第86話 タカトーラル城の戦い
「というのは如何でしょうか?」
僕の作戦を聞き、皆が唸り声を漏らした。
「確かに落城はできるかもしれぬが、そう上手くいくかのう?」
「敵が予想通りに動くとは限りませんからね」
もっともな疑問だ。しかし現状では、この作戦が最も成功率が高い。
「この作戦なら、まず間違いなく成功します」
僕が断言すると、アウラ王女とエリザさんが頷いた。
「ターバクソン男爵がそう言うなら、まず間違いないであろう」
「王女殿下がそう言うのなら大丈夫でしょう」
二人の言葉に、将軍たちも少し考えた末、賛同してくれた。
「では、作戦開始は五日後でよろしいか?」
皆が頷く。
「では、準備に取り掛かります」
将軍たちは席を立ち、準備へ向かった。僕もテントを出ようとした瞬間、裾を掴まれた。
振り向くと、顔を伏せたエリザさんが僕の裾を握っていた。
「あ、あの……エリザさん。裾を掴まれていると準備ができません」
言っても離してくれない。やがて顔を上げ、じっと僕を見る。
「・・・・・・本当にその作戦で上手くいきますか?」
「はい。大丈夫です」
「……正直に言って不安です。上手く行くか分からないので」
「その時はその時で、また作戦を立てます」
「……相変わらず策が次から次へと出てくるな、貴様は」
アウラ王女が呆れたように言う。
「これも僕の職業の恩恵だと思います、王女殿下」
敬礼すると、アウラ王女は手を振った。
「貴様はこの戦いが終わったら、正式に妹の婿になる。今は他人行儀はやめよ」
「えっ⁉ あれってセリーヌ王女の独断じゃなかったんですか?」
「側室はエリザであれば問題ない。足りなければ何人か増やしても構わんぞ」
「いやいや、流石にそれは……」
「・・・・・・増えるとしたら四人くらいだと思います?」
「四人? ああ、男爵に親しい者達がいたな」
「まぁ、もう少ししたらもっと増えると思いますけど」
「ふっ、男爵はそれだけ価値があるということだな」
アウラ王女は僕に向き直る。
「此度の戦でお前の才が分かる。存分に智謀を振るい、わたしに勝利を捧げろ」
「かしこまりました」
「頼むぞ、未来の義弟よ」
そう言ってアウラ王女も出て行った。
(……アウラ王女って意外とノリが良い性格なんだな)
そう思いながら、僕もテントを出た。
五日後
作戦準備が整い、僕たちは城門が見える位置まで進んだ。
「う〜ん、近くで見ると結構大きい城だな」
甲子園ほどの規模はありそうだ。
僕たちはタカトーラル城の東側に陣を敷いていた。
「準備は整いましたか?」
「はい、こちらは万全です」
アルベルト将軍が答える。
陣には投石車と攻城塔が数十台並び、攻撃準備は完了していた。
礼儀として、まずは降伏勧告を送る。
「誰でもいいので、城門前まで行って降伏勧告を」
エルフ三名が馬で城門へ向かい、勧告を伝える。しばらくして城壁から男が現れ、叫んだ。
「わたしはこの城の主モゴノブだ! 侵略者などに屈することは断じてせん!」
そのまま火球魔法を放ち、使者の足元で爆発。使者たちは慌てて戻ってきた。
「ご苦労様。後方で休んでいてください」
使者たちは敬礼して去った。
「モゴノブってどんな人なんです?」
ミルチャさんが答える。
「現魔王ツシカーヨロウリの弟です。前回の侵攻戦では連合軍の将を数人討ち取った剛の者です」
「武勇はあるのか。知略は?」
「性格は竹を割ったような猪だと聞いています」
「……つまり猪突猛進のような性格という事ですね?」
「その通りです」
「ああ、じゃあこの策には嵌るだろうな」
ミルチャさんが不安げに尋ねる。
「本当に上手くいくのですか?」
「敵将が猪と聞いて、確信しました」
「おおっ、流石は男爵閣下。伊達に大賢者と言われていませんね」
僕は頬を掻きながら指示を出す。
「では作戦開始。後の指揮はお願いします」
「はっ!」
アルベルト将軍が剣を抜き、号令をかける。
「攻城塔、投石車前進! 手筈通りの位置で攻撃せよ!」
角笛が鳴り響き、兵器が動き出す。
投石車が石を放ち、城壁を揺らし、弩を破壊する。攻城塔の兵士たちは魔弾銃で城壁上の兵を撃ち抜く。
ミルチャさんは驚愕していた。
「あれが魔弾銃……弓も届かぬ距離で、あれほどの威力とは」
「射程を伸ばすために威力は抑えてるけどね」
「それでも十分すぎます」
攻撃が続く中、城門が開き、騎兵五百が突撃してきた。
「敵は攻城兵器を止めるつもりだな」
「男爵様、指示を!」
「もう出してあります」
アルベルト将軍が剣を振り下ろすと、兵士たちが横一列に並び、威力重視の魔弾銃を構えた。
ドオーン‼
轟音が響き、馬が驚き、騎兵は次々と撃ち抜かれた。敵将は撤退の鐘を鳴らすが、戻れたのは半数だけだった。
「そろそろ頃合いだ。合図を」
赤い狼煙が上がる。
すると北側から連合軍が現れ、城壁に井蘭の橋を取り付けた。
「勝ったな」
「お見事です、男爵閣下」
僕は勝利を確信した。




