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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

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第80話 次の日

 宴が終わった翌日。

 朝の光が差し込み、僕は目をしばたたかせながら身体を起こした。

(もう朝か……)

 結局、昨日は一睡もできなかった。

 目を閉じるたびに椎名さんの顔が浮かんできて、眠気がどこかへ消えてしまうのだ。

 羊をいくら数えても、寝返りを何度打っても眠れない。

 むしろ目が冴えてしまい、久しぶりに眠れぬ夜を過ごした。

(何年ぶりだろう……)

 そう思いながら、部屋の洗面所で顔を洗う。

 いつもの起床時間より早かったため、手伝いの者は誰も来ていない。

 もっとも、貴族になったとはいえ、身支度のほとんどは自分でやっている。

 クレタさんに寝癖を直してもらったり、服装の最終チェックをしてもらう程度だ。

 そう思っていると、ドアがノックされる。

「誰だろう?」

 首を傾げつつ、扉を開けると入ってきたのは――なぜかエリザさんだった。

「え、エリザさん? どうしてここに?」

「おはようございます。今日は朝食を一緒に取ろうと思いまして」

「そうですか。すいませんけど、着替えたいので、誰かメイドさんを呼んでもらえませんか?」

「……僭越ですが、わたくしがお手伝いします」

「いや、エリザさんに手伝ってもらうほどでは――」

「お気になさらずに、朝食を逃しますので、急ぎましょう」

「う……じゃあ、お願いします」

「はい」

 こうして僕は、いつの間にか用意されていた服に着替え、部屋を出た。


 僕はエリザさんが用意してくれた服に着替え、部屋を出た。

 廊下に出ると、エリザさんが「付いて来てください」と言うので、そのまま後ろをついていく。

 案内された先は、王宮で暮らしていた頃に使っていた食堂よりもずっと広く、豪華な大部屋だった。

 ここは軍団長や貴族たちが食事を取る部屋らしい。

 以前使っていた食堂は、下士官や兵士たちが利用する場所だったそうだ。

「でも、僕がこの部屋を使っても良いのですか?」

「貴方は仮にも男爵なのですから、これくらいの部屋で食事するのは普通ですよ」

「う~ん……そうですか」

 何度も王宮に来ているのに、この食堂で食事をするのは初めてだ。

 少し緊張しながら部屋に入る。

 中は食堂というより、まるで高級レストランのようだった。

 テーブル同士の間隔は広く、人がゆったり歩けるほどのスペースがある。

 テーブルにはシミひとつない白いクロスが掛けられていた。

 僕たちは二人掛けの席に座る。自然と対面になった。

 やがて、メイドさんがメニューを持ってきた。

 その姿が秋葉原のメイドカフェを思い出させて、少しだけ笑ってしまう。

 僕は今日のおすすめを注文し、エリザさんも同じものを頼んだ。

 料理が来るまで、近況について話し合う。

「なるほど。魔法師団も複合魔法を使える者が増えたのですね」

「そうですね。でも使えるのは全体の一割くらいです」

「時間をかけて、使える者を増やした方が良いと思いますよ」

 魔法師団全員が複合魔法を使えるようになったら……それはもう、恐ろしいを通り越して脅威だ。

 そんな軍団を相手に攻め込む国なんて、まず存在しないだろう。

「陛下に頼まれた件はどうなのですか?」

「そっちは問題ありません」

 伝手を頼って商人たちに話をし、武具や兵糧を集めることはできた。

 あとは侵攻作戦に合わせて王都に届くよう調整すればいい。

 そうして話していると、料理が運ばれてきた。

 食べ始めると、エリザさんがフォークに刺した料理を僕の口元に差し出してきた。

「この料理、美味しいですよ」

 同じものを頼んだのに、なぜそんなことを……と思いつつ、僕は口を開けて食べた。

 そこへメイドさんがやってくる。

「ターバクソン男爵様、エリゼヴィア様。お食事が済み次第、第一会議室へお越しくださいとの言伝です」

「そう、ありがとう」

 メイドさんは一礼して去っていった。

 会議室に来いということは、いよいよ会議が始まるのだろう。

(いよいよか……これで帰る手段があるかどうか分かるな)

 三年経ったが、故郷に帰る方法が見つかるかもしれないと思うと、少しだけ胸が高鳴った。

 食事を終え、僕はエリザさんと共に会議室へ向かった。

 会議室に入ると、席はすべて埋まってはいないが、それなりの人数が集まっていた。

 どこに座ろうか迷っていると、エリザさんに腕を引っ張られ、前方の席に座らされた。

 もちろん右隣にはエリザさんが座る。

 会議が始まるまで雑談していると、左側に誰かが座った。

 顔を向けると、エルカス将軍だった。

「エルカス将軍、どうしてここに?」

 亜人族が固まって座っている場所があるのに、なぜ僕の隣なのだろう。

「いえ、未来の娘と孫娘の婿を取られるのは、さすがに問題だと思いまして」

 すいません。僕は貴方の娘と孫娘の婿にはなれません。

 あんな美人な大学生な見た目なんだけど、年上すぎるのはなさすがに無理だ。

 多分、話が合わないだろうな。

「…………」

 あれ? エリザさんがむくれ始めたぞ。

 これ以上続けると面倒なことになりそうなので、話題を変える。

「ところで、亜人族軍はどれくらい率いてきたのですか?」

「……そうですね。エルフ軍三千、ダークエルフ軍二千五百、ドワーフ軍三千、ホビット軍千五百、デザートエルフ軍三千、スプリガン軍二千、フェアリー軍千。合計一万四千です」

 ホビットは成人でも子供ほどの背丈しかない種族。

 スプリガンは亜人族では珍しい巨人族。

 フェアリーは手のひらサイズで羽の生えた小人族だ。

 本国の防衛を考えつつ、遠征軍としては十分な編成だ。

 他の種族も一万から二万の援軍を率いていると聞いている。

 そういえば、人間族はどれくらいの兵を出すのだろう。

(各軍団の精鋭を選抜して二万にまとめるつもりなのかな?)

 そのあたりは今日の会議で分かるだろう。

 そうして話していると、まだ来ていなかった種族の将や王国軍団長たちが席に着き始めた。

 宰相が定位置に座ったのを見て、会議が始まるのが分かった。

 僕は襟を正し、王様が来るのを待つ。

 やがてバァボル陛下が現れ、自分の席に座る。

 少し遅れてアウラ王女も席に着いた。

「まずは、儂の呼びかけでこの場に他種族の者たちが集まったことに感謝しよう――」

 陛下の言葉にざわつきが起きるが、すぐに静まる。

 そして魔人族領への侵攻について話し合いが始まった。

 途中、竜人族のバハクート将軍が褒美について質問し、

 魔人族領に接していない竜人族・天人族・亜人族には宝物庫の財宝を二割ずつ渡すと陛下が答えた。

 その後、連合軍の総大将を決める流れになり――

 ライオル陛下がアウラ王女を推薦し、各種族が賛同。

 驚くほどあっさり総大将が決まった。

 侵攻ルートも決まり、会議は終わった。

 鬼人族領を通るのは鬼人族軍と竜人族軍。

 獣人族領を通るのは獣人族軍と天人族軍。

 人間族領を通るのは人間族軍と亜人族軍。

 こうして三方向から魔人族領へ侵攻する方針が固まった。

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