第7話人狩りの巣
妖市の戦いから三日が過ぎた。市場はまだ完全には戻っていない。壊れた屋台。
焦げた柱。だが妖たちは働いていた。瓦礫を運び、建物を直し、通りを掃除する。
レンは屋台の柱に寄りかかりながら、それを眺めていた。
「働き者だな」
白蘭が隣に立つ。
「当然だ」
短い返事。レンが笑う。
「怒ってる?」
白蘭が言う。
「怒っていない」
「そうか」
「……少しだけだ」
レンが肩をすくめる。
「ゼル逃げたしな」
あの幹部。黒鎖のゼル。妖市を襲った人狩り組織の幹部。強敵だった。
白蘭が言う。
「奴は戻る」
レンが聞く。
「なんで分かる」
「目だ」
レンが笑う。
「戦闘狂か」
そのときリンが走ってきた。
「兄さま!」
小さな狐耳が揺れる。
「見つかった!」
白蘭が振り向く。
「何が」
リンが息を整える。
「人狩りの拠点」
レンが眉を上げた。
「早いな」
リンが説明する。
「偵察の妖たちが森の奥で見つけた」
「古い砦」
「そこに人狩りが集まってる」
白蘭の目が細くなる。
「……本拠地」
レンが言う。
「行くか」
白蘭が答える。
「当然だ」
そのとき後ろから声がした。
「待て」
振り向く。妖市の長老だった。白い髭の妖。長い杖を持っている。
「若い者」
ゆっくり歩いてくる。
「軽率に動くな」
レンが言う。
「敵の家だろ」
「叩く」
長老が首を振る。
「相手は組織だ」
「幹部がいる」
白蘭が言う。
「知っている」
長老が続けた。
「だが」
「幹部は一人ではない」
レンが少し興味を持つ。
「何人?」
長老が答えた。
「四人」
リンが驚く。
「ゼル以外にも?」
長老が頷く。
「四幹部」
「それぞれ妖将級」
レンが笑う。
「豪華だな」
白蘭が静かに聞く。
「他は」
長老が言った。
「炎を操る女」
「巨大な妖獣」
「そして」
一瞬、間が空く。
「……人間」
レンが止まる。
「人間?」
長老が頷く。
「人狩りの中には」
「人間の幹部もいる」
沈黙。レンの目が少し変わる。
「……へぇ」
白蘭が言う。
「興味あるのか」
レンが肩を回す。
「同族」
リンが不安そうに言う。
「危ないよ」
長老が言った。
「だから」
「偵察だけにしろ」
白蘭が考える。そして頷いた。
「分かった」
レンが笑う。
「偵察ね」
リンが聞く。
「本当に?」
レンが答える。
「たぶん」
白蘭が言う。
「壊すな」
レンが言う。
「努力する」
その日の夕方。三人は妖市を出た。森の奥へ人狩りの砦へ向かうために。森は暗かった。木々が密集している。風が強く吹く。レンが歩きながら言う。
「静かだな」
白蘭が答える。
「警戒している」
リンが小声で言う。
「この先」
指差す。木々の隙間。遠くに石の壁が見えた。砦だった。古い城壁。崩れた塔。
だが中には灯り。見張りの影。そして檻が並んでいた。その中には妖。人間。
捕まった者たち。レンが呟く。
「……胸糞悪い」
白蘭の声が冷たい。
「壊す」
リンが慌てる。
「偵察!」
そのとき砦の門が開いた。重い音。
ギィィ……
中から出てきたのは一人の男。長い外套。細い体。手には黒い鎖。
レンが目を細める。
「……ゼル」
黒鎖の幹部。ゼルだった。ゼルはゆっくり外へ出る。そして空を見る。
そのときゼルの目が動いた。森の中。レンたちの方。そして笑った。
「来ているな」
リンが凍りつく。
「……バレた」
ゼルの声が森に響く。
「出てこい」
鎖が揺れる。
シャララララ……
「人間」
「狐」
レンが笑った。
「歓迎されてる」
白蘭が刀を握る。リンが言う。
「どうする?」
レンが前へ出た。木の影から。
「挨拶する」
次の瞬間。レンが森から姿を現した。森の影から、レンがゆっくり歩み出た。足音は軽い。だが、その存在感は隠せない。砦の前に立つ男――黒鎖のゼルは、楽しそうに目を細めた。
「やはり来たか」
レンが肩を回す。
「歓迎ありがとよ」
後ろの森から、白蘭とリンも姿を現す。白蘭は静かに刀の柄に手を置いたまま。
リンは少し警戒した顔で周囲を見ている。ゼルが笑う。
「妖市の連中かと思ったが……」
レンを見て、口元が歪む。
「人間が混じっているとはな」
レンが答える。
「差別か?」
「いいや」
ゼルは首を振る。
「むしろ嬉しい」
黒い鎖が指先で回る。
シャララ……
「人間は壊れやすい」
「だから楽しい」
リンが小さく震える。白蘭の声は冷たい。
「相変わらずだな」
ゼルが肩をすくめる。
「お互い様だろう?」
視線が砦へ向く。
「ここまで来たということは」
「見たな」
檻。並ぶ牢。捕まった妖と人間。レンが言う。
「見た」
「趣味悪い」
ゼルが笑う。
「商売だ」
リンが聞く。
「……売るの?」
ゼルが答える。
「研究者」
「貴族」
「術師」
「妖の力を欲しがる者はいくらでもいる」
レンが吐き捨てる。
「胸糞」
ゼルが肩をすくめる。
「世界はそういうものだ」
そして少し首を傾ける。
「それで?」
「偵察か?」
白蘭が答える。
「そうだ」
ゼルの笑みが深くなる。
「正直だな」
レンが言う。
「嘘つく意味ある?」
沈黙。風が吹く。そのとき砦の上の見張りが叫んだ。
「ゼル様!」
「侵入者ですか!」
ゼルが軽く手を上げる。
「騒ぐな」
そしてレンたちを見る。
「せっかくだ」
黒い鎖を握る。
「遊んでいけ」
次の瞬間鎖が地面を叩いた。
バキン!!
土が割れる。レンが笑う。
「始まった」
白蘭の刀が抜かれる。
キィン……
リンが叫ぶ。
「待って!」
だがもう遅い。ゼルの鎖が伸びた。蛇のようにうねりながら。
レンの首を狙う。レンが身をひねる。鎖が地面を砕く。
ドン!!
レンが拳を振るう。ゼルが後ろへ跳ぶ。その瞬間白蘭の斬撃が飛んだ。
シュン!!
ゼルが鎖で受ける。
ガキィン!!
「いい連携だ」
ゼルが楽しそうに言う。
「だが」
鎖が空中で広がる。
十本。二十本。
まるで蜘蛛の巣。レンが呟く。
「増えたな」
ゼルが笑う。
「前回は遊びだった」
「今回は本気だ」
リンが叫ぶ。
「来る!」
鎖が一斉に動く。空を裂き地面を走り、三人へ襲いかかる。白蘭が斬る。
ザン!ザン!
鎖が切れる。だがすぐに再生する。レンが蹴り飛ばす。
ドゴン!!
鎖が砦の壁に叩きつけられる。それでもまた動く。レンが言う。
「無限か」
ゼルが答える。
「近い」
そのとき砦の上から声がした。
「また暴れてる」
女の声。全員が見上げる。塔の上。そこに一人の女が立っていた。
赤い髪。長いコート。指先に小さな炎。リンが呟く。
「……炎」
女が退屈そうに言う。
「ゼル」
「長い」
ゼルが振り向く。
「見てろよ、イリス」
女――イリスがため息をつく。
「興味ない」
そしてレンを見る。
「でも」
少し笑う。
「人間は珍しい」
レンが見上げる。
「幹部その二?」
イリスが答える。
「そう」
指先の炎が大きくなる。
ボウ……
「燃える?」
白蘭が低く言う。
「……まずい」
ゼルが笑う。
「紹介しておこう」
「炎の幹部」
「イリス」
リンの顔が青くなる。
「二人……」
レンが笑った。
「偵察のはずだったのにな」
白蘭が刀を構える。
「撤退する」
レンが言う。
「賛成」
その瞬間ゼルの鎖が地面を叩く。
ドォン!!
土煙。そして砦の門が開く。中から現れる影。巨大な影。四足。
黒い毛。赤い目。リンが震える。
「……妖獣」
ゼルが言った。
「三人目」
レンが笑う。
「豪華コースだな」
塔の上でイリスが炎を回す。
「逃がすな」
巨大な妖獣が吠えた。
ゴォォォォォォ!!
森が揺れる。白蘭が静かに言った。
「囲まれた」
レンが拳を鳴らす。
「偵察終了」
リンが叫ぶ。
「生きて帰るよ!」
ゼルが笑う。
「帰れると思うか?」
鎖が空を覆う。炎が燃え上がる。妖獣が地面を踏み砕く。三人の前に人狩りの幹部が二人。そして巨大妖獣。逃げ道は――ない。巨大な妖獣が地面を踏み砕いた。
ドォン!!
衝撃で土が跳ね上がる。森の木々が揺れた。赤い目。黒い毛。牙は剣のように長い。リンが声を震わせる。
「で、でかい……」
ゼルが笑う。
「我らの番犬だ」
鎖がゆっくり揺れる。
「名前はグラ」
妖獣――グラが唸る。
ゴォォ……
レンが言う。
「犬ってサイズじゃねぇ」
塔の上でイリスが炎を揺らす。
「逃げる?」
レンが肩を回す。
「逃げたい」
白蘭が静かに言う。
「逃げる」
リンが驚く。
「え?」
白蘭は真剣だった。
「三対三」
「しかも拠点」
「不利だ」
レンが少し笑う。
「冷静だな」
白蘭が続ける。
「だが」
刀を構える。
「逃げ道を作る必要がある」
リンが頷く。
「わかった!」
その瞬間。グラが走った。
ドォォン!!
地面が爆発する。レンが横へ飛ぶ。白蘭が前へ出る。刀が閃く。
ザン!!黒い毛が散る。だが傷は浅い。グラが腕を振る。巨大な爪。
白蘭が後ろへ跳ぶ。
ドゴン!!
地面が砕ける。レンが言う。
「硬いな」
ゼルが笑う。
「当然だ」
鎖が動く。レンの背後から襲う。
シャララ!!
レンが拳で弾く。
ガキィン!!
その瞬間炎が落ちた。
ドォン!!
爆発。土煙が上がる。リンが叫ぶ。
「レン!」
煙の中から声。
「生きてる」
レンが飛び出す。髪が少し焦げている。塔の上でイリスが退屈そうに言う。
「当たらない」
ゼルが言う。
「動きがいい」
レンが笑う。
「褒められた」
そのときリンが印を結ぶ。
狐火。青い炎が浮かぶ。
「目!」
狐火がグラの目へ飛ぶ。
ボッ!!
グラが頭を振る。視界が乱れる。白蘭が動く。風のように。
シュン!!
刀が閃く。
ザン!!
今度は深い。血が飛ぶ。グラが吠える。
ゴォォォ!!
ゼルが少し感心した。
「ほう」
レンが走る。一直線。拳が振り下ろされる。
ドゴン!!
グラの頭が地面に叩きつけられた。リンが目を丸くする。
「強……」
だが次の瞬間、鎖がレンの腕に巻きついた。
シャラ!!
レンが止まる。ゼルが引く。
「捕まえた」
鎖が増える。腕。肩。胴。絡みつく。レンが笑う。
「多い」
ゼルが言う。
「これで終わりだ」
そのとき炎が落ちた。イリスの炎。レンの頭上。白蘭が叫ぶ。
「レン!」
爆発。
ドォン!!
土煙。リンが凍りつく。
「……」
ゼルが笑う。
「終わったか」
煙の中。静かだった。だが次の瞬間鎖が震えた。
ミシ……
ミシミシ……
ゼルの目が変わる。
「……?」
バキン!!
鎖が砕けた。煙の中からレンが出てくる。体に鎖の跡。
だが。目が違った。深い。暗い。リンが呟く。
「……レン?」
レンが首を回す。骨が鳴る。
コキッ。
「ちょっとイラっとした」
ゼルが目を細める。
「何だそれは」
レンが笑う。
「知らん」
その瞬間レンが消えた。ゼルの目が追う。
だが遅い。レンの拳が胸に入る。
ドゴォン!!
ゼルが吹き飛んだ。砦の壁へ叩きつけられる。
ドォン!!
イリスが目を細めた。
「……面白い」
炎が大きくなる。グラが立ち上がる。白蘭が呟く。
「……まずい」
リンが聞く。
「何が?」
白蘭が言う。
「レン」
視線はレンへ。レンは笑っている。だが。その目は。少しだけ妖のようだった。
ゼルの体が砦の壁からゆっくり滑り落ちた。石壁には大きな亀裂。衝撃の跡が残っている。ゼルは立ち上がりながら、口の血を拭った。
「……なるほど」
その目は楽しそうだった。
「さっきとは別人だな」
レンが首を傾ける。
「そうか?」
声はいつも通り。だが空気が違う。リンが小さく言う。
「白蘭……」
白蘭はレンを見ていた。
「……あれは」
言葉を止める。レンの体から、わずかな気配が漏れている。
妖気。ほんの僅か。しかし確かに。ゼルが鎖を握る。
「面白い」
シャラララ……
鎖が地面を這う。
「人間が妖の気配を出すとは」
レンが笑う。
「気のせいじゃね?」
その瞬間グラが突進した。
ドォォン!!
地面が砕ける。巨大な牙がレンへ。レンが片手を出した。
ガシッ。
牙を掴む。リンが叫ぶ。
「え!?」
グラの突進が止まる。レンが腕を押す。
ギリギリ……
グラが後退する。ゼルが目を細める。
「力が上がっている」
塔の上でイリスが笑った。
「いいじゃない」
炎が広がる。彼女の周囲に火球が浮かぶ。
一つ。二つ。三つ。十。
「燃やそう」
火球が落ちる。
ドォン!ドォン!ドォン!
爆発の雨。白蘭がリンを抱えて跳ぶ。レンはその場で動かない。炎が直撃する。
爆炎。煙。ゼルが鎖を伸ばす。煙の中へ。だが鎖が途中で止まった。
ゼルの目が動く。
「……掴んだ?」
煙の中からレンの声。
「しつこい」
次の瞬間レンが鎖を引いた。
ドォン!!
ゼルの体が前へ引きずられる。レンの拳が振り上がる。だがゼルは笑った。
鎖が地面から生える。何十本も。レンの足元から。
シャラララ!!
レンの体を縛る。ゼルが言う。
「同じ手は食わない」
そのとき白い閃光。
ザン!!
鎖が斬れた。白蘭だった。ゼルが舌打ちする。
「邪魔だ」
白蘭が静かに言う。
「仲間だからな」
その瞬間グラが再び跳んだ。
白蘭へ。巨大な爪。白蘭が斬る。
ザン!!
だが衝撃で後ろへ吹き飛ぶ。リンが叫ぶ。
「白蘭!」
グラが追撃する。牙が振り下ろされる。
ドォン!!
地面が砕けた。だが白蘭はいない。上だった。木の上から落ちる。斬撃。
ザン!!
グラの背中が裂ける。グラが吠える。そのとき炎の壁が立ち上がった。
イリス。炎が白蘭を包む。リンが叫ぶ。
「危ない!」
だが炎が斬れた。白蘭の刀。風の刃。炎が割れる。イリスが目を細めた。
「風」
少し楽しそうに言う。
「あなた強い」
白蘭は答えない。そのときレンが歩き出した。
ゆっくりゼルへ。ゼルが笑う。
「まだやるか」
レンが言う。
「ちょっと聞きたい」
ゼルが首を傾ける。
「何だ」
レンの目が細くなる。
「幹部は四人だろ」
ゼルが答える。
「そうだ」
「あと一人」
レンが言う。
「人間」
ゼルの笑みが深くなる。
「ああ」
塔の上のイリスも笑う。
「会いたい?」
レンが肩をすくめる。
「同族だからな」
ゼルが言う。
「残念だが」
鎖が揺れる。
「ここにはいない」
リンが聞く。
「どこ?」
ゼルが答える。
「妖市」
一瞬空気が止まった。リンの顔が青くなる。
「え……」
白蘭が振り向く。レンが静かに言う。
「今なんて言った」
ゼルが楽しそうに言った。
「最後の幹部」
「人間」
「今頃」
笑う。
「妖市を襲ってる」
リンの声が震える。
「うそ……」
妖市には老人、子供、戦えない妖たち。レンの拳がゆっくり握られた。
ミシ……
ゼルが言う。
「どうする?」
「ここで戦うか」
「それとも」
砦の奥で何かが鳴った。鐘。
ゴォォォォン……
ゼルが笑う。
「もう遅い」
リンが叫んだ。
「帰る!」
白蘭も言う。
「撤退だ!」
レンは一瞬だけ砦を見た。
ゼル。イリス。グラ。そして捕らわれた檻。レンが舌打ちする。
「……くそ」
ゼルが言う。
「追うぞ」
鎖が動く。だがレンはもう走っていた。森の奥へ。妖市へ。その頃妖市では。
門が壊れていた。そして一人の男が立っていた。黒い服。長い刀。人間の顔。
その男が呟く。
「……ここが妖市か」
そして笑う。
「狩りの時間だ」
妖市の門は砕けていた。木と石で作られた巨大な門。それが無残に割れている。
煙が上がる。建物の屋根が崩れ、通りには瓦礫。妖たちの叫び声。逃げ惑う影。
その中心に一人の男が立っていた。黒い服。長い刀。人間。男はゆっくり歩く。足音が静かに響く。目の前には数人の妖。武器を構えている。だが、震えていた。
男が言う。
「安心しろ」
声は穏やかだった。
「無駄な殺しはしない」
妖の一人が叫ぶ。
「人狩りだ!」
「やれ!」
三人の妖が同時に飛び出した。槍。爪。牙。男の背後へ。だが次の瞬間。
男の刀が動いた。
キィン。
ただそれだけ。音は小さかった。三人の妖が止まる。そしてゆっくり崩れた。
血が地面に落ちる。男が刀を払う。赤い雫が散った。
「弱い」
冷たい声。そのとき屋根の上から声。
「そこまでだ」
男が顔を上げる。屋根の上。長老が立っていた。白い髭。杖を持つ妖市の長老。
男が言う。
「あなたが長か」
長老が答える。
「そうだ」
男が少し笑う。
「都合がいい」
刀を肩に乗せる。
「私はカイト」
長老が目を細める。
「人間の幹部か」
カイトが頷く。
「四幹部の一人」
静かな声。
「妖狩りの剣」
長老が杖を握る。
「ここで止める」
カイトが言う。
「できるなら」
次の瞬間二人が動いた。杖が振られる。風が渦を巻く。
ドォン!!
通りが砕ける。だがカイトは消えていた。
次の瞬間長老の背後、刀が振られる。
キィン!!
長老が杖で受ける。衝撃。屋根が崩れる。カイトが呟く。
「速いな」
長老が言う。
「お前もな」
二人は再び距離を取った。カイトが周囲を見る。
逃げる妖。倒れた者。炎。煙。
「いい街だ」
長老が怒る。
「黙れ」
カイトが続ける。
「壊しがいがある」
そのとき遠くの森から音がした。
ドォォォン!!
風を裂く足音。長老が気づく。
「……来たか」
カイトが聞く。
「誰だ」
長老が言う。
「問題児」
次の瞬間レンが森から飛び出した。
地面に着地。
ドン!!
瓦礫が跳ねる。レンが周囲を見る。壊れた街。倒れた妖。
血。炎。そして黒い服の男。レンが低く言う。
「お前か」
カイトが振り向く。少し驚く。
「人間?」
レンが答える。
「そうだ」
白蘭とリンも到着した。リンが叫ぶ。
「長老!」
長老が言う。
「無事だ」
カイトがレンを観察する。
「面白い」
刀を構える。
「妖の街に人間」
レンが拳を鳴らす。
コキッ。
「人間のくせに妖狩り」
カイトが笑う。
「仕事だ」
レンが言う。
「気に入らない」
沈黙。風が吹く。瓦礫が転がる。次の瞬間二人が同時に動いた。
カイトの刀が閃く。レンの拳が振られる。
キィン!!
拳と刀がぶつかった。衝撃波。空気が震える。リンが驚く。
「止めた!?」
白蘭が目を細める。
「硬い」
レンが笑う。
「いい剣だな」
カイトが言う。
「いい拳だ」
刀が走る。三連撃。レンが躱す。地面が斬れる。石が割れる。レンが蹴る。
カイトが刀で受ける。
ドン!!
カイトが少し後退した。カイトが言う。
「本当に人間か?」
レンが答える。
「知らん」
再びぶつかる。拳。刀。衝撃。周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。リンが叫ぶ。
「街が!」
長老が言う。
「離れろ」
白蘭は黙って見ていた。
「……強い」
そのときカイトの目が変わる。
「少し本気を出す」
刀を構える。呼吸が変わる。静か。そして一歩。
踏み込む。消えた。次の瞬間レンの背後。刀が振り下ろされる。
レンが振り向く。間に合わない。その瞬間レンの目が光った。
体が動く。ギリギリで拳が上がる。
キィン!!
刃が止まる。カイトが驚く。
「今のは」
レンが言う。
「知らん」
拳が入る。
ドゴォン!!
カイトが吹き飛ぶ。建物を突き破る。
ドォン!!
煙。沈黙。リンが言う。
「勝った?」
その瞬間瓦礫が動いた。カイトが立ち上がる。少し血が出ている。だが笑っていた。
「最高だ」
刀を握り直す。
「久しぶりだ」
レンが言う。
「何が」
カイトが答える。
「楽しい戦い」
空気が変わる。次の瞬間。カイトの背後に影が降りた。黒い鎖。炎。
巨大な影。ゼル。イリス。グラ。追いついていた。リンが絶望する。
「うそ……」
ゼルが笑う。
「追いついた」
イリスが炎を回す。
「続きやろう」
カイトが振り向く。
「遅い」
ゼルが言う。
「遊んでた」
四人の幹部。巨大妖獣。そしてレンたち。瓦礫の街。夜の妖市。
カイトが刀を肩に乗せる。
「全員まとめて相手してやる」
レンが笑う。
「上等」
白蘭が刀を構える。リンが狐火を出す。長老が杖を握る。
ゼルの鎖が鳴る。イリスの炎が燃える。グラが吠える。
そして夜が震えた。妖市の戦いはここからが本当の地獄だった。




