第5話妖市崩壊
地下から地上へ出た瞬間だった。レンの目に飛び込んできたのは炎だった。屋台が燃えている。赤い火が夜の空を染めていた。煙が立ちこめる。妖市の通りは、もはや市場ではない。戦場だった。
「逃げろ!!」
「人狩りだ!!」
「子どもを連れていけ!!」
叫び声。悲鳴。瓦礫。レンが呟いた。
「……最悪だな」
白蘭の声は低かった。
「……」
怒りを押し殺している声だった。
レンが横を見る。
「白蘭」
「分かっている」
白蘭は刀を抜いた。静かな金属音。
シャッ。
「全員助ける」
レンが笑った。
「いいね」
そのとき。狐耳の少女が走ってきた。
「兄さま!!」
リンだった。白蘭が振り向く。
「リン」
「無事か!?」
「うん!」
リンは息を切らしていた。
「でも……」
振り返る。市場の奥。檻。鎖。そこには捕まった妖たちがいた。小さな妖。獣の妖。翼のある妖。十人以上。檻に閉じ込められている。その周囲に立つのは黒装束の妖たち。
鎖を持つ者。槍を持つ者。明らかに人狩りの仲間だった。レンが呟く。
「なるほど」
「団体様か」
そのとき遠くで爆発。
ドォォォォン!!
市場の塔が崩れた。リンが震える。
「妖市が……」
白蘭が静かに言う。
「……大丈夫だ」
「取り戻す」
レンが拳を鳴らす。
バキバキ。
「まずはあいつら」
視線の先。檻の前に立つ大男。巨大な斧を持っている。妖の一人が言った。
「動くな」
檻の中の妖が震える。
「売り物だ」
その言葉。レンの目が変わった。
「……売り物」
白蘭が小さく言う。
「レン」
「ん?」
「壊すな」
レンが笑う。
「努力する」
次の瞬間レンが消えた。
ドン!!
地面が爆発する。大男が振り向いた。
「何――」
ドゴォォォン!!!
拳。斧ごと吹き飛んだ。妖たちが固まる。
「……え?」
レンが立っていた。拳を振り抜いた姿で。
「こんばんは」
静かな声。妖の一人が叫ぶ。
「敵だ!!」
一斉に武器が向く。レンが言う。
「来い」
最初の妖が突っ込む。槍。
シュン!!
レンが掴む。
ポキッ。
槍が折れた。
そのまま。
ドゴン!!
妖が宙を舞う。
白蘭が動いた。
シュン。
刀が閃く。
ズバン!!
二人の妖の武器が斬れた。そのまま蹴り。
ドン!!
妖が転がる。リンが呟く。
「……強すぎ」
檻の妖たちがざわめいた。
「助けが……」
「誰だあいつら」
レンが言う。
「檻開けるぞ」
鎖を掴む。白蘭が言う。
「待て」
「ん?」
「罠だ」
レンが止まる。次の瞬間。
屋根の上から声。
「正解」
全員が上を見る。そこにいたのは細身の男。長い鎖を巻きつけた妖。笑っている。
「人間」
レンが言う。
「またお前らか」
男が笑う。
「妖市は宝だ」
「珍しい妖」
「人間」
「全部金になる」
白蘭の声が冷たい。
「下種」
男が手を上げた。次の瞬間。屋根。
路地。瓦礫の影。次々と現れる黒装束。
二十人以上。リンが震えた。
「……多い」
レンが笑う。
「いいね」
拳を握る。
「まとめて来い」
男が言う。
「捕まえろ」
次の瞬間妖たちが一斉に動いた。
妖市の中央。炎の中。大乱闘が始まる。
炎の中。妖市の中央通り。二十を超える黒装束の妖たちが、一斉に動いた。
「捕まえろ!!」
鎖が飛ぶ。槍が向く。刃が光る。
その中心にいるのはレン。
「いいね」
レンは拳を握った。
バキバキ。
「まとめて来い」
最初の妖が突っ込んだ。
鎖を振り回す。
シュン!!
レンの首を狙う。レンは半歩横へ。
鎖が空を切る。そのまま腕を掴む。
「よっと」
ドゴォォン!!
地面へ叩きつけた。石畳が砕ける。妖が動かなくなる。次の瞬間後ろから槍。
シュン!!
レンが振り向きもせず腕を出す。
ガシッ。
槍を掴む。妖が驚く。
「は?」
レンが言う。
「危ないぞ」
ポキッ。
槍が折れた。そのまま拳。
ドン!!
妖が吹き飛ぶ。屋台に突っ込んだ。
ドシャァァン!!
リンが遠くで叫ぶ。
「……強すぎ!!」
白蘭はすでに動いていた。静かな足取り。
刀が光る。
シュン。
妖が振り下ろした刃。白蘭の刀が触れる。
ズバン!!
武器が真っ二つ。妖が固まる。次の瞬間白蘭の蹴り。
ドン!!
妖が地面に転がる。白蘭の目は冷たい。
「邪魔だ」
そのとき屋根の上の男が笑った。
「強いな」
鎖を操る妖。細身の男。
「だが」
手を上げる。
「これならどうだ」
次の瞬間。屋根。路地。
さらに黒装束が現れる。
十人。二十人。三十人。
リンが震えた。
「……増えた」
檻の中の妖たちが叫ぶ。
「無理だ!」
「逃げろ!!」
レンが笑った。
「祭りだな」
白蘭が小さく言う。
「レン」
「ん?」
「五分で終わらせる」
レンが肩を回す。
「いいね」
その瞬間。二人が同時に動いた。
ドン!!
地面が爆ぜる。レンが突っ込む。最初の妖へ拳。
ドゴォォン!!
一人が宙を舞う。
その体が後ろの妖にぶつかる。
ドン!ドン!!
二人まとめて倒れる。レンが笑う。
「ボウリング」
後ろから鎖。
シュン!!
レンの足に巻き付く。妖が叫ぶ。
「捕まえた!」
レンが言う。
「そうか?」
力を込める。
バキン!!
鎖が砕けた。
「嘘だろ!?」
そのまま蹴り。
ドン!!
妖が壁に叩きつけられる。
一方白蘭。
静かな動き。刀が閃く。
シュン。ズバン!!
二人の武器が同時に斬れる。
妖たちが驚く。
「速――」
言い終わる前に白蘭の斬撃。
ドン!!
二人が倒れる。白蘭の妖力が広がる。
空気が重い。周囲の妖が足を止める。
「……なんだこの圧」
リンが呟く。
「兄さま怒ってる」
そのとき。遠くから悲鳴。
「助けて!!」
全員が振り向く。市場の奥。別の檻。
そこには小さな妖たち。子どもだった。
それを囲む人狩り。レンの顔が変わる。
「……あいつら」
白蘭の目も細くなる。屋根の男が笑った。
「いい餌だろ?」
「お前たちが来ると思っていた」
レンが言う。
「性格悪いな」
男が鎖を構える。
「捕まえろ」
人狩りたちが子ども妖へ近づく。
リンが叫ぶ。
「やめて!!」
レンが言う。
「白蘭」
「分かっている」
次の瞬間二人が同時に動いた。
ドン!!
地面が砕ける。妖市の炎の中。
二つの影が一直線に走る。
そのスピードに誰も反応できなかった。
炎が揺れていた。妖市の中央通り。
崩れた屋台。砕けた石畳。逃げ惑う妖たち。
その中を二つの影が走る。
レンと白蘭。一直線。子ども妖たちが捕まっている檻へリンが叫んだ。
「兄さま!!」
屋根の上の男が笑う。
「来たな」
鎖を持つ妖――人狩りの幹部。
その手が上がる。
「止めろ」
黒装束の妖たちが一斉に前へ出た。
十人以上。槍。鎖。刃。
レンが言った。
「邪魔」
ドン!!
地面が砕ける。レンが突っ込んだ。
最初の妖へ拳。
ドゴォォン!!
妖が宙を舞う。その体が後ろの妖へ激突。
ドン!ドン!
二人まとめて転がる。次の妖が鎖を振る。
シュン!!
レンの腕に巻き付く。
「捕まえ――」
レンが力を込める。
バキン!!
鎖が砕けた。妖が固まる。
「……は?」
次の瞬間。レンの拳。
ドン!!
妖が地面にめり込んだ。
一方白蘭。
刀が静かに抜かれていた。
シャッ。
妖が突っ込む。槍を振り上げる。
白蘭が一歩前へ。
シュン。
刃が光る。
ズバン!!
槍が真っ二つ。妖が固まる。白蘭の蹴り。
ドン!!
妖が吹き飛ぶ。次の妖。次の妖。
白蘭は一歩も止まらない。
淡々と。静かに。すべてを斬り抜けていく。
檻の中の子ども妖が叫ぶ。
「助けて!!」
リンが歯を食いしばる。
「早く……!」
そのとき屋根の上の男が動いた。
鎖を大きく振り上げる。
シャラララララ!!
十本以上の鎖が空へ広がる。蛇のようにうねる。男が笑った。
「お前らは強い」
「だから」
「ここで終わりだ」
鎖が落ちた。
シュン!シュン!シュン!
レンへ。白蘭へ。同時に襲う。
レンが避ける。
ドン!!
石畳が砕ける。白蘭が斬る。
ズバン!!
二本の鎖が切れる。だが数が多い。レンの足に一本。白蘭の腕に一本巻き付いた。
男が笑う。
「捕まえた」
レンが言う。
「そうか?」
力を込める。
ギギギギ……
鎖が歪む。男の目が細くなる。
「……」
レンが笑う。
「鉄は鉄だ」
バキン!!
鎖が砕けた。同時に。白蘭の刀が動く。
シュン。ズバン!!
腕の鎖が落ちた。男の笑みが消える。
「……化け物」
レンが肩を回す。
「よく言われる」
白蘭が言う。
「終わりだ」
次の瞬間二人が同時に動いた。
ドン!!
地面が爆ぜる。レンが一直線に跳ぶ。
屋根へ。男の目の前。拳。
ドゴォォォン!!
男の体が吹き飛ぶ。屋根を突き破る。
ドシャァァァ!!
瓦が降る。沈黙。レンが屋根の上に立つ。
「終わり」
下では白蘭が檻の前にいた。
刀を振る。
ズバン!!
鎖が切れた。檻が開く。
子ども妖たちが飛び出す。
「ありがとう!!」
「助かった!!」
リンが走ってくる。
「兄さま!」
白蘭が頷く。
「無事か」
「うん!」
そのとき遠くから声。
「妖市の奴らが反撃してるぞ!」
「人狩りを追い出せ!!」
逃げていた妖たちが戻ってきた。戦う妖。
武器を持つ妖。
人狩りたちは次々逃げ始める。
「撤退だ!!」
市場の炎の中。戦いは終わり始めていた。
レンが屋根から降りる。
ドン。
白蘭の横に立つ。
「終わったな」
白蘭が周囲を見る。壊れた妖市。
燃える屋台。だが妖たちは生きている。
白蘭が静かに言う。
「……守れた」
リンが笑う。
「うん!」
レンが空を見る。煙の向こうに夜空。
レンが呟く。
「でも」
白蘭が聞く。
「何だ」
レンが笑う。
「また来るな」
白蘭が小さく頷く。
「来る」
そして言った。
「そのときは」
刀を握る。
「斬る」
レンが拳を鳴らす。
バキバキ。
「殴る」
妖市の夜。炎の残り火の中。
二人の影が並んで立っていた。




