第79話 宴の後の夜
僕は宴に参加していた将校達と歓談し、ライオル陛下の絡みを適当にかわしながら、無礼講へ移行するまで料理を堪能した。
もちろん、僕一押しのマンガス牛の骨付き肉焼きは、これでもかというほど食べた。
味付けは塩と胡椒だけでなく、肉汁を使ったグレイビーソース、そして照り焼きソース。
照り焼きと言っても、エリザさんのソースではなく、鬼人族領で作られる醤油モドキ――『ジャシオ』を使ったものだ。
ジャシオは瓢箪のような容器に入った黒い液体で、味は醤油とほぼ同じ。
それに砂糖と、鬼人族領で作られるライス酒を加え、さらに骨付き肉を焼いた際に出た肉汁と合わせて煮詰めたものが照り焼きソースになる。
味醂がないので照りは弱いが、これはこれで十分だ。
ファンタジー作品でよく見るマ〇ガ肉を、故郷の味ともいえる照り焼きで味わう。
久しぶりの照り焼きに、僕はすっかり満腹になった。
宴が完全に無礼講へ移行した頃、僕はライオル陛下とエルカス将軍に見つからないよう、そっと会場を抜け出した。
そして、自分の寝室として用意された部屋へ向かう。
部屋に入るなり、寝間着に着替えることもなくベッドに沈む。
(あとは編成を確認して、侵攻ルートを選んで、種族ごとの得手不得手に合わせてルートをピックアップして、それから……)
そこまで考えたところで、睡魔に勝てず、僕は眠りに落ちた。
ふと、何かの気配を感じて目が覚めた。
しかし、目は開けなかった。
(誰だ? 刺客か?)
本来狙いは各種族の重鎮だろうが、部屋を間違えて僕の部屋に入った――そんな可能性もある。
だが、その気配の主は何もせず、ただじっとしている。
(……何がしたいんだ?)
僕は薄く目を開け、その人物を確認した。
(……椎名さんか)
久しぶりに見る姿だった。
椎名さんは何をするでもなく、ただ僕を見つめている。
(どうしよう。反応に困る)
起きるべきか、それとも寝たふりを続けるべきか。
悩んでいると、椎名さんが手を伸ばし、僕の頬をツンツンと突いた。
僕は寝たふりを続けた。
しばらく突っついていたが、起きる気配がないと判断したのか、椎名さんは指を離した。
そして――僕の唇にそっとキスをした。
「ちゅ……。今度は起きた時にしようね、猪田君」
そう囁き、椎名さんは音もなく消えた。
僕は目を開け、ゆっくりと身体を起こす。
そして、唇に手を当てた。
(……柔らかかったな)
それしか言いようのない体験だった。




