第82話 翌朝
僕たちは着替えている間、互いに一言も話さなかった。
部屋を出て、セリーヌ王女が姿を消すと、ようやくエリザさんが口を開く。
「き、昨日は、その……」
「どうして、あんなことをしたんですか?」
事が済んでから聞くのはどうかと思うが、理由だけは知っておきたかった。
「……今後のためでして」
「今後?」
「もし今回の侵攻で負けたら、総大将に推薦されたアウラ王女が責任を取ることになります」
「総大将なんですから、当然ですね」
「そのとき、――あなたの在籍権が奪われるかもしれないのです」
「僕の在籍権?」
エルカス将軍とライオル陛下の顔が浮かぶ。
あの二人なら、確かに欲しがるだろう。
「でも、僕の在籍権が、今回の侵攻でできた負債を払えるほど価値があるんですか?」
「あります。十分に」
エリザさんはため息をついた。
僕はそうは思えないけどな。
「ノブヤス様が領地をもらって半年で急速に復興したのは、あなたの能力があったからです」
「と言われても、僕がしたのは金を作ったくらいで、あとは勝手に発掘されたというか、見つかっただけですよ」
「運も実力のうちと言います。それに、触媒なしの錬成魔法なんて、わたしや父上でもできません」
「そうですよね。後で知って驚きました。でも、昨日の件が僕の在籍権に何か関係が……ああ、そういうことか」
ようやく理解が追いついた。
「その顔は、分かったようですね」
「僕の子供を作って、在籍権を確保するってことですか?」
「はい、その通りです」
「でも、そんな都合よく子供ができるとは」
「この日のために、色々としてきたのです」
エリザさんは遠くを見るような目をした。
十代で子持ち確定……?
いや、収入面では問題ないけど。
「もしできていたら、元の世界に帰れないな」
この事実は、誰にも話せないな。
「まあ、そのためにこんなことをしたのですけどね」
「う〜、まさかここまでしてくるとは。それにしても僕の在籍権のために、セリーヌ王女様があんなことをするとは思わなかった」
「陛下に命令されたかどうかは知らないけど、セリーヌも乗り気でしたから」
「えっ⁉」
乗り気? セリーヌ王女が?
そんなに接点ないはずなのに。
ここ数年は僕宛に「美味しい料理やお菓子が食べたいのでレシピを送ってください」という手紙が届くくらいだ。
「・・・王女様がそんな私的な内容の手紙を送ってる時点で、もう粉をかけられてると同じですよ」
「そ、そうなんだっ、全然分からなかった」
「武運を祈ります」
言い終えると、疾風のような速さで去っていった。
僕は何も言えず、ただ見送るしかなかった。




