第11話妖王戦争
妖市の中心。通りはすでに原形を失っていた。崩れた建物。砕けた石畳。
煙と妖気が混ざった重たい空気。
その中央でヴァルガが立っていた。
巨大な体。黒い妖気が嵐のように吹き上がっている。赤い目はただ一人を見ていた。
レンが肩を回す。
「そんな睨むなよ」
軽く言う。
「喧嘩売ってきたのそっちだろ」
ヴァルガが低く唸る。
ゴォォォ……
その声だけで空気が震えた。
長老が小さく呟く。
「完全に標的だ……」
リンが不安そうに言う。
「大丈夫なの?」
カイトが短く答える。
「無理だな」
リンが振り向く。
「ちょっと!」
カイトは真顔だった。
「普通なら死ぬ」
レンが笑う。
「ひでぇ」
そして拳を握る。背後。黒い影。妖王の影が揺れる。まだ薄い。だが確実に存在していた。ヴァルガが動いた。地面が爆発する。
レンへ巨大な拳。レンが踏み込む。拳。
ドゴォォォン!!
拳と拳衝突が衝突する。衝撃波。
周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。リンが叫ぶ。
「うそでしょ!?」
人間と妖王の力比べ。
だがレンは押されていた。
地面が割れる。足が滑る。カイトが言う。
「まだ足りない」
レンが笑う。
「わかってる」
次の瞬間レンが横へ跳ぶ。
ヴァルガの拳が地面を砕く。
ドォォォン!!
レンが走る。ヴァルガの腕を駆け上がる。
「よっと」
顔の高さ。拳を振る。
ドゴォォン!!
ヴァルガの頭が揺れる。
だが今度は倒れない。ヴァルガの手が動く。
レンを掴もうとする。レンが空中へ跳ぶ。
そのときヴァルガの背中から黒い妖気が爆発した。触手のように広がる。レンを包む。
「うお!?」
空中で動きを止められる。長老が叫ぶ。
「妖気拘束!」
ヴァルガの拳が振り上がる。
巨大。落ちれば終わる。リンが叫ぶ。
「レン!!」
その瞬間。白い閃光。ザン!!ヴァルガの腕に深い傷。カイトの刀だった。
カイトが言う。
「ぼーっとするな」
拘束が緩む。レンが落下する。
「助かった」
カイトが淡々と言う。
「借り一つだ」
その頃別の戦場。
白蘭とゼル。鎖が空を覆っていた。
シャララララ!!
数百の鎖。白蘭を囲む。ゼルが笑う。
「余裕ないな」
白蘭は静かだった。刀を構える。
「……」
ゼルが言う。
「妖王戦争だ」
鎖が動く。白蘭へ。
白蘭が踏み込む。
斬撃。風。
ザザザザザ!!
鎖がまとめて切れる。ゼルが目を細める。
「怖いか?」
白蘭の目が鋭くなる。
「何がだ」
ゼルが顎でレンを指す。
「あの器」
白蘭の刀が一瞬止まる。
「もし」
ゼルが笑う。
「完全に覚醒したら」
鎖がうねる。
「この世界の王が変わる」
白蘭の声が低くなる。
「黙れ」
一方。リンとイリス。
炎と狐火がぶつかっていた。
ドォン!!ドォン!!
リンが息を切らす。
「はぁ……」
イリスが空中で笑う。
「限界?」
リンが狐火を燃やす。
「まだ」
だが明らかに劣勢だった。
イリスの炎は桁違い。イリスが言う。
「かわいそう」
指を振る。巨大な火球。
リンへ。リンの顔が固まる。
「無理……」
そのとき遠くで爆発。
ドゴォォォン!!
レンの拳。ヴァルガの巨体が揺れる。
リンが笑った。
「……ほんと」
狐火が燃え上がる。
「バカなんだから」
一方レンは再びヴァルガへ突っ込んでいた。
拳。
ドゴン!!
蹴り。
ドォン!!
ヴァルガも殴る。地面が崩壊する。
衝撃の嵐。レンが笑う。
「楽しくなってきた」
だがその瞬間ヴァルガの目が光る妖気が一点に集まる。レンの顔が変わる。
「またか」
ヴァルガの口。黒い光。だが今度は違った。
小さい。だが圧縮されている。
長老が震える。
「まずい……」
リンが叫ぶ。
「何!?」
長老が答える。
「あれは」
声が低くなる。
「妖王核撃」
ヴァルガの口から黒い閃光が放たれる。
レンへ一直線。
レンの目が見開かれる。
避けきれない。
その瞬間レンの背後の妖王の影が初めてはっきりと形を作った。巨大な角。巨大な王の影。レンの目が黒く光る。そして世界が一瞬、静止した。ヴァルガの口から放たれた黒い閃光。妖王核撃。圧縮された妖気の塊。
一直線にレンへ迫る。空気が裂ける。
石畳が蒸発する。ただ通るだけで道が消えていく。長老が叫んだ。
「避けろ!!」
リンが悲鳴を上げる。
「レン!!」
だが間に合わない。距離が近すぎる。レンの目が開く。
「やべ」
その瞬間だった。レンの背後。黒い影。
それがはっきりと形になった。
巨大な妖。王の姿。角。牙。巨大な腕。
まるでレンの背後に立つ影の王。カイトが目を細める。
「……来たか」
レンの目が黒く光る。ほんの一瞬。
時間が遅くなる。迫る黒い閃光。
レンがゆっくり拳を握る。
「なるほど」
自分の体の奥。深い場所。そこにある巨大な力。レンが呟く。
「こうやって出すのか」
背後の妖王の影。その腕がレンと同じ動きをする。拳を振り上げる。そして殴った。
ドォォォォォォォォォン!!
拳と妖王核撃。正面衝突。
一瞬空間がねじれる。
そして爆発。黒い光が四方へ散る。
空が割れたような音。衝撃波が妖市を走る。建物の屋根が吹き飛ぶ。瓦礫が宙を舞う。リンが目を見開く。
「……え?」
ゼルも驚いていた。
「嘘だろ」
イリスの炎が一瞬消える。
「止めた……?」
長老は震えていた。
「妖王核撃を……」
白蘭が静かに言う。
「拳で」
煙の中レンが立っている。腕を振り下ろす。
「いけるじゃん」
背後の妖王の影はまだ残っていた。
巨大。禍々しい。ヴァルガと同じ。
いやそれ以上の王の気配。
ヴァルガが初めて動きを止めた。赤い目。
レンを見ている。そして低く唸る。
ゴォォォォ……
それは怒りではなかった。警戒。
同じ王への反応。カイトが言う。
「ようやく同じ土俵だ」
レンが振り向く。
「マジ?」
カイトが答える。
「まだ半分以下だがな」
レンが笑う。
「十分だ」
次の瞬間ヴァルガが動いた。
地面が爆発する。今までより速い。
巨大な拳。レンも動く。拳。
ドゴォォォン!!
衝突。衝撃波。
だが今度は違った。レンが押し返す。
ヴァルガの巨体がわずかに後ろへ動く。
ゼルが目を細める。
「……あり得ない」
白蘭の刀が揺れる。リンが叫ぶ。
「レンすごい!!」
レンが笑う。
「だろ」
ヴァルガが咆哮する。
ゴォォォォォ!!
妖気が爆発する。黒い嵐。
空が完全に暗くなる。
長老が呟く。
「妖王同士の……戦争だ」
一方ゼルが鎖を広げた。
シャララララ!!
空一面。
「面白い」
白蘭を見る。
「こっちも本気で行くか」
白蘭の目が変わる。冷たい光。
刀を構える。
「来い」
一方。イリスが笑った。
「私も混ぜて」
炎が爆発的に増える。リンが狐火を燃やす。
「負けない」
戦場は完全に混沌だった。
妖王。四天王。そして人間。
すべてがぶつかる。
その中心でレンが拳を握る。
背後の妖王の影が揺れる。
まだ不完全だが確実に目覚めている。
レンが笑う。
「楽しくなってきた」
ヴァルガが咆哮する。
そして二人の妖王が真正面から突っ込んだ。
ヴァルガが地面を踏み砕いた。
ドォォォン!!
巨大な足が石畳を粉砕する。黒い妖気が爆発するように広がる。妖市の空気そのものが震えていた。レンはその正面に立っていた。拳を握る。背後には黒い妖王の影。
巨大な角を持つ王の影が、レンの動きに合わせて揺れている。カイトが小さく呟く。
「本当に出てきたな」
レンが振り向く。
「何が?」
カイトが刀を構える。
「お前の中の怪物だ」
レンが笑う。
「ひでぇ言い方だな」
だが次の瞬間ヴァルガが動いた。
消えた。空気が裂ける音。
レンの目が開く。
「速――」
背後。巨大な拳。レンが振り向く。
拳を振る。
ドゴォォォォン!!
衝突。衝撃波。周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。
建物の壁が崩壊する。レンの足元の地面が割れる。だが今度は押されなかった。
レンが歯を見せて笑う。
「さっきより全然軽い」
ヴァルガが唸る。
ゴォォォォ……
そしてもう一撃。レンも拳。
ドゴォォォン!!
衝突。地面が陥没する。
リンが遠くから叫ぶ。
「レン強すぎでしょ!!」
長老が震える声で言う。
「いや……」
視線はレンの背後。
「強いのは……あの影だ」
その影。レンの背後の妖王の影が、さらに濃くなっていた。
巨大な腕。巨大な角。
まるで今にも実体化しそうなほどの存在感。
一方。白蘭とゼル。戦いは別の次元へ入っていた。鎖が空を埋める。
シャラララララ!!
数百、数千の黒鎖。蛇の群れのように動く。白蘭を完全に囲む。ゼルが笑う。
「ここまで追い込まれるの久しぶりだ」
白蘭は無言だった。刀をゆっくり構える。
その目が変わる。氷のような光。ゼルが気づく。
「……」
そして笑う。
「ようやくか」
白蘭の足元。風が巻き始めた。小さな風。
だが次第に大きくなる。髪が揺れる。
衣が揺れる。ゼルが言う。
「お前の本気」
鎖を広げる。
「見せてみろ」
白蘭が一歩踏み出す。風が爆発した。
ゴォォォォォ!!鎖が一斉に切断される。
空間が裂けるような斬撃。ゼルが初めて表情を変えた。
「……なるほど」
一方リンとイリス。
炎と狐火がぶつかる。
ドォォォン!!
爆発。リンが膝をつく。
「く……」
イリスが空中で笑う。
「もう限界?」
炎がさらに大きくなる。巨大な火球。
リンの顔が青くなる。
「こんなの……」
そのとき遠くで衝撃。
ドゴォォォン!!
レンの拳。ヴァルガの巨体が揺れる。
リンが笑う。
「……バカ」
狐火が燃え上がる。
「でも」
立ち上がる。
「負けてられない」
一方。レンとヴァルガ。
戦いは完全に怪物同士だった。
拳。
ドゴン!!
蹴り。
ドォン!!
ヴァルガの爪。レンが避ける。地面が裂ける。レンが跳ぶ。ヴァルガの肩へ。
「よっと」
顔の高さ。拳。
ドゴォォォン!!
顔面直撃。ヴァルガがよろめく。
レンが着地する。
「だいぶ慣れてきた」
その瞬間。レンの背後の影。
さらに巨大になる。長老が震える。
「まずい……」
リンが振り向く。
「何が?」
長老が言う。
「覚醒が進んでいる」
声が重くなる。
「このままでは……」
そのときヴァルガが咆哮した。
ゴォォォォォォォ!!
黒い妖気が空へ噴き上がる。体がさらに膨れ上がる。筋肉。妖気。圧力。地面が割れる。カイトが目を細める。
「最終段階か」
レンが笑う。
「いいじゃん」
拳を鳴らす。背後の妖王の影も拳を握る。
レンが言う。
「決着つけようぜ」
ヴァルガが走る。巨大な体。地面を砕きながらレンも走る。人間とは思えない速度。
カイトが呟く。
「本当に化け物だ」
そして二人の拳が真正面からぶつかった。
ドォォォォォォォォォォン!!
妖市の中心で巨大な爆発が起きた。
衝撃波が街全体を揺らす。空が割れたような音。煙が広がる。視界が消える数秒後。煙の中で巨大な影が一つ。ゆっくりと動いた。
そしてもう一つの影がまだ立っていた。




