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第4話人狩りの罠

妖市の朝は、夜よりも騒がしかった。昨夜の戦いの痕跡がまだ残っている。壊れた屋台。割れた柱。そして修理する妖たち。


「……」


レンは欠伸をした。


「眠い」


「当然だ」


白蘭が言う。


「昨夜は戦いすぎた」


レンは腕を回す。


「体バキバキだ」


宿の外の縁側に二人は座っていた。朝の霧がまだ残っている。


「……」


レンは横を見る。白蘭はいつもの狐面をつけていた。


「また面つけてんのか」


「落ち着く」


「イケメンなのにもったいねぇ」


「放っておけ」


レンは笑う。


「王子様」


「やめろ」


「王子」


「やめろ」


「白蘭王子」


白蘭がため息をついた。


「……殴るぞ」


「やってみろ」


二人のやり取りを、少し離れた場所から誰かが見ていた。小さな影。狐の耳。少女だった。


「……」


少女はしばらく見ていた。そして近づく。


「ねぇ」


レンが振り向く。


「ん?」


少女は十歳くらい。金色の瞳。


小さな狐の耳。


「あなた」


「俺?」


「人間でしょ」


「そうだけど」


少女は目を輝かせた。


「初めて見た!」


レンが笑う。


「人気者だな俺」


白蘭が小さく言う。


「珍しいだけだ」


少女が白蘭を見る。


「……あ」


白蘭が少しだけ顔を背けた。少女が言う。


「白蘭兄さま?」


レンが固まる。


「……兄さま?」


白蘭が小さく呟く。


「……リン」


少女が笑った。


「やっぱり!」


レンが言う。


「知り合い?」


白蘭が小さく頷く。


「……従妹だ」


レンが驚く。


「親戚いたの!?」


リンがレンを見る。


「あなた誰?」


「レン」


「人間?」


「そう」


リンが嬉しそうに笑う。


「すごい!」


レンが苦笑する。


「動物園扱いだ」


白蘭が言う。


「リン」


「なに?」


「なぜここにいる」


リンが肩をすくめる。


「遊び」


「嘘だ」


「ちょっとだけ」


白蘭の声が低くなる。


「狐族の領域を出たのか」


リンは視線を逸らした。


「……ちょっと」


レンが呟く。


「家出?」


「違う!」


リンが抗議する。そのとき遠くの屋台から声がした。


「おーい!」


大きな声。太った妖の商人が手を振る。


「白蘭!」


「……」


「久しぶりだな!」


白蘭が立ち上がる。


「知り合い?」


レンが聞く。


「妖市の商人だ」


三人は屋台へ歩く。そこは香辛料の店だった。色とりどりの瓶。


「よぉ」


商人が笑う。


「昨夜は派手だったな」


「……噂が早い」


「そりゃそうだ」


商人がレンを見る。


「こいつが人間か」


「そうだ」


「強いらしいな」


レンが笑う。


「そこそこ」


商人が言う。


「気をつけろ」


「何を」


「人狩り」


レンが肩をすくめる。


「またそれか」


商人の顔が真剣になる。


「奴は諦めない」


「……」


「人間は高い」


レンが舌打ちする。


「本当に商品扱いだな」


そのときリンが言った。


「人狩り?」


白蘭がリンを見る。


「知らないのか」


「うん」


商人が言う。


「最近出た妖だ」


「人間を捕まえて売る」


リンの顔が曇る。


「……ひどい」


レンが笑う。


「まぁ俺捕まりそうだけど」


「笑い事じゃない」


白蘭が言う。その瞬間風が吹いた。屋台の布が揺れる。レンの背筋に寒気が走った。


「……」


白蘭も気付いた。周囲の空気。


わずかに変わった。


「……レン」


「ん?」


「警戒しろ」


レンが拳を握る。


「もう来た?」


次の瞬間。屋台の影が動いた。黒い鎖。


シュン。


レンの足に巻き付く。


「っ!」


引かれる。


「レン!」


白蘭が叫ぶ。屋台の裏。黒い影。仮面の男。人狩り。


「見つけた」


低い声。


「人間」


レンが引きずられる。


「おい!」


白蘭が剣を抜く。だが黒い霧が広がる。


視界が遮られる。レンの声。


「白蘭!」


そして鎖が消えた。霧が晴れる。


そこには誰もいなかった。


白蘭の目が細くなる。


「……連れて行かれた」


リンが震える。


「兄さま……」


白蘭が剣を握る。その力が強すぎて柄がきしんだ。


「……人狩り」


声が低い。


「必ず見つける」


暗い。湿った空気。カビと鉄の匂い。


「……」


レンはゆっくり目を開けた。


「……いてぇ」


頭が重い。後頭部に鈍い痛み。


「くそ……」


体を動かそうとして気付く。腕が動かない。


金属音。ガチャ。


「……」


鎖だった。


両手が後ろで縛られている。足にも鎖。


「マジかよ」


レンは辺りを見る。石造りの部屋。


地下。鉄格子。牢屋だった。


「……捕まったか」


レンはため息をつく。


「白蘭怒ってそうだな」


そのとき。隣から声。


「……起きた?」


レンが振り向く。別の牢屋。そこにいたのは少年だった。十五歳くらい。銀色の髪。


痩せた体。


「人間?」


レンが聞く。少年が頷く。


「うん」


「お前も?」


「捕まった」


レンが笑う。


「仲間だな」


少年は少し驚いた。


「……怖くないの?」


「何が」


「ここ」


レンは肩をすくめる。


「まぁそのうち壊すし」


「え?」


少年が固まる。


「壊す?」


「うん」


レンが鎖を引く。


ガチャ。


「……硬いな」


少年が慌てる。


「やめたほうがいい!」


「なんで」


「来る!」


足音。


コツ。コツ。コツ。


階段を降りてくる音。レンが舌打ちする。


「早いな」


扉が開く。


ギィ。


入ってきたのは仮面の男。人狩り。


「起きたか」


低い声。レンが睨む。


「お前か」


人狩りはゆっくり歩く。黒い外套。


鎖が腰に巻かれている。


「珍しい」


「何が」


「目が死んでいない」


レンが笑う。


「そりゃどうも」


人狩りは牢の前に立つ。


「人間」


「レンだ」


「名前はどうでもいい」


レンがため息。


「感じ悪いな」


人狩りが言う。


「お前は高く売れる」


「へぇ」


「妖は人間が好きだ」


「知ってる」


「特に」


人狩りが少し近づく。


「強い人間」


レンの目が細くなる。


「見てたのか」


「妖市」


「……」


「面白い」


レンが笑う。


「ファンか?」


沈黙。次の瞬間。鎖が飛ぶ。


シュン!


レンの首に巻き付く。


「っ!」


人狩りが引く。


ガン!


レンの体が鉄格子に叩きつけられる。


「ぐっ……!」


少年が叫ぶ。


「やめろ!」


人狩りは無視する。


「強いが」


「商品だ」


レンが歯を食いしばる。


「……くそ」


首の鎖が締まる。呼吸が苦しい。


人狩りが言う。


「抵抗するな」


「殺さない程度に壊す」


レンの目が変わる。静かに。


「……は?」


空気が変わった。少年が気付く。


「……え?」


レンがゆっくり言う。


「壊す?」


次の瞬間。レンが鎖を握る。


ギギギ。


人狩りが止まる。


「……?」


レンの腕。筋肉が膨らむ。


血管が浮き出る。


「俺を?」


 バキッ!!


鎖が。曲がった。少年が叫ぶ。


「えええ!?」


人狩りの目が細くなる。


「……」


レンが笑う。


「無理だな」


バキン!!


鎖が砕けた。鉄片が飛び散る。


レンが首を回す。


ゴキ。


「痛かった」


沈黙。人狩りが呟く。


「……なるほど」


レンが立ち上がる。まだ足の鎖はある。


「でも」


「動ける」


レンが蹴る。


ガン!


鉄格子。歪む。少年が震える。


「嘘だろ……」


人狩りが鎖を構える。


「面白い」


レンが言う。


「ちょうどいい」


「退屈だった」


鎖が飛ぶ。


シュン!


レンが避ける。


ドン!


床に突き刺さる。


「速いな」


レンが鎖を掴む。引く。


「っ!?」


人狩りの体が引っ張られる。


レンが拳を振る。


ドゴン!!


仮面が割れる。人狩りが吹き飛ぶ。


壁に叩きつけられる。


 ドン!!


沈黙。少年が震える。


「……つよ」


レンが言う。


「さて」


「帰るか」


その瞬間。天井から声。


「それは困る」


レンが見上げる。そこにはもう一人いた。


黒い衣。長い髪。そして大量の鎖。


「……」


レンが笑う。


「増えた」


新しい人狩りが言う。


「私は本物だ」


床の男を指す。


「それは部下」


レンが肩を回す。


「なるほど」


「じゃあ」


笑う。


「ボス戦か」


鎖が一斉に動いた。鎖が動いた。


無数の黒い鎖。蛇のようにうねりながら、天井から降りてくる。


シャララララ……!


鉄が擦れる音が地下室に響いた。


「……」


レンはゆっくり拳を握る。


「派手だな」


天井に立つ男本物の人狩りは静かに言う。


「お前は特別だ」


「そうか」


「普通の人間はここまで抵抗しない」


レンは笑った。


「普通じゃないからな」


次の瞬間。鎖が一斉に襲いかかった。


シュン!!


レンが横へ跳ぶ。


ドガン!!


床が砕ける。


「おいおい」


レンが呟く。


「殺す気満々じゃねぇか」


人狩りは静かに言う。


「死なない程度だ」


さらに鎖が飛ぶ。


シュン!シュン!シュン!


レンは避ける。滑る。蹴る。


ガン!


鎖を弾く。


だが。


「ちっ」


数が多い。


四本。六本。十本。


四方八方から迫る。


シュン


一本が足に巻き付く。


「っ!」


引かれる。レンの体が浮く。


その瞬間別の鎖が腹へ。


ドゴン!!


レンが壁へ叩きつけられる。


ドン!!


石壁が割れた。少年が叫ぶ。


「レン!!」


煙が上がる。人狩りが呟く。


「やはり人間」


煙の中から声。


「……痛ぇな」


レンが出てきた。口の端から血。


だが笑っている。


「でも」


首を回す。


ゴキ。


「楽しくなってきた」


人狩りの目が細くなる。


「……」


レンが足の鎖を掴む。力を込める。


ギギギギ……


金属が歪む。人狩りが言う。


「無駄だ」


「妖鎖だ」


「妖力で鍛えた鎖」


レンが言う。


「へぇ」


そして。


バキン!!


鎖が砕けた。少年が叫ぶ。


「また!?」


人狩りの目が初めて揺れた。


「……」


レンが笑う。


「妖でも鉄は鉄だ」


次の瞬間。レンが踏み込む。


ドン!!


床が砕けた。人狩りへ一直線。拳。


ドゴン!!


だが鎖が壁になる。


 ガン!!


レンの拳が止まる。


「硬いな」


人狩りが鎖を操る。


シュン!


レンの背中に巻き付く。


シュン!


腕。


シュン!


首。あっという間に十数本。レンの体が拘束される。人狩りが言う。


「捕獲完了」


レンが動こうとする。


ギギギギ……


だが今度は動かない。人狩りが近づく。


「これで終わりだ」


そのとき上から轟音。


ドォォォン!!


天井が爆発した。瓦礫が落ちる。


人狩りが上を見る。


「……?」


煙の中。影。静かに降りてくる。


白い髪。狐面。長い刀。


「……」


白蘭だった。レンが笑う。


「遅い」


白蘭の声は低かった。


「黙れ」


その声に少年が震えた。


「……こわ」


白蘭が人狩りを見る。


「放せ」


人狩りが言う。


「狐族か」


「珍しい」


「……」


白蘭の妖力が広がる。空気が重くなる。


地下室の石がきしむ。人狩りが少し驚く。


「ほう」


白蘭が言う。


「三秒やる」


「何?」


「鎖を外せ」


沈黙。そして人狩りが笑った。


「断る」


次の瞬間白蘭が消えた。


シュン!!


斬撃。


ズバン!!


鎖が全部一瞬で切れた。


レンが落ちる。


「おっと」


着地。レンが笑う。


「助かった」


白蘭が言う。


「黙れ」


「怒ってる?」


「当たり前だ」


人狩りが言う。


「速い」


白蘭が刀を構える。


「お前」


「人間を売って何をする」


人狩りが静かに言う。


「金」


「それだけ?」


「それだけで十分だ」


レンが言う。


「胸糞悪いな」


人狩りが鎖を構える。


「二対一か」


レンが笑う。


「いや」


拳を鳴らす。バキバキ。


「俺一人でいい」


白蘭が言う。


「調子に乗るな」


レンが笑う。


「だって」


目が光る。


「まだ本気出してない」


空気が変わる。少年が呟く。


「……なにこれ」


レンの体から圧力。人間とは思えない気配。白蘭が小さく言う。


「……レン」


「ん?」


「壊すなよ」


レンが笑う。


「努力する」


次の瞬間レンが消えた。


ドン!!


人狩りの目の前。拳。


ドゴォォン!!!


鎖ごと人狩りが吹き飛ぶ。壁を突き破る。


地下室が揺れる。少年が叫ぶ。


「ええええ!?」


レンが肩を回す。


「よし」


「二ラウンドだ」


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