第6話妖市大戦
妖市は、まだ煙を上げていた。夜が明ける。灰色の空の下、壊れた屋台や崩れた建物が並んでいる。昨日まで賑やかだった市場は、戦場の跡そのものだった。レンは瓦礫の上に座り、欠伸をした。
「……眠い」
その横で、白蘭は腕を組んで立っていた。いつもの狐面。静かな気配。だが妖力はまだ少し荒れている。リンが言った。
「兄さま、休んだほうがいいよ」
「問題ない」
短い返事。レンが笑う。
「怒ってるな」
白蘭が視線を向ける。
「誰が」
「人狩り」
レンは空を見上げた。
「完全に組織だった」
昨日の襲撃。あれはただの盗賊ではない。訓練された妖たち。捕獲用の鎖。
檻。輸送用の荷車。レンが言う。
「商売だな」
白蘭が頷く。
「妖や人間を売る組織」
リンが小さく呟く。
「ひどい……」
そのとき足音が近づいた。
妖市の商人――昨日会った太った妖だ。
「白蘭!」
「……」
白蘭が振り向く。
「どうした」
商人は息を切らしていた。
「偵察が戻った」
「何?」
「奴ら……」
声を落とす。
「戻ってくる」
レンが笑った。
「早いな」
商人が言う。
「しかも」
周囲を見て小さく言った。
「幹部が来る」
白蘭の目が細くなる。
「幹部」
「人狩りの中でも特別な奴だ」
レンが肩を回す。
「強い?」
商人が答えた。
「妖将級だ」
リンが固まる。
「妖将!?」
妖将。妖の中でも上位の戦力。都市を一つ壊せると言われる存在。
レンが言う。
「へぇ」
白蘭がレンを見る。
「嬉しそうだな」
「退屈しない」
リンが叫ぶ。
「危ないよ!」
そのとき妖市の外から声が上がった。
「煙だ!!」
「森から来てる!!」
全員が振り向く。市場の外。森の向こう。黒い煙が上がっていた。
そしてゆっくりと近づく影。
十。二十。三十。
黒装束の妖たち。
その中央に一人の影。背が高い。黒い外套。長い鎖を肩に巻いている。顔には仮面。しかしその妖力。空気が重くなる。リンが震えた。
「……来た」
レンが立ち上がる。拳を鳴らす。
バキバキ。
「歓迎しよう」
白蘭が刀を抜く。
シャッ。
市場の妖たちも武器を持ち始めた。獣の妖。翼の妖。爪の妖。昨日逃げていた妖たちだ。だが今は違う。
「妖市を守れ!!」
「追い返せ!!」
叫び声が上がる。そのとき黒装束の集団が止まった。中央の男が一歩前へ出る。
ゆっくり仮面を外す。現れた顔。青白い肌。鋭い目。口元に笑み。男が言った。
「初めまして」
声は静かだった。
「妖市の皆さん」
レンが呟く。
「こいつが幹部か」
男は続ける。
「私は」
軽く礼をする。
「人狩り幹部」
「黒鎖のゼル」
その名を聞いた瞬間周囲の妖たちがざわめいた。
「ゼル……」
「本物か……」
リンが小さく言う。
「有名なの?」
商人が答えた。
「危険な奴だ」
ゼルが周囲を見渡す。そしてレンを見た。
「……人間」
笑う。
「見つけた」
レンが言う。
「ファン?」
ゼルが言う。
「商品だ」
白蘭の妖力が揺れた。ゼルがさらに言う。
「今日は」
鎖を持ち上げる。
シャラララララ……
「妖市を全部持って帰る」
沈黙。次の瞬間レンが笑った。
「やってみろ」
その瞬間だった。
ゼルの鎖が動いた。
シュン!!
空気が裂ける。レンの首へ一直線。レンが腕を上げる。
ガン!!
火花。鎖と腕がぶつかる。ゼルの目が細くなる。
「……止めた」
レンが笑う。
「挨拶か?」
ゼルが言う。
「強い」
白蘭が前へ出る。
「レン」
「ん?」
「私がやる」
レンが笑う。
「譲る」
ゼルが鎖を振る。
シャララララ!!
無数の鎖が空に広がった。妖市の上空。黒い網のように。
ゼルが言う。
「では」
静かな声。
「狩りを始めよう」
ゼルの鎖が空に広がった。
シャララララララ……
黒い鎖が何十本も空中に浮かび、妖市の上に網のように広がる。まるで巨大な檻だった。妖たちがざわめく。
「囲まれた……」
「逃げ道がない!」
ゼルが静かに言う。
「逃げる必要はない」
笑う。
「全員捕まえる」
その瞬間レンが笑った。
「性格悪いな」
地面を蹴る。
ドン!!
次の瞬間には人狩りの集団の中にいた。
拳。
ドゴォォォン!!
黒装束の妖が吹き飛ぶ。その体が後ろの妖へ激突。
ドン!ドン!!
二人まとめて転がる。レンが言う。
「雑魚は任せろ」
白蘭が小さく頷く。
「頼む」
そして一歩前へ出る。ゼルの前、距離は十メートル。ゼルが言う。
「狐族か」
「……」
白蘭は答えない。ただ刀を構える。静かな構え。だが空気が変わる。
周囲の妖たちが息を呑んだ。
「……重い」
リンが小さく言う。
「兄さま、本気だ」
ゼルが笑う。
「良い」
鎖を持ち上げる。次の瞬間。
シュン!!
鎖が走った。白蘭の胸へ一直線。
だが白蘭の体が消える。残像。
次の瞬間。ゼルの横。刀が振られる。
ズバン!!
火花。鎖が防いだ。ゼルが笑う。
「速い」
白蘭は止まらない。
シュン。
シュン。
連続斬撃。
ズバン!!
ズバン!!
鎖が次々弾かれる。ゼルが後ろへ跳ぶ。屋根の上へ着地。
「なるほど」
そのときレンはすでに暴れていた。
拳。
ドゴン!!
蹴り。
ドン!!
黒装束の妖たちが次々倒れる。
「弱い」
鎖を振る妖が叫ぶ。
「囲め!!」
五人が同時に襲う。レンの足に鎖。
腕に鎖。首に鎖。妖が叫ぶ。
「捕まえ――」
レンが力を込める。
ギギギギ……
妖たちの顔が歪む。
「……え?」
レンが笑う。
「無理」
バキン!!
鎖が全部砕けた。
「嘘だろ!?」
次の瞬間。レンの拳。ドゴォォォン!!
妖が三人まとめて吹き飛ぶ。リンが呆然と呟く。
「……怪物」
一方白蘭とゼル。
屋根の上。ゼルが鎖を振る。
シャララララ!!
十本以上空から降る。白蘭が刀を振る。
ズバン!!
二本が切れる。だが残りが襲う。
シュン!!
白蘭の腕に巻き付く。次の鎖。
足。腰。
瞬く間に拘束された。ゼルが言う。
「捕まえた」
屋根の上から見下ろす。
「妖将級でも」
「鎖は切れない」
そのとき白蘭が小さく呟いた。
「……そうか」
空気が変わる。リンが震えた。
「……出る」
ゼルの目が細くなる。
「?」
次の瞬間。白蘭の背後。揺らめく影。白い尾。狐の尾だった。
一本。二本。三本。
妖力が爆発する。
ドォォォォン!!
鎖が震える。ゼルが初めて驚いた。
「……妖尾」
白蘭が刀を握る。静かな声。
「邪魔だ」
次の瞬間。
ズバァァァン!!
鎖が全部斬れた。ゼルが後ろへ跳ぶ。
「面白い」
白蘭が屋根に立つ。尾が揺れている。妖力が風を起こす。
レンが下から叫ぶ。
「派手だな!」
白蘭が言う。
「黙れ」
ゼルが笑う。
「なるほど」
「今日は当たりだ」
鎖を構える。妖市の上空。炎と煙の中。幹部ゼルが言った。
「では」
静かに。
「本気で行こう」
白蘭の目が細くなる。レンが拳を鳴らす。
バキバキ。
妖市の戦いは――まだ始まったばかりだった。炎が揺れている。妖市の上空。屋根の上に立つ二人。白蘭とゼル。風が強く吹き、煙が流れる。
ゼルの鎖がゆっくり動いた。
シャラ……シャラ……
蛇のようにうねる黒い鎖。白蘭の後ろでは、三本の狐尾が揺れている。妖力が空気を歪ませていた。ゼルが笑う。
「狐族の尾」
「珍しい」
白蘭は何も言わない。ただ刀を握る。ゼルが続けた。
「その力」
「どこまで持つ?」
次の瞬間ゼルの鎖が爆発的に広がった。
シャララララララ!!
二十本以上。空を埋める黒い線。白蘭へ一斉に落ちる。
シュン!!
シュン!!
シュン!!
白蘭が動いた。消える。残像。次の瞬間、別の屋根。
鎖が石を砕く。
ドガン!!
白蘭の刀が閃く。
ズバン!!
二本の鎖が落ちた。ゼルが笑う。
「速い」
さらに鎖を振る。今度は渦。
シャララララ!!
鎖の竜巻が白蘭を包む。屋根が砕ける。瓦が飛ぶ。リンが下から叫んだ。
「兄さま!!」
煙。その中から声。
「静かだな」
次の瞬間。白蘭が飛び出した。ゼルの目の前。刀。
ズバァン!!
火花。ゼルの鎖が盾になる。
ガン!!
衝撃が屋根を割る。ゼルが後ろへ跳ぶ。
「いい」
その顔は楽しそうだった。同じ頃レンは地上で暴れていた。拳。
ドゴォォン!!
妖が宙を舞う。蹴り。
ドン!!
屋台が砕ける。黒装束の妖が叫ぶ。
「囲め!!」
十人が同時に襲う。鎖。刃。槍。
レンが笑う。
「遅い」
最初の鎖を掴む。
グイッ。
妖が引き寄せられる。
「え?」
次の瞬間。頭突き。
ドゴン!!
妖が倒れる。後ろの槍。
シュン!!
レンが腕で弾く。
ガン!!
そのまま拳。
ドン!!
妖が吹き飛ぶ。リンが呆然と見ていた。
「……本当に人間?」
商人が言う。
「いや」
「怪物だ」
そのとき地面が揺れた。
ドン……ドン……
重い足音。黒装束たちが道を開ける。
「来たぞ」
「副隊長だ」
レンが振り向く。現れたのは巨大な妖だった。身長二メートル半。
筋肉の塊。片手に大きな鉄棍。赤い目。その妖が言った。
「人間」
声が低く響く。
「お前か」
レンが笑う。
「ボスの次?」
妖が棍を肩に担ぐ。
「副隊長」
「ガルド」
レンが肩を回す。
「いいね」
ガルドが地面を踏む。
ドン!!
石畳が砕ける次の瞬間。
突進。
ドォォォン!!
巨大な棍が振り下ろされる。レンが腕を上げる。
ガン!!
衝撃。地面が沈む。リンが叫ぶ。
「レン!!」
煙。その中でレンが笑っていた。
「重いな」
片腕で棍を止めている。ガルドの目が細くなる。
「……人間」
レンが言う。
「次」
拳を握る。
バキバキ。
「殴っていい?」
次の瞬間レンの拳が動いた。レンの拳が振り抜かれた。
ドゴォォォン!!
重い衝撃音。ガルドの体が大きく揺れた。だが倒れない。
巨大な妖は踏みとどまり、棍を振り上げた。
「効かん」
次の瞬間。横薙ぎの一撃。
ブォン!!
空気が裂ける。レンがしゃがむ。棍が後ろの屋台を粉砕した。
ドシャァァァ!!
木材が吹き飛ぶ。レンが立ち上がる。
「壊すなって言われてるんだけどな」
ガルドが棍を回す。重い音。
「人間」
「貴様は売る」
レンが笑う。
「断る」
地面を蹴る。
ドン!!
一瞬で距離を詰める。拳。
ドゴン!!
ガルドの腹にめり込む。だがガルドの筋肉は岩のようだった。
ほとんど動かない。ガルドが笑った。
「軽い」
次の瞬間棍が振り下ろされる。
ドォォォン!!
レンが横へ跳ぶ。地面が陥没する。石畳が砕ける。レンが言う。
「硬いな」
ガルドが突進した。
ドン!!
体当たり。レンが腕で受ける。
ガン!!
衝撃。二人が滑る。レンが歯を見せて笑う。
「いいじゃん」
拳を握る。
「楽しくなってきた」
その頃屋根の上。白蘭とゼルの戦いは激しさを増していた。
ゼルの鎖が渦を巻く。
シャラララララ!!
鎖の嵐。屋根が砕け、瓦が宙を舞う。白蘭の尾が揺れた。三本の尾。妖力が広がる。白蘭が踏み込む。
シュン!!
ゼルの前へ。刀。
ズバン!!
ゼルが鎖で受ける。
ガン!!
火花が散る。ゼルが言う。
「いい力だ」
「だが」
鎖を大きく振る。
シャラララ!!
十数本が同時に動く。白蘭の足。腕。首。四方から絡みつく。
シュン!!
白蘭が跳ぶ。屋根から屋根へ。鎖が追う。
ドガン!!
建物が砕ける。ゼルが笑う。
「逃げるか」
白蘭が止まる。次の瞬間刀を横に振った。
ズバァァン!!
妖力をまとった斬撃が飛ぶ。ゼルが鎖を盾にする。
ガン!!
衝撃で屋根が崩れる。ゼルの目が細くなる。
「……斬撃を飛ばした」
白蘭の尾が揺れる。四本目が、わずかに現れかけていた。リンが遠くで気付く。
「兄さま……」
商人が震える。
「四尾になったら……」
リンが聞く。
「どうなるの?」
商人が言った。
「妖将を超える」
そのときゼルが鎖を大きく振り上げた。
シャラララララ!!
空に巨大な輪ができる。まるで黒い月。ゼルが言う。
「妖鎖術」
「牢獄」
次の瞬間。鎖が一斉に落ちた。
ドォォォォン!!
白蘭の周囲が巨大な檻になる。屋根。通り。建物。すべてを覆う鎖の檻。白蘭が中に閉じ込められた。ゼルが静かに言う。
「終わりだ」
下ではレンがガルドと激突していた。拳と棍。
ドン!!ドゴン!!
衝撃が広がる。レンが笑う。
「いい」
ガルドが棍を振る。
ドォォォン!!
レンが受ける。だがその瞬間空から鎖の影。巨大な檻が見えた。レンが呟く。
「……白蘭?」
ゼルの声が響く。
「狐は捕まえた」
レンの目が細くなる。ガルドが棍を振り上げた。
「余所見するな」
ドォォォン!!
棍が落ちる。煙が上がる。リンが叫ぶ。
「レン!!」
煙の中。レンの声。
「……ムカつくな」
次の瞬間煙が吹き飛んだ。レンが立っていた。目が少し変わっている。
静かな怒り。レンが拳を握る。
バキバキ。
そして言った。
「先に片付ける」
ガルドを見上げる。
「お前から」
ガルドが笑う。
「面白い」
妖市の戦いはさらに激しくなっていく。鎖の檻が妖市の上に落ちていた。
巨大な黒い格子。建物を押し潰しながら地面に突き刺さる鎖。
その中心に白蘭が閉じ込められている。ゼルが屋根の上から見下ろしていた。
「妖鎖術・牢獄」
鎖がゆっくり締まる。
ギギギ……
鉄が軋む音。ゼルが静かに言う。
「妖将級でも」
「これを壊せる者は少ない」
檻の中。白蘭は静かに立っていた。
狐尾が揺れる。三本。
そして四本目が、ゆっくりと形を作り始めていた。
外ではレンがガルドと向き合っている。ガルドの鉄棍が地面に突き刺さる。
ドン!!
石畳が砕ける。ガルドが言う。
「余所見するな」
レンが答える。
「すぐ終わらせる」
拳を握る。
バキバキ。
ガルドが突進した。
ドォォォン!!
巨大な体。鉄棍が振り下ろされる。レンが前へ出た。
ドン!!
真正面から受ける。
ガン!!
衝撃が広がる。レンの足元の石畳が砕けた。ガルドが笑う。
「潰れる」
次の瞬間レンの腕が動いた。
グイッ。
鉄棍を掴む。ガルドの目が細くなる。
「……?」
レンが言う。
「重いだけ」
力を込める。
ギギギギ……
鉄棍が歪む。リンが遠くで叫ぶ。
「曲がってる!?」
次の瞬間。レンが棍を引いた。
ドン!!
ガルドの体が引き寄せられる。レンの拳。
ドゴォォォン!!
腹に直撃。ガルドの巨体が浮く。
ドン!!
地面に叩きつけられる。ガルドが立ち上がる。血を吐く。だが笑う。
「いい」
目が赤く光る。筋肉が膨らむ。妖力が広がる。ガルドが吠えた。
ゴォォォォ!!
地面を踏む。
ドン!!
次の瞬間レンへ突進。レンが言う。
「遅い」
体をひねる。ガルドの横へ回り込む。拳。
ドゴン!!
ガルドの膝が砕ける。巨体が崩れる。レンが踏み込む。拳を振り上げた。
静かな声。
「終わり」
ドゴォォォォン!!!
地面が爆発する。衝撃が通り全体を揺らした。煙が上がる。その中心。ガルドは倒れていた。動かない。レンが肩を回す。
「終わり」
その瞬間ゼルの声が響く。
「副隊長が負けたか」
レンが上を見る。ゼルが屋根に立っている。
「だが」
鎖の檻を指す。
「狐は終わりだ」
檻の中、白蘭がゆっくり顔を上げた。
尾が揺れる。三本。四本。
完全に四本目が現れた。リンが震える。
「……四尾」
空気が変わる。妖力が爆発する。
ドォォォォン!!
鎖が震える。ゼルの目が細くなる。
「……」
白蘭が刀を握る。静かな声。
「邪魔だ」
次の瞬間白蘭が一歩踏み出した。刀が振られる。
ズバァァァン!!
妖力の斬撃。鎖が裂ける。
一本。二本。三本。
檻が崩れ始める。ゼルが呟く。
「……壊すか」
白蘭がもう一歩踏む。刀を振る。
ズバァァァァン!!
巨大な音。鎖の檻が真っ二つになった。黒い鉄が雨のように落ちる。妖市の通りに突き刺さる。ゼルがゆっくり笑った。
「いい」
「やはり当たりだ」
白蘭が屋根へ跳ぶ。ゼルの前に立つ。尾が四本揺れている。妖力の風。
ゼルが鎖を構える。
シャララララ……
「だが」
次の瞬間レンが屋根に飛び乗った。
ドン!!
ゼルの横に立つ。拳を鳴らす。
バキバキ。
レンが言う。
「二対一」
白蘭が言う。
「手を出すな」
レンが笑う。
「いいの?」
白蘭の目は冷たい。
「斬る」
ゼルが鎖を持ち上げる。そして笑った。
「今日はここまでにしよう」
レンが眉を上げる。
「逃げる?」
ゼルが答える。
「目的は確認だ」
「人間」
「狐」
鎖が空へ上がる。ゼルが言う。
「次は」
「捕まえる」
煙が広がる。次の瞬間ゼルの姿は消えていた。沈黙。妖市の通り。炎はまだ燃えている。だが戦いは終わった。リンが走ってくる。
「兄さま!!」
白蘭が尾を消す。妖力が静まる。レンが空を見る。
「逃げられた」
白蘭が言う。
「また来る」
レンが笑う。
「いい」
拳を握る。
「次は殴る」
白蘭が刀を収める。
「斬る」
煙の上に朝日が昇っていた。妖市の戦いは終わった。だが人狩りとの戦争は、まだ始まったばかりだった。




