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第12話妖王覚醒

妖市の中心。


煙がゆっくりと晴れていく。


さっきの衝突。


レンとヴァルガ。


二つの拳がぶつかった瞬間に起きた爆発は、街の中心を丸ごと吹き飛ばしていた。


石畳は完全に砕け、建物の残骸が山のように積み上がっている。空にはまだ黒い妖気が漂っていた。誰も動かなかった。


リンも。カイトも。長老も。ゼルも。


イリスも。ただ煙の中心を見ていた。


やがて瓦礫がゆっくり動く。


ガラ……


巨体が立ち上がった。ヴァルガだった。


黒い体、巨大な腕、赤い目。


だがその体にははっきりとダメージが残っていた。


胸に大きな亀裂。腕の筋肉が裂けている。


黒い血が流れていた。ゼルが目を細める。




「……本当にやるとはな」


イリスが小さく笑う。


「ヴァルガが押された」


長老は震えていた。


「あり得ない……」


そして煙の中。


もう一つの影が動く。


レンだった。


瓦礫の上に立つ。体中に傷。


額から血が流れている。


だが笑っていた。




「いてぇ」


肩を回す。


「めちゃくちゃ重いパンチだったな」


カイトが息を吐く。


「生きてるのがおかしい」


レンが振り向く。


「褒めてる?」


「呆れてる」


そのときヴァルガがゆっくり顔を上げた。


赤い目。レンを見る。


完全に敵として認識していた。


ヴァルガの喉から低い唸りが漏れる。


ゴォォォ……


その音だけで空気が震える。


レンが拳を握る。




「まだやるか」


だが次の瞬間ヴァルガの体から


妖気が噴き出した。


ドォォォォォ!!


黒い嵐のような妖気。空へ吹き上がる。


長老の顔が変わる。


「まずい……」


リンが振り向く。


「何が?」


長老が言う。


「ヴァルガは」


声が低くなる。


「まだ本気じゃなかった」


リンの顔が固まる。


「え?」


ヴァルガの体が膨れ上がる。


筋肉がさらに膨張する。


骨が軋む音。黒い角が少し長くなる。


妖気の密度が変わる。カイトが呟く。


「完全覚醒」


レンが笑う。


「マジかよ」


ヴァルガの赤い目がさらに光る。


そして地面が爆発した。


ドォォォン!!


ヴァルガが走った。


今までとは比較にならない速度。


レンの目が開く。


「速――」


次の瞬間レンの体が吹き飛んだ。


ドゴォォォン!!


建物の残骸を突き破る。


瓦礫が崩れる。


リンが叫ぶ。


「レン!!」


カイトが歯を食いしばる。


「速すぎる」


ヴァルガがさらに動く。


レンの落ちた瓦礫へ巨大な拳が


振り下ろされる。


ドォォォォォン!!


瓦礫の山が完全に崩壊する。


土煙が上がる。


リンの声が震える。


「そんな……」


長老が言う。


「終わりだ……」


だがそのとき瓦礫の中から


声が聞こえた。


「いや」


静かな声。


「今のはさすがに効いた」


瓦礫が動く。レンが立ち上がった。


顔に血。腕に傷。だがまだ笑っている。


「でも」


拳を握る。


その瞬間レンの背後。


黒い影。


それが今までよりはっきりと現れる。


巨大な角。巨大な王の影。


長老が震える。


「妖王……」


 リンが呟く。


「レン……」


レンが空を見上げる。


「なんかさ」


ゆっくり言う。


「さっきからずっと」


胸を押さえる。


「ここがうるさいんだよな」


ドクン。


心臓が鳴る。


ドクン。ドクン。


鼓動が重くなる。


レンの体の奥。


深い場所。そこにある巨大な何か。


それが目覚めようとしていた。


レンが目を閉じる。


そして意識が闇へ落ちた。


暗闇だった。どこまでも続く闇。


空も地面も境界がない。


ただ黒い空間が広がっている。


レンはその中に立っていた。




「……は?」




周囲を見回す。


さっきまで妖市にいたはずだった。


ヴァルガと戦っていた。


なのにここには何もない。


静かすぎる。風もない。音もない。


レンが眉をひそめる。


「夢か?」


だがそのとき。


ズン…


重たい音が響いた。


地面が揺れる。


いや。地面があるわけじゃない。


それでも振動だけは伝わってきた。


レンが振り向く。


闇の奥。そこに何かがあった。


巨大な影。最初はぼんやりした輪郭。


だが。それはゆっくりと近づいてくる。


ズン……ズン……


足音。


一歩ごとに空間が揺れる。


レンが舌打ちする。




「なんだよ」


影が近づく。やがてその姿が見えた。


巨大だった。レンの何倍もある体。


頭には大きな角。背中からは黒い妖気が流れている。 そしてその目。


黄金の瞳が闇の中で光っていた。


レンが呟く。


「……妖怪か?」


影が止まる。レンを見下ろす。


しばらく沈黙。そして低い声が響いた。


「ようやく来たか」


声は重かった。


まるで地面の奥から響くような声。


レンが顔をしかめる。


「誰だよお前」


影は答えない。


ただレンを見ている。黄金の目。


その視線だけで圧力を感じる。


レンが肩を回す。


「無言かよ」


影がゆっくり口を開いた。


「お前が呼んだ」


レンが眉をひそめる。


「は?」


影が言う。


「力を」


闇が揺れる。


「欲しがった」


レンは少し黙った。


確かに戦いの中で思った。


もっと強ければヴァルガを殴れる。


仲間を守れる。


その瞬間レンが小さく笑う。


「それで出てきたのか」


影が言う。


「そうだ」


レンが腕を組む。


「勝手に人の中に住むな」


影が低く笑う。


ゴォ……


空間が震える。


「違う」


黄金の目が細くなる。


「ここは元々お前の中だ」


レンが沈黙する。


「……」


影が続ける。


「我は残骸」


「王の残骸」


レンが呟く。


「王?」


影がゆっくり言う。


「妖王」


その瞬間闇が割れた。


レンの視界が変わる。


別の光景。巨大な戦場だった。山が崩れている。空が赤い。無数の妖が戦っている。


叫び声。爆発。炎。


その中心に一体の巨大な存在。


角を持つ王。妖王だった。


レンの背筋がぞくっとする。


「……あれ」


影の声が響く。


「昔の我だ」


妖王が戦っている。何万もの敵。


それを一人で潰していく。拳一つで山を砕く。爪で巨大な妖を引き裂く。まさに王だった。レンが呟く。


「やばすぎだろ」


だがそのとき空が裂けた。


光。巨大な刃。妖王の胸を貫く。


レンの目が開く。


「……!」


王が倒れる巨大な体。


大地が揺れる。妖たちの悲鳴。


影の声が言う。


「王は死んだ」


闇が戻る。レンはその場に立っていた。


巨大な影が目の前にいる。


レンが言う。


「つまりお前はその残りカス?」


影が少し笑う。


「そうだ」


レンが舌打ちする。


「迷惑だな」


影が言う。


「だが力はある」


巨大な手がゆっくり動く。


レンの胸へ触れる。


「使うか?」


レンがニヤっと笑う。


「使うに決まってんだろ」


影の黄金の目が光る。


「なら」


闇が爆発する。


「貸してやる」


その瞬間。


レンの体の奥で何かが弾けた。


ドクン。


心臓が大きく鳴る。


ドクン。ドクン。


闇が崩れる。


レンの意識が現実へ引き戻される。


妖市。ヴァルガの拳が振り下ろされていた。


だがレンは動かなかった。


ゆっくり目を開く。瞳の奥に黒い光。


背後で巨大な影が立ち上がる王の影。


レンが小さく笑う。


「なるほど」


拳を握る。


「こう使うのか」


ヴァルガの拳が振り下ろされる。


巨大な拳。建物一つを簡単に砕く威力。


その拳がレンへ落ちる。だがレンは動かなかった。ただ片手を上げる。


ドォォォン!!


衝撃が爆発した。石畳が弾け飛ぶ。地面が陥没する。だがヴァルガの拳は止まっていたレンの手の中で。カイトが目を細める。


「……止めた」


リンが叫ぶ。


「うそでしょ!?」


長老の声は震えていた。


「あり得ぬ……」


レンはヴァルガの拳を握ったまま言う。


「重いな」


肩を回す。


「でも」


笑う。


「さっきより軽い」


ヴァルガの赤い目が大きく開く。


同じ王の気配。同じ存在の圧力。


それを感じていたレンの背後。


そこに。巨大な影が立っている。


妖王の影。角。巨大な体。


禍々しい王の姿。


まだぼんやりしている。


だが確実にそこにいた。


ゼルが低く笑う。


「はは、面白くなってきたな」


イリスも目を細める。


「ほんと完全に妖王じゃん」


白蘭は静かにレンを見ていた。


その目にはわずかな確信。


そして懐かしさのような感情があった。


そのときヴァルガが咆哮した。


ゴォォォォォ!!


妖気が爆発する。


黒い嵐。地面が削れる。


レンの髪が揺れる。


だがレンは笑った。


「うるせえ」


拳を握る。そして一歩踏み込む。


次の瞬間レンの拳が動いた。


ドォォォォン!!


爆発。衝撃波。


ヴァルガの巨体が吹き飛んだ。


地面を削りながら建物の残骸を突き破る。


何十メートルも。


いや。百メートル以上。そのまま転がる。


リンが口を開けたまま固まる。


「え……」


カイトが静かに息を吐く。


「完全に逆転した」


長老が震える。


「妖王……」


ゼルが笑う。


「最高だ」


イリスも笑う。


「街壊れるね」


煙の向こう。ヴァルガがゆっくり立ち上がる。黒い巨体。怒りで震えている。


だが目の奥に恐れがあった。


レンが歩き出す。瓦礫を踏みながら。


背後には巨大な妖王の影。まだ不完全。


だが確実に王の姿だった。


レンが肩を鳴らす。


「よし」


ヴァルガを見る。


「第二ラウンドだ」


ヴァルガが咆哮する。


ゴォォォォォ!!


地面が砕ける。巨体が走る。


レンも踏み込む。二人の妖王。衝突。


その瞬間空気が震えた。


ドォォォォォン!!


拳と拳。


再び激突する。妖市の中心。


街が揺れるその衝突を


白蘭は静かに見ていた。


小さく呟く。


「やはり」


目を細める。


「目覚めたか」


その声をカイトが聞いていた。


「何だ」


白蘭を見る。


「知ってるのか」


白蘭は少しだけ笑う。


「少しな」


そしてレンを見る。


「だが」


「まだ不完全だ」


妖王の影それはまだぼやけている。


本物ではない。半分だけ。力の欠片。


だがそれでも世界を揺らす力だった。


レンの拳が再び動く。


ヴァルガの爪が振り下ろされる。


爆発。衝撃。瓦礫が吹き飛ぶ。


妖市は完全に戦場になっていた。


そしてその戦いの中で。レンの意識の奥。


闇の中、あの影が静かに笑っていた。


「いいぞ」


黄金の目が光る。


「もっとだ」


闇が揺れる。


「もっと暴れろ」


その声は王の声だった。


そしてこの戦いの先に


レンが知ることになる王の記憶。


そしてこの世界の真実を――

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