7話「集落に旅人がやってきた!」
よろしくお願いします!
2章です!
アポカリのことよく知ってくれると嬉しいです!
木桶の縁を削っていたアポカリは、道の向こうから聞こえる車輪の音に顔を上げた。
アポカリ「サナ、荷車が来る!」
サナ「桶を置いてから行きなさい。削りくずを踏んで転んだら、荷車より先にあなたが壊れるわよ」
アポカリ「僕はそんなにどんくさくないよ!」
ロウ「昨日、桶につまずいたのは誰だったかな」
アポカリ「……桶がそこにあるのが悪い」
言い返しながらも、アポカリは桶を脇へ寄せた。集落の入口へ下りていくと、布をかけた荷車が坂を上がってきた。車輪は泥を噛み、荷台では木枠に収められた瓶がかすかに揺れている。
手綱を握るのは大柄な魔族の男だった。車輪が止まるなり、彼は荷台を一瞥して言った。
ダーク「割れ物から下ろす。地面に直置きするな。布を敷け」
荷車の横を歩いていた女性が、アポカリへ笑いかけた。
ミレザ「こんにちは。ここがマフラの集落ね?」
アポカリ「うん。手伝うよ」
エリナ「頼もしいわ。じゃあ、この袋をお願い。重そうに見えるけど、中身は軽いから」
アポカリが持ち上げると、袋は予想よりずっと重かった。
アポカリ「軽くない!」
エリナ「袋の見た目よりは、って意味よ」
ミレザ「その説明、荷物を持つ前にしてあげなさいよ」
荷台の後ろから青年が顔を出した。額には短い角が二本。耳の先も人間とは違う。アポカリは思わず足を止めた。
青年は気づくと、わざとらしく両手を上げた。
ジオ「安心して。今日は朝ごはんを食べたから、噛まないよ」
アポカリ「食べてなかったら噛むの?」
ジオ「そのときは相談する。俺、話の通じる魔族だから」
ダーク「ジオ。降りて運べ」
ジオ「ほら、あの人のほうが怖い」
ダークは答えず、瓶の木枠を2人で抱えて降ろした。ジオも続いて荷台から飛び降りる。腰には使い込まれた短剣があり、柄の革は手に馴染んだ色になっていた。
アポカリはまだ角を気にしていたが、ジオが重い箱を持ち上げて「うわ、これ誰が中に石を詰めたんだよ」と顔をしかめたので、少し拍子抜けした。
ローガン「ローガン・フェルド。護衛と森の依頼を受けている。そっちは?」
アポカリ「アポカリ。森のことなら、少しは分かるよ」
ジオ「少し、ね。桶に勝てるかどうかは五分五分らしいけど」
アポカリ「見てたの!?」
ジオ「見えるところにいたからな」
ローガン「荷下ろしが終わってから話せ」
ローガンの言葉で、全員が動き出した。ダークは荷物を種類ごとに分け、エリナは札と帳面を照合する。ミレザは薬品箱を受け取り、瓶を光の当たらない場所へ移した。アポカリが近くの箱を持とうとすると、ミレザが首を振る。
ミレザ「そっちは薬。こっちの袋なら運んでいいわ」
アポカリ「薬草から作るの?」
ミレザ「薬草もあるし、樹皮や苔を使うものもある。名前を覚えるだけでも大変よ」
エリナ「私が記録を間違えたら、薬草が毛布として届くこともあるわ」
ミレザ「実際にやったのはあなたでしょう」
エリナ「過去の失敗を未来の笑いに変えているの」
札のついた小瓶には「ヴェスタ・濃縮」「露脈安定液」「古樹皮膚保護膏」「雨紋冷却布液」と書かれていた。別の箱には封印紐が二重にかかり、「藍煤の迷紋剤」「鉄涙の鈍響剤」の札がある。ミレザはその箱だけを他の薬品から離し、ダークが鍵をかけた。
アポカリ「同じ薬品なのに、別にするんだ」
ミレザ「治療に使うものと、扱いを間違えると危険なものは分けるの。中を確かめたいなら、私がいるときに聞いて」
アポカリは素直に頷いた。封印を勝手に開ける気はなかったが、名前の意味は気になった。
そのとき、荷台の端に残っていた小さな木箱が傾いた。蓋の隙間から瓶が滑り出し、地面へ落ちかける。
アポカリは反射的に手を伸ばした。瓶を受け止めたものの、勢いで自分の膝を荷台へぶつける。
アポカリ「いっ……!」
ジオ「瓶を救って自分が壊れる。見事な交換条件だな」
ミレザは瓶を受け取り、封が緩んでいないか確かめた。
ミレザ「助かったわ。でも次は、落ちる前に声をかけて。危ない薬だったら、受け止めるほうも危険よ」
アポカリ「ごめん。落ちると思ったら、つい」
ダーク「木箱を固定し直す。アポカリ、そこの縄を取ってくれ」
アポカリが縄を渡すと、ダークは箱を荷台の内側へ寄せ、結び目を2つ作った。ジオが横から覗き込む。
ジオ「俺なら片手で受け止めて、もう片方の手で拍手してたね」
エリナ「じゃあ今、片手でこの箱を持ってみて」
ジオ「……俺、両手で拍手する派なんだ」
ローガン「黙って持て」
荷車がここまで来た理由を聞くと、ローガンが答えた。彼らは森の外縁にある作業小屋へ荷を届け、そのあと交易所へ向かう。ジオは行き先が途中まで同じなので同行しているらしい。
薬品箱を受け取った集落の女性が、ミレザに小さく頭を下げた。手には、古い布で巻いた包帯がある。ミレザは箱の札を確かめてから、必要な品だけを取り出して渡した。
ミレザ「これは布に使う冷却用よ。薬を直接肌につけるものじゃないから、混ぜないでね」
女性「前に教えてもらった方法で、熱を持った布を冷やしたら助かったの。ありがとう」
ミレザ「よかった。でも、ひどい傷なら布だけで済ませないで」
女性が去ると、アポカリはその背中を見送った。荷車の荷物は、遠くの誰かに売るためだけのものではない。ここで暮らす人の手元にも届くのだ。
ジオ「お、今ちょっと賢そうな顔してたぞ」
アポカリ「どんな顔だよ」
ジオ「俺の話を聞いてるときの、半分くらい分かった顔」
アポカリ「ジオの話は半分も分からないよ」
ジオ「よし、正直でいい」
ジオ「1人旅も悪くないけど、荷車があれば荷物を置けるし、道中で何か出ても人手がある。こいつらは俺が余計なことを言うのを止められる。お互い得だろ?」
エリナ「止められたことは一度もないわ」
ジオ「じゃあ、俺が聞き上手だから一緒にいるんだな」
ダーク「荷物を運べ」
ジオ「はいはい、親方」
荷下ろしが終わるころには、アポカリも何度か笑っていた。魔族は怖いものだと教わってきた。角や牙を見れば、まだ身構えてしまう。それでもジオは、箱の重さに文句を言い、エリナの冗談に言い返し、ローガンにからかわれると悔しそうな顔をする。少なくとも、今目の前にいる彼は、話の通じない怪物には見えなかった。
旅人たちが作業小屋へ荷を運びに出る前、アポカリはジオに尋ねた。
アポカリ「魔族って、みんなジオみたいなの?」
ジオ「どういう意味だよ。顔がいいってこと?」
アポカリ「そこまでは言ってない」
ジオ「そこは言ってくれてもいいんだぞ」
ローガン「行くぞ」
出発前、集落の老人が荷車の後輪を指さした。縄が車軸の近くへ垂れ、回れば巻き込まれそうになっている。ダークが気づくより先に、ジオがしゃがみ込んで縄を引き抜いた。
ジオ「これ、車輪に食われるところだったぞ。ダーク、あとで俺に感謝していい」
ダーク「お前が荷下ろしのときに垂らした縄だ」
ジオ「じゃあ、感謝と反省を半分ずつ受け取る」
老人は礼を言い、ジオは片手を振った。大したことをした顔ではなかった。アポカリはそのやりとりを見ていたが、ジオに何か言う前に、彼はもう荷車へ戻っていた。
ジオ「はいはい。じゃあな、桶職人」
アポカリ「僕は桶職人じゃない!」
荷車が集落を出ていくのを見送ってから、アポカリは家へ戻った。リリアは戸口で、道の向こうを気にするように見ていた。
リリア「さっきのジオさんって、魔族なんでしょ?」
アポカリ「うん。でも、いい魔族なんだよ、あの人。変なことばっかり言うけど、ちゃんと話も聞いてくれるし」
リリア「そう……。あなたがそう思ったのね」
アポカリ「心配しなくても、僕だって誰でも信用するわけじゃないよ」
リリア「それは、あなたの顔を見てから考えるわ」
アポカリ「えっ、なんで?」
リリアは答えず、桶の削りくずを払ってやった。アポカリは納得できない顔で、そのあとを追った。
【注釈】
※ジオ・ラズネル:26歳の魔族。軽口が多く、聴力を高める能力を持つ。能力の話になると照れてごまかす。
※ダーク・ヴァレン:52歳の魔族。荷車と積荷を管理し、安全と手順を優先する。
※ミレザ・グラウ:34歳の旅人。薬草や素材を扱い、危険な品を分けて管理する。
※エリナ・ネグル:21歳の記録係。冗談好きだが、品札と帳面の確認は正確。
※ローガン・フェルド:47歳の弓使い。護衛と森の依頼を受ける。
※ヴェスタ・濃縮:発熱・感染対策に用いる軟膏。光・湿気・熱を避けて保管する。
※露脈安定液:夜露ひらきとフララマ木を原料とする、マナ反応を安定させる外用補助剤。販売価格420ルシス。
※古樹皮膚保護膏:灯芯樹とネグフラ木を原料とする、擦れや乾燥を防ぐ外用保護用品。販売価格260ルシス。
※雨紋冷却布液:雨紋ハスとフラ・マフ葦を原料とする、布用の冷却補助液。販売価格190ルシス。
※藍煤の迷紋剤:藍煤シダとフラフラ絡を原料とする毒薬。魔力感覚を攪乱するため、厳重な管理が必要。
※鉄涙の鈍響剤:鉄涙苔とマフラマ花を原料とする毒薬。魔力伝達を一時的に鈍らせるため、厳重な管理が必要。
読んで下さりありがとうございます!
ここって皆さんどんなこと書いてるんですか?
アポカリのことを好きになってくれますか?




