第19話妖界城攻略
黒天宮は、妖界の中心にそびえていた。
遠くから見たときでも巨大だったが、近づくにつれてその異様さはさらに際立っていく。山そのものが城になったような構造。黒い岩で作られた巨大な壁。
空へ突き刺さるように伸びる塔。そのすべてから、濃密な妖気が噴き出していた。
リンが思わず呟く。
「……でっか」
レンが肩を回した。
「殴りがいありそうだな」
カイトは城壁を見上げながら言う。
「正面突破は無理だ」
ゼルが笑う。
「お前なら行けそうだけどな」
イリスが指を差した。
「門」
城の正面。巨大な黒い門があった。高さだけでも百メートルはある。
その前に立っている影。リンが目を凝らす。
「……あれ」
白蘭が静かに言う。
「守護」
その影が動いた。巨大な体。黒い鎧のような皮膚。
角を持つ妖。そして――その後ろにも、同じ気配が三つ。
レンが笑う。
「四人か」
白蘭が頷く。
「四天王」
リンの顔が固まる。
「え」
ゼルが楽しそうに言う。
「王城の番人だな」
その瞬間四体の妖の目が一斉に光った。
ゴォォォォ……
空気が震える。その中の一体が前に出る。
巨大な鎌のような腕を持つ妖。低い声が響く。
「侵入者」
次の妖が笑う。細長い体。蛇のような瞳。
「人間が混ざっているな」
三体目。岩の巨人のような体。
「殺す」
そして最後黒い翼を持つ妖がゆっくり降りてきた。
その目がレンを見ている。
「……器」
白蘭の目が細くなる。レンが笑う。
「有名人?」
翼の妖が言う。
「王が待っている」
その瞬間四体の妖気が爆発した。
リンが思わず後ずさる。
「ちょっと待ってこれ」
カイトが剣を抜く。鋭い音。
「分かれて戦うしかない」
ゼルが笑う。
「いいね」
イリスも頷く。
「じゃあ」
白蘭が言った。
「任せる」
四天王の一体。蛇の妖が前に出る。舌を鳴らす。
「小さい女」
リンを見た。
「お前だ」
リンが固まる。
「え?」
その瞬間蛇妖が消えた。リンの目の前に現れる。
鋭い爪が振り下ろされる。カイトが叫ぶ。
「リン!」
リンは反射的に符を投げた。光が弾ける。
ドン!!
衝撃。蛇妖が少しだけ後ろへ下がる。蛇妖が笑う。
「面白い」
リンの手が震えていた。だが逃げない。
リンが言う。
「……やるしかないんだよね」
その一方岩の巨人がカイトへ歩いてくる。
地面が揺れる。巨人が拳を振り上げた。
「潰す」
カイトは目を閉じた。一瞬そして剣を構える。
空気が静まる。次の瞬間巨人の拳が落ちる。
ドォォォン!!
地面が爆発する。しかし煙が晴れたときカイトはそこにいなかった。
巨人の背後。カイトが立っている。剣が一閃する。
シュン。
静かな音。巨人の腕が落ちた。ズドン。岩の腕が地面へ落ちる。ゼルが口笛を吹く。
「人間の剣じゃねぇな」
その頃白蘭の前には翼の妖が立っていた。互いに静かに見つめる。
翼の妖が言う。
「元王」
白蘭は答える。
「久しいな」
翼の妖が笑う。
「裏切り者」
白蘭は目を閉じた。
「そうかもしれない」
そして静かに手を上げる。光が溢れた。背後に現れる巨大な翼。元妖王の力。
ゼルが振り向く。
「おお」
イリスも呟く。
「本気だ」
最後。レンの前に立つのは四天王の中で最も大きな妖黒い鎧の巨体。
巨大な斧を持つ。その目がレンを見下ろす。
「器」
レンが拳を鳴らす。
「ボス?」
妖が答える。
「四天王筆頭」
地面が震える。妖気が嵐のように吹き荒れる。
「ここで終わりだ」
レンは笑った。黒い妖気が体から溢れる。背後の妖王の影が揺れる。
「やっと」
拳を構える。
「城に入れそうだ」
そして四つの戦いが同時に始まった。
黒天宮の門前。四つの戦いが同時に始まっていた。
空気は濃い妖気で満ちている。地面はすでに何度も砕け、黒い岩の破片が荒野に散らばっていた。最初に動いたのはリンだった。蛇の妖が笑いながら距離を詰める。
細長い体。鋭い瞳。爪は刃のように光っている。
「人間」
蛇妖が舌を鳴らす。
「弱い」
次の瞬間蛇妖の体が消えた。リンの背後。振り向く暇もない。
鋭い爪が振り下ろされる。リンは咄嗟に符を投げた。
「守符!」
青い光が広がる。
ドォン!!
衝撃が弾ける。リンの体が後ろへ転がる。地面を滑りながらも立ち上がる。
手が震えていた。蛇妖が笑う。
「弱い」
リンは歯を食いしばる。だが逃げない。符を握り直す。
「弱いのは知ってる」
呼吸を整える。
「でも」
目を上げる。
「負けるつもりない」
その瞬間だった。リンの符が、わずかに光った。
白蘭が遠くで目を細める。
「……覚醒」
リンの周囲に妖気が集まり始める。人間のものではない、もう一つの力。
リン自身も驚いていた。
「え……?」
符が浮かび上がる。空中で回転する。蛇妖の目が細くなる。
「面白い」
リンの声が静かになる。
「来い」
符が一斉に光った。その頃城門の左側。
岩の巨人とカイトが向き合っていた。巨人は腕を失っている。
しかし止まらない。残った腕を振り上げる。巨大な拳。空気が裂ける。
カイトは一歩も動かなかった。ただ剣を構える。静かに息を吐く。
剣がわずかに震える。その瞬間巨人の拳が落ちる。
ドォォォン!!地面が砕ける。煙が舞う。しかし巨人の体が止まった。
胸に細い線が走る。
スッ。
その線がゆっくり開く。次の瞬間巨人の上半身が滑り落ちた。
ズドォォン!!
岩の巨体が崩れ落ちる。ゼルが口笛を吹く。
「人間最強かもな」
カイトは剣を下ろす。
「まだ終わりじゃない」
視線は城門へ向く。その頃空中では白蘭と翼の妖が向き合っていた。
白い光。黒い翼。対照的な力がぶつかる。翼の妖が言う。
「裏切り者」
白蘭は静かに答える。
「そうかもしれない」
翼が広がる。光が溢れる。背後に巨大な王の影。元妖王の力。
翼の妖が突っ込む。黒い羽が刃のように飛ぶ。白蘭は手を上げた。
光の壁が生まれる。羽が弾かれる。白蘭の目が鋭くなる。
「終わりだ」
光が一瞬で収束した。次の瞬間、白い閃光。翼の妖の体が空中で止まる。
そしてゆっくり地面へ落ちた。
ドン。
静かな衝撃。その頃城門の正面。レンと四天王筆頭がぶつかっていた。
巨大な斧。レンの拳。
ドォォォン!!
衝撃波が周囲の岩を吹き飛ばす。筆頭妖が唸る。
「強い」
レンが笑う。
「だろ」
再び斧が振り下ろされる。レンが腕で受ける。地面が沈む。
しかしレンは笑っていた。背後の影が大きくなる。
妖王の影。黒い妖気が渦を巻く。筆頭妖の目が見開く。
「……王」
レンが拳を握る。
「半分だけな」
黒い力が腕に集中する。
次の瞬間レンの拳が振り抜かれた。
ドォォォォン!!
筆頭妖の巨体が吹き飛ぶ。城門に激突する。
巨大な門が揺れる。
バキッ。
亀裂が走る。レンが歩き出す。
「開けろ」
もう一発。拳が叩き込まれる。
ドォォォォン!!
黒天宮の門がついに崩れ落ちた。
レンが振り向く。
「行くぞ」
その先城の奥からさらに巨大な妖気が流れていた。
白蘭が静かに言う。
「王の間」
レンが笑う。
「やっとか」
そして彼ら妖界の王城へ足を踏み入れた。
黒天宮の門が崩れ落ちた。巨大な黒い扉が地面へ倒れ、重い衝撃音が妖界の荒野に響く。砕けた石の粉が舞い上がり、城の内部へと続く闇が姿を現した。リンが息を呑む。
「……入れる」
カイトが剣を握り直す。
「警戒しろ」
ゼルが笑う。
「ここまで来て引き返すわけないだろ」
イリスは肩を回した。
「王様とやらに挨拶しないとね」
レンは門の前で立ち止まっていた。城の奥から流れてくる妖気を感じている。
それは今までの敵とは明らかに違う。
深い。重い。そして、底が見えない。レンが小さく呟く。
「……いるな」
白蘭が隣に立った。
「ああ」
短い返事。白蘭の視線は城の奥に向けられている。
「黒皇」
リンが聞き返す。
「こくおう?」
白蘭が静かに頷いた。
「妖界の王」
ゼルが肩をすくめる。
「ついにラスボスか」
その瞬間だった。城の奥から声が響いた。低く、ゆっくりとした声。
「来たか」
空気が震える。リンの背筋が冷えた。声は遠いはずなのに、すぐ耳元で囁かれているようだった。白蘭が目を細める。
「……黒皇」
声は続く。
「器」
レンの体がわずかに反応した。頭の奥で、妖王の影が低く唸る。
『あれだ』
レンが小さく笑う
「分かってる」
声は再び響いた。
「待っている」
城の奥から妖気が溢れ出す。廊下の闇が揺れる。カイトが言う。
「誘っているな」
白蘭が答える。
「試している」
リンが不安そうに言った。
「罠とかじゃないよね」
ゼルが笑う。
「罠でも行くだろ」
イリスが言う。
「どうせ」
レンが歩き出した。瓦礫を踏み越え、黒天宮の中へ入る。
他の全員が続く。城の内部は広かった。天井は見えないほど高い。
壁には奇妙な紋様が刻まれている。まるで生きているように、ゆっくりと脈打っていた。リンが小さく言う。
「気持ち悪い……」
カイトは周囲を警戒しながら歩く。だが敵は現れない。廊下を進み。階段を上がり。さらに奥へ。そして巨大な扉の前へたどり着いた。
高さ二十メートルはある。黒い石で作られた扉。その中心に、王の紋章が刻まれていた。白蘭が言う。
「王の間」
レンが扉を見る。
「この向こうか」
リンが息を飲む。
「……いよいよ」
そのときだった。扉がひとりでに動いた。
ゴォォォォ……
重い音。ゆっくりと開く。暗い空間が姿を現す。
巨大な広間。奥の高い階段。そしてその頂上にある玉座。
そこに、一つの影が座っていた。黒い衣。長い髪。
顔は暗くて見えない。だが、その存在だけで空気が凍る。
リンの体が震える。
「……あれが」
白蘭が静かに言った。
「黒皇」
影がゆっくり立ち上がる。長い階段の上から、レンを見下ろす。
赤い目が闇の中で光った。
「器」
低い声。世界そのものが響くような声だった。
レンは笑う。
「お前が王か」
拳を鳴らす。黒皇がゆっくり歩き始める。
階段を降りるたびに、床が震える。黒い妖気が溢れる。
白蘭の顔がわずかに険しくなる。
「気をつけろ」
レンが言う。
「分かってる」
黒皇が止まった。階段の途中。レンを見下ろしている。
そして静かに言った。
「ようやく」
その目が輝く。
「会えた」
妖界の王。黒皇。そして――レンが一歩前へ出る。
背後に妖王の影が広がる。二つの王の力が、広間を満たす。
黒皇が笑った。
「始めよう」
その瞬間王の間で世界を揺るがす戦いが始まろうとしていた。




