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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

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ユエの危惧

「ふむ。ここまで上手くいくとは、流石はノブが立てた作戦か」

 北側で戦況を見守りながら、私はそう呟いた。

 ここまで順調だと、もう凄いとしか言えない。

「おお、城壁になんかよく分かんない兵器が取りついたよ〜、ユエ!」

 背中をバシバシ叩いてくるのは、もう一人の幼馴染マイだ。

 初めて会った時は、すぐに友達になれそうだと思った。

 同時に、将来は恋敵になるだろうとも。

 その予感は見事に的中した。椎名が現れるまでは、私とマイは良い意味でライバルだった。

 今では時々協力して不倶戴天の敵・椎名に対抗したり、逆にマイを囮にして他の連中を出し抜いたりしている。

「凄いね、猪田君」

 そう言ったのは、まさにその不倶戴天の敵・椎名だ。

 どうにも好きになれない。初対面から敵としか思えなかった。

 だから表面上は仲良くしているフリをしている。

 敵を知り己を知れば百戦危うからず――敵は親しくしておけ、というやつだ。

 向こうも私を敵だと思っているのか、時折、敵意を込めた目でこちらを見てくる。

「そういえば、セナッチはどこにいるの?」

「あいつなら、あそこだ」

 私は城壁に取りついた兵器を指差した。

 ちょうどその兵器が橋を城壁に下ろし、兵士たちが次々と渡っていく。

 その先頭に、ひときわ目立つ鎧を着た女がいた。

 鉄鞭と小盾を手に、城壁の兵へと襲いかかる。

「あの目立つ鎧……もしかして」

「そうだ。あれがセナだ」

「「……なんで、あんなところにいるの?」」

 二人がそう思うのも無理はない。

 私も最初に聞いた時は耳を疑った。

 理由は単純。セナが志願したのだ。

 修業で得た力を試したい、と本人は言っていた。

「うわぁ、ここから人が吹っ飛んでるの見えるわ〜、すごっ」

「何をしたら、あんな力が出るのかしら」

 セナの活躍を眺めていると、やがて城門が開いた。

 こちらの兵士たちが一斉に殺到する。

「私は行くが、二人はどうする?」

「あたしは本陣で待ってる」

「わたしもそうするわ」

「そうか。じゃあ、行ってくる」

 私は方天画戟を構え、城門へ向かった。


 城門を越えると、城内は血の匂いで満ちていた。

 人間、亜人族、魔人族の死体が地面を埋めるように倒れている。

 既に城壁の占領は終わり、戦闘は城内へ移ったらしい。

「あれ? ユエッチ、どうしてここにいるの?」

 顔や体のどこかを血に染めながら、周囲を警戒するセナが声をかけてきた。

「城内の様子が気になってな。セナは何をしている?」

「あたしは討ち漏らしの確認。兵士たちはもう中に入ってるし、天城君も行ったから大丈夫でしょ」

「天城か・・・」

 天城の名を聞き、私は眉間に皺を寄せた。

(最近、あいつの目が濁りだしてきた)

 この世界に来た当初はまともだった。

 だが鬼人族との戦争に参加してから性格が変わった。

 敵の策に嵌りクラスメートを死なせた時は、少しは大人しくなると思った。

 だが実際は違った。

 決定的に変わったのは、ノブが領地を得て一年ほど経った頃。

 鬼人族が魔人族と手を結び、人間族領に攻め込んできたのだ。

 敵は合わせて一万。こちらも一万を出した。

 戦いは小競り合いで終わりそうだったが、痺れを切らした天城がクラスメートを連れて敵陣に突っ込んだ。

 敵はそれを予想していた。

 天城たちは包囲され、救出に向かった兵士の大半が倒れた。

 共に行動したクラスメートも何人か死んだ。

 西園寺が説教し、珍しく椎名も一言だけ言った。

『皆を殺して一人だけ英雄と言われたいの?』

 虫を見るような目でそう言い、その場を離れた。

 あまりに哀れで、周囲のクラスメートは皆、天城を可哀そうな目で見た。

 その後も天城はまったく活躍できず、逆にノブは内政で、西園寺は戦場で見事な働きをした。

 軍団長たちは陰で天城を「アントレオ」と呼んだ。

 獅子の顔をした蟻の魔物――見た目だけで弱い存在の比喩だ。

 天城もそれを知っているのか、必死に頑張っているが空回りしている。

 今回も城内で味方に迷惑をかけているだろうと私は思った。

「城の中に入るが、セナはどうする?」

「あたしはこの辺を回ってるよ」

「そうか。ではな」

 私は城内へ向かった。


 城内の戦闘はほぼ終わっていた。

 時折剣戟の音がするが、すぐに止む。

 謁見の間へ向かう道には魔人族の死体が並び、道しるべのようだった。

 扉は開いており、中の様子がすぐに分かった。

 額に大きな角を持つ魔人族の将――この城の城主モゴノブが、血塗られたハルバードを構え、天城と対峙していた。

「ふむ。我を相手にここまで戦えるとは、見事!」

 モゴノブは強者だ。

 天城は油断なく剣を構え、二人の得物がぶつかるたび火花が散った。

 一合、十合と続く剣戟。

 永遠に続くかと思われたが、決着は早かった。

 モゴノブの柄が切られた。

 天城の剣を防ぎきれなかったのだ。

 天城は好機と見て剣を振り下ろし、モゴノブの左肩から右脇腹まで切り裂いた。

「ぐふっ、み、見事……がふっ」

 モゴノブは倒れた。

 天城は首筋に剣を突き立て、首を切り落とす。

「……敵将、討ち取った!」

 天城が首を掲げると、兵士たちが歓声をあげた。

 落城後、城を拠点にするため整備が進む中、私たちはノブと話していた。

「流石ノッ君。一日で落城なんて凄いね!」

「いやぁ、皆が頑張ったお蔭だよ」

 その時、視界の端に天城が映った。

 横目でノブを、まるで親の仇のような目で見ている。

 すぐに視線を逸らし、その場を去った。

(あいつ、何かよからぬ事を考えていなければいいが)

 私はなぜか、強くそう思った。

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