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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

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第92話 開戦

 伝令の報告を受け、僕たちは先陣へ向かった。

 防御陣地はまだ建造途中で、周囲には柵に使う木材や逆茂木が雑然と置かれている。その中でカシュー戦士長を探すと、すぐに見つかった。

「姫様っ」

「カシュー、魔人族の者はどこにいる?」

「あちらにおります」

 指差した先、陣のすぐ傍に角の生えた白髪の壮年男性が立っていた。

 白い肌、米神から牛のような赤い角。瞳は黒く、その中心だけが金色に輝いている。

「あの人が?」

「はい。魔法で突然現れ、自らをツシカーヨロウリと名乗り『連合軍の総大将と話がしたい、取り次げ』と申しておりました」

「なるほど。どうしますか、王女様」

 側近のハマーンが問う。

「どうもこうもない。話に来たのなら、話ぐらいは聞いてやろう」

 アウラ王女はツシカーヨロウリのもとへ歩み寄った。

「わたしが連合軍総大将、アウラ・エクセラ・ロンディバルアだ。そなたの名は?」

 王女の問いに、男は真っ直ぐ彼女を見て口を開いた。

「わたしが第二十代魔王ツシカーヨロウリなり。そちが総大将で相違ないな?」

「如何にも、魔王陛下」

 アウラ王女は恭しく一礼する。

「それで、魔王御自らここに来た理由を聞いてもよいか?」

「戦を始める前に、総大将の顔ぐらいは拝んでおこうと思ってな」

「ならば、会った感想をお聞きしたい」

「なかなかの強者と見た」

「……褒められたと解釈しておこう。他に要件は?」

「ならば、一言」

 魔王は少し間を置き、静かに手を掲げた。

「よくぞここまで来た。ここからは我が魔法をもって歓待してやろう‼」

 その瞬間、首都上空を覆っていた黒い霧が蠢き、散り散りとなって地面へ落ちる。

 黒い塊は地面に触れた途端、底なし沼のように広がり始めた。

 コールタールのような黒い液体から、何かが這い出てくる。

 全身を黒い甲冑で包み、盾や剣、槍、弓を持った兵士たちだった。

 赤い瞳をぼんやりと前へ向け、動かずに立ち尽くしている。

「これぞ我が魔法『魔王の軍勢(デモン・フォース)』よ。我が魔力が続く限り無尽蔵に生み出される、不滅の兵たちだ‼」

「あれ全部、魔法で……?」

「この無限の兵士の海を越え、首都を守る四魔将を倒せば、王宮の玉座への道が開かれる。見事、我が元まで来るが良い! はっはははは‼」

 魔王は高笑いを残し、転移魔法で姿を消した。

「ふっ、面白い。どうやら敵は籠城ではなく総力戦を選んだようだ」

「どうなさいますか?」

「無論、敵が総力戦を仕掛けるなら、それに応じるまで」

 アウラ王女は腰の剣を抜き、天へと掲げた。

「全軍に通達! これより総攻撃を行う。死力を尽くして城門を突破せよ!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおっ‼」」」

 命令は伝令によって瞬く間に広がり、各軍は攻撃準備を整え始めた。 


 王女様の号令により、各種族軍は一斉に首都へ向けて進撃を開始した。

 魔王が生み出した『魔王の軍勢』も、僕たちの軍が近づくにつれて動き始める。防塁で迎え撃つ者、こちらへ進軍してくる者など、黒甲冑の兵士たちはそれぞれ異なる行動を取っていた。

 首都を包囲するように攻めているため、どの軍が最初に敵と接触するかは分からない。

「伝令! 北門付近を包囲していた亜人族軍が、敵の魔法と交戦しました!」

「エルカス将軍には、逐次伝令を回すようにしろとだけ伝えろ」

「はっ!」

 まずは北門が当たったか。亜人族軍は全軍の中で兵力が最も少ない。

 包囲を崩されないよう、どこかの軍を後詰に出すか、援軍を送るべきかもしれない。

「伝令! 西門を攻略に向かった鬼人族軍が、敵魔法と交戦したとのこと!」

「レツゴウ将軍には、無理な攻めはするなと伝えろ」

「はっ!」

「伝令! 南門に攻め込んだ獣人族軍が、敵魔法と接敵し交戦とのことです!」

「ライオル陛下には、まだ初戦ゆえ自重するよう伝えろ」

「はっ!」

 次々と伝令が駆け込み、戦況を報告していく。王女様はその都度、的確に指示を出した。

「東門はまだ交戦していないようだな。どこの軍がいる?」

「東門でしたら、天人族軍です」

「天人族軍か。他の軍はすでに交戦している。そろそろ東門も動く頃合いだろう」

 そう話していると、また伝令が本陣へ駆け込んできた。

「伝令! 東門から敵軍が出撃、数は一万以上! さらに敵が魔法で同時に攻撃してきた模様! 天人族軍より至急援軍を求むとのことです!」

「このタイミングで首都の防衛軍を動かすか……いや、本陣の兵を出すのはまだ早い」

「ならば、竜人族軍を動かすしかありません」

「そうだな。竜人族のバハクート将軍に伝令。至急東門へ向かい、天人族軍を援護せよ!」

「はっ!」

「左翼を指揮するアドラーには、いつでも出撃できるよう準備しておけと伝えろ」

「は? 分かりました!」

 伝令は、なぜ左翼だけ出撃準備なのか分からず首を傾げたが、命令に従い左翼へ向かった。

(なるほど。遊撃機動戦力で各門の攻略軍を援護するつもりか)

 左翼は魔獣騎兵団、遊撃軍団、竜騎兵団の混成軍団。確かに機動力は随一だ。

 まずは北門へ向かわせるのだろうか?

 それとも兵力の多い獣人族軍を援護して南門を突破させるのか。

 王女様がどんな手を打つのか、僕にはまだ読めない。

 しかし戦線は膠着した。

 そのまま時間だけがずるずると過ぎていき、やがて夜になると敵軍は首都へ後退し、魔法の防塁も城壁付近まで引き下がった。

 それを見て各種族軍も後退する。

 初戦としては、まずまずか。

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