドスッ。
背中から何かが突き刺さり、心臓を貫いた。
「えっ?」
振り返ると、そこには天城君がいた。
「ど、どうして……」
答えず、天城君は剣を捩じり、傷口を広げる。
僕は口から血を流しながら倒れ、仰向けになった。
魔力はもうない。回復できない。
死ぬ前に、どうしても聞きたいことがある。
「どうして……こんなことを……したんだ……あまぎ、くん」
天城君は答えた。
「お前が邪魔だったからだ」
邪魔、そうか。
「……しいなさんを……すきなのは……しってたよ……」
天城君は椎名さんに告白したが、酷い言葉を返されたらしい。
そして僕への嫉妬が積もり積もった結果がこれか。
「こんなこと……しなくても……告白すれば……よかったじゃないか……」
「したさ。決戦前夜にな。でも答えは」
「のーだったの?」
「それより酷かった」
天城君は顔を歪める。
「それだけじゃない。お前がいると、俺はただの引き立て役になる!」
「ひきたて……やく……?」
「内政でも戦場でも外交でも、お前ばかり評価される。俺は失敗ばかりあげつらわれる。全部、お前が功績を立てすぎるせいだ!」
僕はバズヴに念話するが、魔力はもうない。
「これから……どうするんだ……? ばれる……とおもうよ……」
「ちゃんと考えてる」
天城君は懐から魔石を取り出した。
「『転移の魔石』だ。死体がなければ、誰も俺が殺したと思わない」
魔石が僕の胸元に落ち、光り始める。
「不良品で、どこに飛ぶか分からないらしい。海か、地中か……ただ一つ言える」
天城君は楽しそうに笑った。
「もう、俺とお前は二度と会わない」
「たしか……にね……」
光が強くなる。
「じゃあな、猪田。正直、お前のこと嫌いじゃなかったぜ」
「そう……じゃあ……さいごに……ひとこと……」
「何だ?」
「ぼくを……ころしても……しいなさんを……すきにさせるのは……むずかしいと……おもうよ……」
言い終えると、光が視界を奪った。




