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第18話王の門

裂けた空が、夜を二つに分けていた。妖市の上空に走る巨大な亀裂。その向こうには、人間界の街が広がっている。ネオンの光、走る車のヘッドライト、遠くで鳴るサイレン。ほんの数分前まで別世界だった光景が、今は手を伸ばせば触れられそうな距離にある。リンは呆然と空を見上げていた。


「……本当に繋がっちゃった」


瓦礫の上でカイトが腕を組む。


「境界の崩壊だな」


声は落ち着いているが、目は鋭い。妖気の流れが明らかに変わっていた。裂け目の向こうから、人間の匂いが流れ込んでくる。そして同時に、こちら側からも妖の気配が溢れ出している。遠くの森から咆哮が響いた。低く、獣のような声。


リンが震える。


「ねえ……あれって」


カイトが短く答える。


「妖だ」


その一言で、リンの背筋が冷えた。ゼルが肩をすくめる。


「そりゃそうだろ」


瓦礫の上に座りながら笑う。


「門が開いたんだ。出ていく奴もいる」


イリスが空を見上げた。


「問題は――」


目を細める。


「向こうからも来るってこと」


その瞬間だった。裂け目の向こう、夜の街の上空に影が現れた。巨大な影。


翼を広げた妖が、ゆっくりと人間界へ滑り出ていく。リンが叫んだ。


「うそでしょ!?」


その妖はビルの屋上に降り立つ。人間界の街灯が、その異形を照らした。


車が急停止する音。人の悲鳴。遠くで警報が鳴り始めた。


カイトが低く言う。


「もう始まっている」


ゼルが笑う。


「面白くなってきた」


イリスはため息をついた。


「全然面白くない」


そのとき戦場の中心で、レンが空を見上げていた。


裂けた空。人間界。そしてその奥。さらに深い闇。そこから流れてくる巨大な妖気。


レンが言う。


「……いるな」


白蘭が隣に立つ。


「ああ」


静かな声。


「真の王」


レンが首を鳴らした。


「遠いな」


白蘭は答える。


「妖界の中心だ」


リンが振り向く。


「妖界?」


白蘭は裂け目を見上げる。


「この亀裂はただの穴じゃない」


ゆっくり言う。


「門だ」


カイトが聞く。


「どこへの」


白蘭が答える。


「妖界」


その言葉に、空気が静かに止まった。ゼルが笑う。


「つまり」


指を鳴らす。


「向こう行けるってことか」


白蘭が頷く。


「そうだ」


レンが拳を握る。


「ちょうどいい」


リンが叫ぶ。


「ちょっと待って!」


全員が見る。リンは焦った顔で言った。


「妖界って……妖の世界でしょ!?」


「そうだ」


リン


「そこに行くの!?」


レン


「ああ」


リン


「死ぬよ!?」


レンが笑う。


「もう何回も死にかけてる」


カイトが小さく息を吐いた。


「それに」


空を見上げる。


「行かなければ止まらない」


裂け目の向こうで人間界の街で、また爆発が起きた。


妖が暴れている。白蘭が言う。


「黒幕を倒すしかない」


レンが言う。


「そいつが真の王か」


拳を鳴らす。白蘭は静かに頷いた。そのとき裂け目がさらに広がる。


バキィィィィ!!


空が砕ける音。巨大な渦が生まれる。黒い風が吹き荒れる。


ゼルが笑った。


「門が開くぞ」


イリスが言う。


「完全に」


裂け目の中央。黒い円が広がる。深い闇の穴。


その奥から、凄まじい妖気が吹き出した。リンが震える。


「……これが」


白蘭が言う。


「王の門」


レンが一歩前に出た。その背後で、妖王の影が揺れる。


黒い妖気が広がる。レンが笑う。


「行くぞ」


振り向く。


「王ぶん殴りに」


そしてレンは迷いなく門へ飛び込んだ。


黒い渦が、彼の体を飲み込む。リンが叫ぶ。


「レン!!」


白蘭は微笑んだ。


「行こう」


そして――妖界への戦いが始まった。


黒い渦の中へ、レンの体は迷いなく落ちていった。


風の感覚はなかった。落ちているのか、浮いているのかも分からない。ただ周囲には、黒い霧のようなものが渦巻いている。耳鳴りのような低い音がずっと続いていた。レンは舌打ちする。


「……長ぇな」


その瞬間だった。足元に地面の感触が戻った。


ドン。


鈍い衝撃。レンは片膝をつき、そのままゆっくり立ち上がる。


周囲を見回す。


「……ここが」


そこは広大な荒野だった。空は赤黒い雲で覆われている。太陽のようなものは見えないのに、どこか薄暗く明るい。地面はひび割れた黒い岩。遠くには、巨大な山脈のような影がいくつもそびえていた。風が吹く。


その風には、明確に「妖気」が混じっていた。レンが笑う。


「妖だらけってわけか」


背後で空気が揺れた。次の瞬間、白蘭が現れる。静かに地面へ降り立つ。


「ここが妖界だ」


レンが振り向く。


「思ったより普通だな」


白蘭は首を振る。


「ここは外縁だ中心へ行くほど、妖気は濃くなる」


そのとき黒い渦が再び揺れた。リンが落ちてくる。


「きゃあああああ!!」


ドサッ。


地面に転がる。


リンはそのまま起き上がり、砂を払いながら叫んだ。


「痛っ!!」


レンが笑う。


「よう」


リンが怒鳴る。


「ようじゃないよ!」


その直後カイトが静かに着地する。ゼルとイリスも続いた。全員が揃う。


リンが周囲を見回す。


「……ここが妖界」


遠くの空で、何か巨大な影が飛んでいた。翼を持つ妖。その数は一体ではない。


何十体も、空を巡回している。カイトが言う。


「警戒しているな」


ゼルが笑う。


「侵入者だからな」


イリスが腕を組む。


「つまり歓迎されてない」


そのとき白蘭が遠くを見ていた。


目を細める。レンが聞く。


「見えるのか」


白蘭が静かに頷く。


「王城」


レンが目を凝らす。遠くの地平線の彼方。


巨大な黒い影があった。山のような城。空を突き刺す塔。


その頂点から、巨大な妖気が立ち上っている。


レンが口笛を吹いた。


「でかいな」


白蘭


「黒天宮」


カイト


「真の王の城か」


白蘭は言う。


「あそこに黒皇がいる」


その瞬間だった。


ドン。


地面が揺れた。リンが振り向く。


「……え?」


遠くの丘の向こうから、巨大な影が現れた。


一体ではない。十体。二十体。


いやそれ以上。巨大な妖の群れ。獣のような姿。


腕が四本あるもの。頭が三つあるもの。


明らかに戦闘用の妖たち。ゼルが笑う。


「お出迎えだ」


イリス


「最悪」


カイトが剣を抜いた。レンが拳を鳴らす。


ゴキッ。


その音が荒野に響く。レンが笑う。


「いいじゃん」


妖たちが一斉に咆哮した。


ゴォォォォォ!!


地面が震える。リンが叫ぶ。


「数多すぎ!!」


レンは一歩前に出た。黒い妖気が背後に広がる。


妖王の影が揺れる。レンが言う。


「準備運動だ」


そして次の瞬間レンは妖の群れへ真正面から突っ込んだ。


荒野に、妖の咆哮が響いていた。


数十体の妖。巨大な獣のような体。岩のような腕。鋭い牙。


それらが一斉にレンへ向かって突進してくる。リンが叫んだ。


「レン!!」


だがレンは止まらなかった。むしろ笑っていた。


「いいじゃん」


拳を握る。黒い妖気が腕にまとわりつく。


背後には巨大な影――妖王の姿が揺れている。


最初の妖が飛びかかる。四本腕の巨体。爪が振り下ろされる。


レンはそれを見上げる。


「遅ぇ」


ドォン!!


一撃。拳が妖の腹にめり込んだ。次の瞬間、巨体が吹き飛ぶ。


数十メートル先の岩壁に激突する。爆発のような衝撃。


ゼルが口笛を吹いた。


「相変わらず派手」


次の妖が突進してくる。三つ首の獣。牙をむき、三方向から噛みつく。


レンは体をひねった。一つ目の首を拳で叩き落とす。二つ目を蹴り飛ばす。


三つ目が迫る。レンは頭をつかんだ。


「邪魔」


そのまま地面へ叩きつける。


ドゴォォン!!


地面が砕ける。周囲の妖が一瞬ひるむ。その隙にカイトが動いた。


剣が閃く。銀の線が走る。次の瞬間。三体の妖の体がずれる。


そして崩れ落ちた。リンが叫ぶ。


「早い!」


カイトは淡々と言う。


「まだ来る」


その言葉通りだった。残りの妖が一斉に襲いかかる。


ゼルが前に出る。指を鳴らす。


「任せろ」


炎のような妖気が腕に集まる。拳を振る。


ゴォォン!!


衝撃波。数体の妖が宙へ吹き飛ぶ。イリスがその間に走り込む。


細い刃が光る。妖の足を斬り裂く巨体が崩れる。


リンも妖符を取り出した。


「えっと!」


地面へ投げる。符が光る。


ドン!!


爆発。妖が転がる。ゼルが笑う。


「いいじゃん」


リンが言い返す。


「必死なんだけど!」


そのときだった。突然妖たちの動きが止まった。


まるで命令されたように全員が同じ方向を見る。遠くの荒野。


そこからゆっくり歩いてくる影。リンが震える声で言った。


「……何あれ」


巨大だった。普通の妖の三倍はある。黒い鎧のような体。頭には二本の角。


目が赤く光っている。白蘭が静かに言った。


「将軍級」


カイトが眉をひそめる。


「王城の守護か」


その妖が口を開く。低い声。


「侵入者」


地面が震える。妖たちが道を開ける。


その巨体が前へ出る。レンが首を鳴らした。


「ボスか」


将軍妖が言う。


「ここは王の領域」


拳を握る。


「死ね」


その瞬間。巨体が消えた。


リンが叫ぶ。


「速い!」


次の瞬間、レンの目の前に現れる。巨大な拳が振り下ろされる。


ドォォォン!!


地面が爆発する。砂煙が舞う。リンが叫ぶ。


「レン!!」


煙の中から声がする。


「……いいな」


風が吹いた。煙が割れる。そこに立っていたのはレンだった。


片手で拳を止めている。将軍妖の巨大な拳を。レンが笑う。


「やっと」


黒い妖気が爆発する。背後の妖王の影が大きく広がる。


レンの目が赤く光る。


「強そうなの来た」


そしてレンは拳を引いた。


ドォォォォン!!


一撃。将軍妖の巨体が宙へ吹き飛ぶ。


数十メートル先の地面へ叩きつけられる。


荒野が沈む。ゼルが笑う。


「終わったな」


だが白蘭は空を見ていた。


「いや」


静かな声。全員が見る。遠くの空。黒天宮の方向。


そこからさらに巨大な妖気が立ち上っていた。


白蘭が言う。


「王が気づいた」


レンが笑う。


「いいじゃん」


拳を鳴らす。


「呼びに行く手間省けた」


黒天宮の頂上。黒皇がゆっくり立ち上がる。その目が、遠くのレンを見ていた。


「……来たか」


妖界の空に戦争の気配が広がる。


そして王城への進軍が始まった。


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