第87話 タカトーラル城 落城
僕は立てた作戦が上手くいき、胸の内で静かに安堵した。
五日前の会議で話したことを思い出す。
『このタカトーラル城は、二方面から包囲攻撃して落城させましょう』
僕の言葉に、将軍達は一斉に驚きの表情を浮かべた。
無理もない。城を完全に包囲するなど、勝利が確定している攻城戦でしか行わないのが常識だ。それをあえてやると言うのだから。
『男爵、城を完全に包囲すれば退路がなくなり、敵の士気が上がり無用な被害が出ます』
アルベルト将軍がそう指摘すると、他の将軍達も同じ疑問を抱いている顔をしていた。
『確かに、戦術としては避けるべき手です』
『で、あれば──』
『ですが、敵の戦略が分かっているなら話は別です』
『何と! では男爵は敵の意図が分かると?』
『その通りです。敵は時間稼ぎをしているのです』
『時間稼ぎ?』
『敵が籠城しているのは、この周辺の民を首都へ逃がすためです』
『なぜそんなことが分かるのです?』
『第一に、落とした城の近くの村に民がいなかったことです』
『戦の巻き添えを嫌って山に隠れたのでは?』
『その可能性も考え、エリザ軍団長に山や隠れられそうな場所を探索してもらいました。しかし、そこにも人は一人もいなかったそうです』
『ふむ……隠れる場所にいない以上、どこかへ逃げたと考えるのが自然ですな』
『第二に、敵が籠城したことです』
『? 籠城の何がいけないのです?』
『ここは魔人族領です。地理は敵の方が詳しいはずです』
『確かに』
『焦土作戦をするなら、籠城して自分達の位置を晒すより、土地勘を活かして局地戦をした方が効率的です。それをしない』
『むっ……言われてみれば確かに』
『以上の二点から、敵は民を逃がすための時間稼ぎとして籠城したと推測しました』
将軍達は唸りながらも納得した様子だった。
『敵の意図は分かったが、それで包囲攻撃を?』
『はい。敵は最初から時間稼ぎのために籠城しています。ならば、こちらは速攻で落城させるべきです』
『しかし二方面から攻めれば被害が増す』
『同時ではなく、時間差で攻撃します』
『時間差?』
『まず東側から攻城兵器で攻撃します。ただし兵士は城壁に取りつかせません。床子弩などを破壊し、敵の注意を東側に集中させます』
『……なるほど。敵の目が東に向いている間に北側から攻めるのか』
『その通りです。さらに北側の軍には「姿隠し」の魔法を使い、気付かれないようにします。攻撃の瞬間に突然現れれば、敵は驚き隙が生まれるはずです』
『ふむ。エルカス将軍、二個軍団を隠せるか?』
『無論可能。我らエルフ族を総動員すれば造作もありません』
『そうか……見事な計略だ。ちなみにこの計略はそちの世界では何と言う?』
『声東撃西の計です』
『東に声を上げ、西から撃つか。面白い』
──誰も異論を挟まなかった。
そして今、作戦は成功し、北側の城壁には味方が乗り込み白兵戦を展開している。
兵の数は多くないと踏んでいたが、予想通りだった。
フェアリーが伝令として飛んできた。
「北側の軍、城壁を突破し城門を開放。城内への侵入に成功。すぐ東門の攻略に移るとのことです」
「ご苦労様。こちらも攻城兵器で城門を攻撃すると伝えてくれ」
「かしこまりました」
フェアリーは飛び去っていった。
「アルベルト将軍、攻城塔を進ませてください」
「はっ。直ちに」
将軍が剣を掲げる。
「進軍せよ!」
太鼓が鳴り響き、東側の軍が整然と城門へ進軍を開始した。
僕達はその様子を後方から見守った。
兵達は城壁に取りつき、次々と登っていく。登った途端に敵兵に貫かれ落下する者もいるが、全体としては順調だ。
やがて城壁の戦闘が止み、歓声が上がる。兵達は城内へと雪崩れ込んでいった。
「敵将は降伏するかな?」
「無理でしょう。降伏するなら使者を魔法で追い返したりしません」
「そうですか」
ミルチャさんと話していると、場内から大きな歓声が響いた。
「この歓声……敵将を討ち取ったようです」
「でしょうね」
伝令の報告によれば、敵将は天城君が討ち取ったとのことだった。敵兵は誰一人降伏せず、全員討ち死にしたという。
「この城はどうするのです?」
「城内を整備し、首都への前線拠点にするでしょうね」
「そうですか」
僕は損壊した城壁の状態を確認するため、城壁へ向かった。




