第85話 これは、敵も考えたな
翌日。
亜人族軍は種族ごとに部隊を分け、小城へ向けて進軍していった。
僕たち人間族の軍は陣営の防備のために残っている。
久しぶりにマイちゃん達と顔を合わせ、談笑していた。
「なんか、久しぶりに話すね」
「だよね~。ノッ君、男爵になって領地もらってから、ほとんど王宮にいなかったし」
「うむ。わたし達も一度ノブの領地に行こうと思ったが、こちらも忙しくてな」
「猪田君もずっと忙しそうだったしね」
「でもさ、その分領地がすごく発展してるって聞いたけど、本当?」
「いやぁ、都市がいくつかと村がたくさんできたくらいだよ」
「それでも昔に比べたら十分すごいじゃん」
「まぁ、頑張ったからね」
「このままノブが元の世界に帰らなかったら、男爵のままなのよね」
「そうね。だとしたら、猪田君と結婚する人は男爵夫人になるのね」
椎名さんが言った瞬間、マイちゃん達の目がピキーンと光った気がした。
僕は冷や汗を流す。
(でも、もう男爵夫人になる人はほぼ確定してるって言ったら……どうなる? エリザさんとセリーヌ王女と婚前交渉したから娶らないと駄目なんだ、なんて言ったら……戦争になるな)
いや、戦争どころじゃない。国が滅ぶ。
この四人が揃えば、それくらいできてしまいそうで怖い。
話題を変えるしかない。
「そ、そういえば天城君、久しぶりに見たけど……前と雰囲気が全然違ったね」
以前は無駄にキラキラしていたのに、この前見た時は底なし沼みたいに暗かった。
「ああ、あれはな」
「う~ん、なんて言えばいいんだろ」
「自業自得なところもあるけど、さすがにちょっとかわいそうだったね」
三人はなんとも言えない顔をしている。
だが椎名さんだけは首を傾げた。
「ユキナッチ、けっこうきついこと天城に言ったんだけど?」
「そうなの?」
椎名さんの反応を見て、三人は首を横に振る。
「哀れだ」
「流石にこれはね……」
「やば、哀れすぎて涙出そう」
三人は何か話しているが、僕にはまったく聞こえない。
ふむ。どうやら大事にはなっていないが、かなり大きな問題が起きたらしい。
僕が詳しく聞こうとした時――
「失礼します! 男爵様はおられますか!」
テントの前で兵士が大声を上げた。
「僕ならここにいますよ」
「総大将閣下がお呼びです。至急、大本営へとのことです!」
「分かりました。すぐ行きます」
立ち上がり、マイちゃん達に軽く手を振ってテントを出た。
大本営のテントに入ると、アウラ王女と各軍団長が難しい顔で地図を睨んでいた。
「お呼びにより参りました」
「来たか」
アウラ王女は椅子に座り直し、僕に向き直る。
「男爵、お前の知恵を借りたい」
「僕でよければ。何があったのですか?」
「亜人族軍から伝令が来た。城は落ちた」
「落城したのですか。では、なぜ皆さんそんな難しい顔を?」
「伝令によれば――兵士が一人もいなかったそうだ」
「一人も?」
「ああ。すべての伝令が同じ報告だ」
「……成程。そうですか」
「敵の狙いが分かるか?」
「ええ。敵は焦土作戦を狙っています」
「ショウドサクセン?」
僕は簡潔に説明した。
「敵を自国領に引き込み、補給線を叩き、限定した防衛拠点で総攻撃する作戦です」
「ふむ……では敵は補給線を叩きに来るのか?」
「その可能性もありますが、まずは落城した城の食料や井戸に毒を仕込んでいる可能性が高いです」
「そうか……」
その後、調査の結果、井戸には毒が流し込まれ、食料はなく、罠もなかったが本陣を移すのは危険と判断された。
軍議が始まると、将軍たちは東だ北だと激論を交わし、やがて罵り合いに発展した。
アウラ王女が一喝し、場が静まる。
僕は手を挙げた。
「エルカス将軍、城の近くの村には住民はいましたか?」
「いや、人っ子一人いなかった」
「ありがとうございます。これで最も効果的な作戦が立てられます」
「おおっ!」
「して、どのような作戦だ?」
僕は口を開いた。
「はい。僕が考えた作戦は――」
将軍たちは驚愕した。




