第83話 魔人族領に侵攻
朝食を終え、僕は集合場所へ向かった。
集合場所といっても、向かうのは謁見の間だ。
そこでバァボル陛下から兵権を預かる儀式が行われ、アウラ王女が今回の侵攻に際しての言葉を述べる。
その後、各種族は事前に決めた侵攻ルートに従って魔人族領へ進軍する。
(後は、人間族軍が敵首都に最速で到達して、今回の恩賞の主導権を握るだけだな)
総大将といっても、恩賞を好き勝手に与えられるわけではない。
だからこそ、誰よりも早く首都を陥落させる必要がある。
それができれば、恩賞の采配を思うように振るえる。
(そして、皆を元の世界に帰すための転移魔法が存在することを祈るしかない)
そんなことを考えながら、僕は謁見の間へ向かった。
謁見の間に入ると、主だった将たちはすでに揃っていた。
青園先生とクラスメートも数名来ているが、男子は西園寺君・天城君・遠山君の三人だけ。
女子はユエ、椎名さん、村松さんの三人だ。
さすがに全員を呼べば謁見の間に入りきらない。
だから人数を絞ったのだろう。
それと、マイちゃんがいないのは……多分、面倒くさがったのだと思う。
僕が入ってきたのに気づいたのか、椎名さんがこちらを向き、笑顔で手を振ってきた。
僕も笑顔で振り返す。
(誰も僕を呼ばなかったよね? 扉も開けっぱなしだから、入ってきたのに気づくのは難しいはずなんだけど……)
気になりつつ、他の皆にも目を向ける。
ユエはいつも通り何か考え込んでいたが、僕の視線に気づいたのか小さく手を振った。
村松さんはユエの動きに気づき、手を振っている先を見て僕だと分かると、勢いよくブンブンと振ってきた。
僕も同じように振り返す。
青園先生は小さくだが笑顔で手を振ってきたので、僕も振り返した。
遠山君と西園寺君は何か話し込んでいて、僕には気づいていない。
そして天城君に目を向けた瞬間、少しギョッとした。
彼の目が、まるで死んだ魚のように虚ろだったのだ。
そういえば、天城君を見るのは三年ぶりだ。
戦場で活躍していると聞いていたが……何かあったのだろうか。
天城君はただ前だけを見ていた。
だが、その瞳には何も映していないように見えた。
僕は自分の立ち位置に向かい、儀式が始まるのを待った。
バァボル陛下が現れると、ざわついていた空気が一気に静まった。
陛下が玉座に座り、少し遅れて宰相がその隣に立つ。
「これより、総大将任命の儀を執り行う。アウラ・エクセラ・ロンディバルア、前へ」
「はっ」
アウラ王女が一歩前に出て、玉座の前で跪く。
陛下は立ち上がり、腰の剣を抜いてその切っ先をアウラ王女の肩へ置いた。
「アウラ・エクセラ・ロンディバルアよ」
「はい」
「これより、汝に我が連合軍総大将の権を授ける。見事、儂の期待に応え、勝利を儂に捧げよ」
「はっ。このアウラ・エクセラ・ロンディバルア、身命を賭して叶えます」
「うむ。期待しておる」
陛下は剣を収め、鞘ごと抜いて両手で差し出した。
「汝には人間族軍の兵権も与える。この宝剣を持ち、儂の威光を示せ」
「はい。頂戴いたします」
アウラ王女は恭しく剣を受け取り、立ち上がって天へと掲げた。
「出陣‼ 各々の奮闘を期待する。また生きて、魔人族領の首都で会おうぞ‼」
その言葉とともに、皆が敬礼し、謁見の間を後にした。
僕は特にすることもないので、どこかで時間を潰そうかと思っていたところ、背後から声がかかった。
「ターバクソン男爵」
振り返ると宮臣が立っていた。
「王女様からの手紙を預かりました。どうぞ」
手紙を渡すと、一礼して去っていった。
開いてみると、こちらの世界の文字で一言。
『旦那様、凱旋をお待ちしておりますわ♥』
……頭が痛くなるのを必死にこらえながら、その場を離れた。
各種族軍は準備が整い次第、王都を出発していく。
最初の攻撃目標地点まで駆けるように進軍していく。
僕たち人間族軍・亜人族軍連合軍は、まだ準備が整っていないため待機中だ。
そういえば、今回の連合軍が総勢何万なのか聞いていなかったことを思い出した。
ちょうど前方からカドモスさんが歩いてくる。
「カドモスさん」
「おお、これは男爵様。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
軽く挨拶を交わし、少し雑談する。
「カドモスさんは何もしないのですか?」
「わたしの仕事はひと通り終わりましてな。部下の仕事を奪うのも副団長として問題があると思い、暇つぶしにぶらついておりました」
「はっはは。実は僕もすることがなくて、ぶらついていました」
「そうですか。お互い暇ですな。はっははは」
「はっはは、本当に」
ひとしきり笑ったあと、本題を切り出す。
「今回の連合軍は、総勢どれくらいになるのでしょう?」
「おや? 男爵は後方支援を担当していたので、知っているのでは?」
「流石にそこまで情報は入ってこなくて……」
「そうでしたか。確か、獣人族軍三万、竜人族軍三万、鬼人族軍二万、天人族軍一万五千、亜人族軍一万四千、そして人間族軍が三万五千。総勢十四万四千ですな」
「それはまた……凄い数ですね」
人間族軍が多いのは、総大将を出しているからだろう。
そう話していると、向こうから兵士が駆けてきた。
「副団長、出陣準備が整いました。直ちに陣へ戻ってください」
「あい、分かった」
カドモスさんは僕に向き直る。
「男爵様、わたしはこれで。お互い武運がありますように」
「はい、そちらも」
そう言ってカドモスさんは去り、僕も自分の持ち場へ向かった。




