第78話 歓迎の宴
謁見の間の前に着くと、今回派遣された各種族軍の将軍達が待っていた。
全員ではないが、何人かとは既に顔を合わせており、どんな人物かも分かっている。
「お久しぶりです。バハクート将軍、ドゥワフ将軍、エルカス将軍、レツゴウ将軍」
竜人族、ドワーフ軍、エルフ軍、鬼人族――それぞれの代表だ。
他にも亜人族、獣人族、天人族の将がいるが、初対面なので名前は分からない。
「おお、ターバクソン卿。ご機嫌麗しゅう」
エルカス将軍が見事な儀礼をしてくる。
この人は時々手紙を送ってくるが、内容のほとんどは娘か孫娘を嫁にどうかという話だ。
「久しいな、小僧」
ドゥワフ将軍は目だけで僕を見て言い、すぐに正面へ向き直る。
二年の付き合いだが、このぶっきらぼうさは変わらない。
「久方ぶりじゃな。元気そうで何よりだ、男爵」
しわがれた声のバハクート将軍。声だけ聞くと老人だが、竜人族の中では若い部類らしい。
「小僧か。貴様も呼ばれたようだな」
赤い肌に二本の角――典型的な鬼人族の将軍。
聞いた話では、鬼人族でも一、二を争う実力者だそうだ。
「エルカス卿、この者は?」
黒い肌の長耳――ダークエルフかと思ったが、初対面の人物だ。
「この方はイノータ・フォン・N・ターバクソン卿だ。アルベルト卿」
「っ⁉ この者があの大賢者イノータなのか?」
アルベルト将軍が僕をじっと見つめる。
天人族の将もこちらを向いた。
(大賢者って……世間ではそんな呼ばれ方してるのか)
知らなかった。
ミルチャさんが「外出時は必ず変装を」と言っていた理由が今ようやく分かった。
「お初にお目に掛かる。私はデザートエルフ軍を統括するアルベルトと申します」
「初めまして」
「こちらは天人族の将、ユーダ・セラフィムです」
「……(ペコリ)」
ユーダ将軍は無言で頭を下げた。
どうやら相当な寡黙らしい。
「ところで、皆さんはどうしてここに?」
「今、獣人族の王と話をしているそうで、我らはそれが終わるのを待っているのです」
「獣人族の王? ああ、あの方か」
豪快に笑い、鬣をなびかせる姿が脳裏に浮かぶ。
某征服王を連想してしまう。
待ち時間の間、雑談をしていると、アルベルト将軍がダークエルフではなくデザートエルフだと判明した。
肌の色と瞳の色が違うらしい。
言われてみれば、僕が会ったダークエルフは緑の瞳だった。
そんな話をしていると、謁見の間の扉が開いた。
「皆さま、どうぞ。陛下がお呼びです」
僕達は互いに目を合わせ、誰が先頭かを決める。
「……ここは一番年長者を先頭にした方がよいのでは?」
「じゃな。というわけで、エルカス将軍を先頭に」
「承知した」
その後は横並びで一列に。
僕達は謁見の間へ入った。
赤い絨毯を踏みしめ、石段から十歩ほど離れた場所で跪く。
「バアボル陛下並びにライオルダルク陛下に拝謁いたします」
「「「拝謁いたします」」」
頭を下げ、王の声を待つ。
「皆、よく参った。表を上げよ」
顔を上げると、バァボル陛下の横に仮の玉座があり、そこに巨体の獅子――獣人族の王ライオルダルク陛下が座っていた。
赤い鬣、右頬の刀傷。
豪放磊落で剛毅果断。
臣下から「我らが王」と謳われる人物だ。
「おおっ、そこに居るのはターバクソン男爵ではないか!」
「……お久しぶりです、ライオルダルク陛下」
「何をそんな固い挨拶をしておる。我のことはダルクと呼べと言ったであろう。のう、婿殿」
来たっ‼
これをこの場で言われるのが嫌だったんだよな。
初対面の時、鬣がチリチリになっていたので、僕が香油を作って献上したら大層喜ばれ、気に入られ、臣下に誘われ、断ったらさらに気に入られ、しまいには娘を嫁にと言われた。
娘のパリュサさんは父親以上に破天荒で、僕を気に入っているらしい。
断ったことは伝えたが、信じてもらえているか不安だ。
「ライオルダルク王よ。その話は断ったと聞いている。『婿殿』は問題であろう」
「ふむ。我としては男爵が婿に来なくても、娘を送ってもよいのだがな」
「いやいや、王女様が領地に来るのは困りますから‼」
あの王女様は好奇心が強すぎて、少し目を離すとどこへ行くか分からない。
心臓と胃に悪い。
「おやおや、それは困りますね。男爵には私の娘か孫娘を嫁がせるつもりなのですが」
エルカス将軍、なぜこのタイミングで言う⁉
しかも娘さんは僕の曽々祖母くらいの年齢、孫娘さんは祖母くらいの年齢。
見た目は大学生みたいだから、どう接したらいいのか分からない。
「……儂のところも娘のセリーヌを嫁にやるか(ボソッ)」
陛下、今何か言いましたか?
聞き間違いであってほしい。
「オホン。皆さまを歓迎する宴を準備しております。どうぞ別室へ」
宰相の咳払いで何とか場が収まった。多分。
別室には各種族向けの料理が山のように並んでいた。
立食形式で、肉・魚・野菜が豪勢に盛られている。
僕の一押しは『マンガス牛の骨付き肉焼き』だ。
敢えて言おう。
マ〇ガ肉はここにあった。
マンガス牛は獣人族領に生息する魔物で、雄は内臓とアバラ骨がない。
魔力を吸収して生きるため、腹を切る必要がない。
雌は魔力を子宮で変換して単為生殖する。
この特性を利用して、僕はついに本物のマ〇ガ肉を作る方法を確立した。
「僕の領地に届かないから、久しぶりに食べるな~」
そう呟いた瞬間、ライオル陛下が肩を抱き寄せて囁く。
「我の娘を嫁にするなら、そなたの領地にもこの肉を好きなだけ届けてやろう」
なんて人だ。
娘を政略の道具にするとは。
「娘もお主を気に入っておる。どうだ?」
むむむ……心が揺れる。
領地でこの肉を好きなだけ食べられるのは魅力だ。
「ライオル陛下、ターバクソン卿は私の娘達の婿候補です。強引な話はおやめください」
エルカス将軍が割って入る。
「よいではないか。選ぶのは男爵なのだからな」
「でしたら、もっと考える時間を与えてください」
二人が話し始めた隙に、僕はそっとライオル陛下の腕から抜け出した。




