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英雄になるまでの旅路〜禁忌の森の少年、無能力の最強剣聖、嘘を見抜く転生者。3人の運命が交錯する〜王道群像ファンタジー!  作者: 皐月なる
1章「日常」【アポカリ編】

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4話「いつも褒めてくれる人」

リリアはアポカリを椅子に座らせ、破れた服を確かめた。肌に傷はない。腕も肩も、いつもどおりだった。


 リリア「本当に転んだだけ?」


 アポカリ「……灰ドゥルクに襲われた。サナと一緒に倒したんだ」


 リリア「そう。帰ってきてくれてよかった」


 怒鳴られると思っていたアポカリは、思わず顔を上げた。リリアはほっとした顔をしていたが、破れた袖をつまむ指先には力が入っていた。


 リリア「でも、次からは先に知らせて。無事かどうか分からない時間は、長いのよ」


 アポカリ「うん。ごめん」


 リリア「それから、その服は繕うこと。あなたのために言っているのよ」


 アポカリ「そこは自分で直すよ。サナに教わったから」


 リリア「なら、任せるわ」


 思っていたよりあっさり許された。アポカリはほっとして、つい笑った。


 アポカリ「母さん、僕、ちゃんと役に立てたかな」


 リリア「ええ。でも、役に立つことと、無茶をすることは別よ」


 アポカリ「……はい」


 戸口からロウが顔を出した。手には、刃物を拭くための布と替えの紐を持っている。


 ロウ「聞いたぞ! 灰ドゥルクを倒したんだってな。すごいじゃないか、アポカリ!」


 アポカリ「ロウ!」


 ロウは近づき、彼の肩を軽く叩こうとして、すぐに手を止めた。


 ロウ「おっと、怪我があるかもしれないな。……いや、ないのか? よかった! とにかく、無事でよかった」


 アポカリ「うん。サナが助けてくれたんだ。僕だけじゃ無理だった」


 ロウ「それも大事なことだ。相手を見て、仲間の声を聞いて、最後に決めた。ちゃんと2人で勝ったんだな」


 その言い方が嬉しくて、アポカリは胸を張った。


 アポカリ「最初の小石は失敗したけどね」


 ロウ「失敗したのに、次の手を考えたんだろ? それはいい。うまくいかなかったことを見て、すぐに変えられるのは強みだ」


 アポカリ「ロウって、なんでも褒めてくれるね」


 ロウ「頑張ったことまで見落としたくないからな。悪かったところは一緒に直せばいい。褒めるところまで我慢する必要はないだろ?」


 アポカリは少し照れた。ロウは大人なのに、話していると不思議と気が楽になる。失敗を笑われない。分からないことを聞いても、面倒そうな顔をされない。危ないことをしたときは止めてくれるし、できたことはちゃんと認めてくれる。


 ロウ「ただし、次に魔物を見つけたら、必ず誰かに知らせろ。お前の勇気はいいところだ。でも、勇気だけで勝てるほど森は甘くない」


 アポカリ「分かった。……たぶん」


 ロウ「最後の『たぶん』は、今日だけ見逃してやろう!」


 リリア「見逃さなくていいわ」


 アポカリ「母さんまで!」


 3人の笑い声が家に広がった。


 その後、サナもやってきた。彼女はアポカリの破れた袖を見ると、腰に手を当てた。


 サナ「あなた、次は私の言うことを最後まで聞くこと。先に走らない、危ない場所へ飛び込まない、ひとりで何とかしようとしない」


 アポカリ「3つもある!」


 サナ「まだあるわよ。帰ったら報告する。道具を点検する。服を直す。お母さんに隠さない」


 アポカリ「サナ、僕のお姉さんみたい」


 サナ「お姉さんじゃないわ。あなたの監督役よ」


 ロウ「いいじゃないか。頼れる人がいるってことだ」


 サナ「ロウ、あなたも甘やかさないで」


 ロウ「褒めるのと甘やかすのは違うぞ。アポカリはちゃんと自分で考えて動いた。危ないところは次に直せばいい」


 サナは口を開きかけ、結局ため息をついた。


 サナ「……そういうところよ。あなたが甘いのは」


 ロウ「そうかなあ?」


 アポカリ「僕は好きだよ、ロウのそういうところ」


 ロウは一瞬きょとんとして、それから照れたように笑った。


 ロウ「そりゃ嬉しいな。じゃあ、次もちゃんと褒められるように、無事に帰ってこい」


 アポカリ「うん!」


 夜、アポカリは破れた袖を繕った。縫い目は少し曲がったが、着られるようにはなった。今日の戦いを思い返すと、怖かった場面ばかりが先に浮かぶ。それでも最後に、灰ドゥルクが動かなくなった瞬間を思い出すと、口元が緩んだ。


 勝てた。自分の知っていることを使い、失敗して、考え直して、サナと一緒に勝てたのだ。


 その小さな勝利は、彼の中に残った。

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