第90話 決戦前夜
平原に着き、全軍が集結してからの三日間は、瞬く間に過ぎていった。
三日目の夜。
夜が明ければ、いよいよ首都へ向けて進軍だ。
(今日が最後の夜か)
そう思っている者は多いのだろう。
あちこちで焚き火が焚かれ、酒を飲み、歌を歌い、ドンチャン騒ぎになっている。
クラスメートの何人かもその輪に加わり、楽しそうに騒いでいた。
僕はその騒ぎに混ざらず、明日に備えて早く眠ることにした。
自分のテントへ向かおうとしたとき、前方から誰かが歩いてくるのが見えた。
月は雲に隠れ、辺りは暗い。
松明の灯りを頼りに目を凝らすと、そこにいたのはマイちゃんだった。
「どうかしたの? マイちゃん」
「………………」
珍しいことに、声をかけても何の反応もない。
どんなに機嫌が悪いときでも返事はしてくれたのに、今日は違う。
(明日の決戦に緊張しているのかな?)
そう思っていると、マイちゃんが口を開いた。
「あ、あのさ……」
「うん」
「その……ねぇ」
「……?」
「う、う〜…………」
言い淀むマイちゃんなんて初めて見る。
そんなに緊張しているのだろうか。
「ノ、ノっくん‼」
「はい⁉」
突然の大声に驚き、思わず身体が固くなる。
「そのね。この戦いが終わったら……話があるんだけど、聞いてくれるかな?」
「話?」
「うん。話、聞いてくれるよね?」
小首を傾げて僕を見る。
「……いいよ」
「っっっっっっしゃあああああああああっ‼ 勝った‼」
「はい?」
「うんうん、何でもない。じゃあ、あたしはもう寝るね。オヤスミ〜」
そう言って、マイちゃんは自分のテントへ戻っていった。
その背を見送り、僕が少し歩くと、今度はユエが現れた。
「おお、ノブ。丁度良いところに来たな」
「ユエ、どうかしたの?」
「少し話がしたくてな」
「そう」
「ノブ、お前はこの戦いが終わったらどうする?」
「どうって……元の世界に帰る方法を探すよ。それが見つからなかったら」
「たら?」
「領地をもらっているから、そこで領主をするだけかな」
「ふっ、お前らしいな」
「ユエはどうするの?」
「わたしか? わたしは旅をするつもりだ」
「旅?」
「うむ。諸国を巡り、見識を深めたい」
「ユエらしいね」
「うむ。そのうち、お前の領地に戻って、その見識を役立てよう」
「ありがとう、ユエ」
「そして、後は少しずつ外堀を埋めていけば、いずれは(ブツブツ)」
ん? 今、聞き捨てならないことを言わなかった?
「さて、明日は早い。おやすみ、ノブ」
問いただす前に、ユエは自分のテントへ行ってしまった。




