第98話 魔王が言うと、テンプレに聞こえない。
「はぁっ‼」
天城君が魔法で生み出された敵兵を斬り伏せる。
斬られた兵士は床に崩れ落ち、黒い瘴気となって消えた。
だが、どれだけ倒しても魔王の元へは辿り着けない。
「くそっ、キリがないな」
「そうだね」
僕も魔法で倒してはいるけれど、一向に減る気配がない。
どうしたものだろうかと考えていると。
「どうした? 足が止まっているぞ!」
魔王の手から光弾が放たれた。僕たちは横へ跳び、辛うじて回避する。
兵士の相手をしながら魔王の攻撃にも注意を払わなければならず、神経がすり減る。
「むっ⁉」
光弾を放っていた魔王が、突然攻撃を止めた。
どうしたのだろう?
「ふむ。オサーブマがやられたか」
オサーブマ。その人が四魔将最後の一人か。
やられたということは、誰かが倒したのだろう。
「どうやら、お前達は我らを侮ったようだな」
天城君は剣を構え、挑発するように言い放つ。
魔王は鼻で笑った。
「ふっ、良い気になるな。オサーブマは四魔将の中で最弱よ。他の四魔将を含め、貴様ら如きが我らに敵うはずがなかろう」
……テンプレ台詞を言われると、逆に虚勢に聞こえるのは何故だろう。
本当に弱いなら、なぜ四魔将に入れたのか。ぜひ聞きたいけれど、教えてくれないだろうな。
「猪田、このままじゃジリ貧だ。何か策はないか?」
敵の攻撃を華麗に躱しながら天城君が近づいてくる。
この状況で使える作戦……うーん、良い案が浮かばない。
「部下の仇の前に貴様らを倒し、奴の供養にしてやろう。『闇の波動』」
魔王の魔法で生み出された兵士達が黒い霧となり、魔王の手へ吸い込まれていく。
その構えはまるでカメ〇メ破のようだ。
魔王の魔法が放たれた。
「くっ、魔王がカメ〇メ破を放つなんてっ」
「いや〇メハメ破じゃないと思うよ、あれは⁉ ってそんな事より守らないと!『守護防壁』」
僕は魔王の魔法を防御魔法で受け止める。
「く、くうううううっ⁉」
凄まじい衝撃で吹き飛ばされそうになるが、何とか耐えた。
魔王の魔法が終わると、周囲の壁や床はえぐれ、見るも無残な状態になっていた。
「……すさまじい威力だな。カメハ〇破」
「威力は確かにすごいね。でも、これで攻略手段が思いついた」
「何? 本当か?」
「うん。作戦はこうしよう」
僕は天城君の耳元で作戦を伝える。
「よし、それで行くぞ。援護は任せた」
「OK。任せて」
天城君が兵士達へ突撃する。
「やぶれかぶれの突撃か? ふっ、無駄な事を」
魔王が手を翳すと、黒い瘴気が次々と兵士の形を成す。
「わたしの魔力が続く限り、この兵士達は幾らでも生み出せるぞ」
「そうだ。だから倒しているんだ!」
「何だと?」
天城君の言葉に魔王は眉をひそめる。
「要は、この兵士達もお前の魔法で生み出しているんだろ?だったら、倒し続ければいずれ魔力が尽きる。そうと分かれば、倒し続けるだけだ!」
「む、無駄な事を。わたしが出せなくなる前に、お前の体力が尽きるわ!」
「それはどうかな」
僕が口を挟む。
「ここだけならそうかもしれないけど、首都全域に『魔王の軍勢』が展開している。つまり、かなりの魔力を使っているはずだ」
魔王は沈黙した。
その沈黙が答えだ。
「だから」
天城君は兵士を斬り捨て、剣先を魔王へ向ける。
「こうして倒していけば、お前の魔力は減っていく。外の連合軍も同じように兵士を倒している。補充する先から倒されれば、いずれ魔力は尽きる!」
「ぬうっ、おのれ!」
天城君は勢いよく兵士達を斬り伏せていく。
魔王は魔法を解除すれば王宮へ連合軍が雪崩れ込むため、解除できない。
しかし使い続ければ魔力が尽きる。完全な悪循環だ。
「ならば、さっさと片付けてくれるわ!」
魔王が再び魔力を集め始める。
兵士達が瘴気となり、魔王の手へ吸い込まれていく。
「これで終わりだ‼」
魔王が構えを取る。僕も魔法を準備する。
「ふふふ、この日のために開発した魔法を見せてあげよう!」
僕の身体が光り輝く。
「『天と地よ、火と水よ。今こそ顕現せよ』」
赤・青・白・黒の四つの玉が周囲に浮かび上がる。
「『四方より、交われ』」
四つの玉が交わり、一つの金色の玉となる。
「ふん、どんな魔法か知らんが遅いわ。受けよ『闇の波動』!」
魔王の魔法が放たれた。
僕も同時に魔法を放つ。
「いくぞ!『恒星破壊』!」
金色の魔法と闇の魔法が激突し、衝撃波が周囲を破壊する。
「ん、ぬぐうううっ」
「くううううううう」
押し負けそうになる。
魔王はさすが魔王というべき魔力量で、僕の魔法を押し返してくる。
(まずい、このままだと押し負ける!)
その瞬間。
「もらったああああああっ!」
天城君が魔王の横から飛び込み、腕を斬り落とした。
「な、なにいいいいいっ⁉」
魔王は片腕を失い、魔法が掻き消える。
「今だ!」
僕の魔法が魔王を包み込む。
「ぐ、ぐうおおおおおおおおおおっ‼」
金色の光が魔王を飲み込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
魔力を使い切った僕は、肩で息をしながら煙の向こうを見つめた。
隣では天城君が剣を構え、魔王の姿を探っている。
しかし、煙の中から魔王は現れない。
「……やったか?」
あっ、それ言っちゃうのか。
この場面でその台詞はフラグだよ、天城君。
「なめるでないわ~~~~‼」
怒号とともに剣が振るわれ、風圧で煙が一気に吹き飛ぶ。
晴れた先には──片腕を失いながらも、なお毅然と立つ魔王の姿があった。
傷口からは赤い血が流れ続けているのに、魔王は痛みを一切気にしていない。
その姿は、正直に言って恐ろしくもあり、同時に凄まじい執念を感じた。
「わたしは魔王ツシカーヨロウリだ! そう簡単に倒せるとは思うな!」
「流石は魔王。だが」
天城君は柄を握り直し、気迫を込める。
「オレ達も負けるつもりはない。この世界の人達のためにも、故郷で帰りを待っている人達のためにも。魔王、お前を倒す‼」
「吼えるだけなら犬でもできるわ! その言葉が本物ならば、わたしを倒して証明してみせよ‼」
「いくぞおおおおおおっ‼」
「こいっ‼」
天城君と魔王の剣が激突した。
衝突の余波が部屋中を駆け抜け、僕の身体にも襲いかかる。
吹き飛ばされそうになるのを必死に耐えると、二人は刃を重ね合わせていた。
甲高い金属音と火花が散り、一合、二合、三合。
互いの剣がぶつかり合うたび、空気が震える。
僕はただ見守るしかなかった。
魔力は尽き、援護もできない。
この距離に割り込めば、天城君の邪魔になるか、即死だ。
だから、ただ見続ける。
剣技では天城君が優勢だ。
切り返し、フェイント、連撃──技の冴えは魔王を上回っている。
だが、パワーは魔王が圧倒的だ。
片腕とは思えない膂力で、天城君の技を正面から受け止めている。
(片手で剣を振っているのに、力で押し返すなんて、何て膂力だ)
このままでは天城君が押し負ける。
何か手はないかと焦っていると、羽音が聞こえた。
周囲を見回すと、僕の肩にバズヴが止まった。
「今度はどこに行っていたんだ?」
『ふむ、ちょっとな』
こんな最終局面でどこかへ行けるバズヴ、普通にすごい。
・・・いや、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「バズヴ、少しでいい。魔力を僕に回してくれないか?」
『何かに使うのか?』
「今、戦ってるクラスメートを援護したいんだ!」
『あい、分かった』
バズヴが魔力を僕へ流し込む。
『これくらいで良いか?』
「ありがとう・・・って、随分くれたな⁉」
かなりの魔力だ。
これなら十分援護できる。
「まずは──『筋力増強』『速度増強』『自然回復』!」
天城君へ三つの強化魔法を掛ける。
どれも上級魔法で、効果は絶大だ。
「続いて──『魔法の矢』『雷弾』!」
追尾する魔法を二つ放つ。
矢と雷弾は魔王へ向かって飛ぶ。
「ちょこざいなっ!」
魔王は剣で魔法を弾き飛ばす。
よし、注意が僕へ向いた。
今だ、天城君!
「くらえええっ!」
「しまっ──!」
天城君の袈裟懸けが魔王の体を切り裂く。
「ぐうっ・・・おのれ!」
左肩から右脇腹まで深く斬られた魔王。
だが、まだ倒れない。
斬られた瞬間に後方へ跳び、致命傷を避けたのだ。
「ふぅ、ふぅ・・・よしっ!」
一撃を入れられた天城君は息を弾ませながらも喜ぶ。
その姿に、魔王は怒りを露わにした。
「図に乗るでないわ、貴様らっ‼」
「猪田、援護は任せるぞ!」
「分かった!」
天城君は攻撃に集中し、僕は援護に全力を注ぐ。
二対一は卑怯かもしれない。
でも、戦場に卑怯も何もない。
勝つために、できることをすべてやるだけだ。




