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英雄になるまでの旅路〜禁忌の森の少年、無能力の最強剣聖、嘘を見抜く転生者。3人の運命が交錯する〜王道群像ファンタジー!  作者: 皐月なる
1章「日常」【アポカリ編】

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3話「灰色の牙が襲いかかる!!」

次の日、アポカリはサナと一緒に、昨日の音がした場所の手前まで行くことになった。ロウは集落側に残り、帰りが遅ければ迎えに来ると約束した。


 サナ「先に走らない。音がしたら止まる。変なものがあったら私に言う。分かった?」


 アポカリ「はい、サナ先生」


 サナ「その返事、絶対に半分しか聞いていないでしょう」


 アポカリ「ちゃんと聞いてるよ。半分以上!」


 サナ「全部聞きなさい!」


 2人は笑いながら森へ入った。だが、昨日の場所に近づくと、笑いは自然に止まった。落ち葉が押しのけられ、湿った土に細い筋が続いている。倒木の向こうには、魚の鱗に似た灰色の欠片が落ちていた。


 アポカリは拾わず、しゃがんで確かめた。


 アポカリ「これ、木の皮じゃない。……何かが擦った跡だ」


 サナ「じゃあ、戻りましょう。十分に見たわ」


 そのとき、倒木の陰から低い唸りがした。


 灰色の長い体が、地面を滑るように現れた。頭部が持ち上がる。濁った目が2人を捉え、口の奥で歯が擦れた。


 灰ドゥルクだ。


 アポカリはサナの腕を引いた。次の瞬間、魔物が突っ込んできた。2人が飛び退いた場所を、牙がえぐる。倒木が揺れ、樹皮が飛んだ。


 サナ「逃げるわよ!」


 アポカリ「待って、あいつ、こっちを追ってる!」


 走り出したサナの背後へ、灰ドゥルクが体を低くして迫る。アポカリは地面の小石を拾い、水辺へ投げた。水面が跳ねる。魔物の頭が一瞬だけそちらを向いた。


 アポカリ「魚を狙う木漏フェグトなら、水の動きに反応する。こいつも魚を食べるなら――」


 灰ドゥルクはすぐにこちらを向き直した。目を逸らしたのは一瞬だけだった。


 アポカリ「だよね! そんなに簡単じゃないか!」


 魔物が飛びかかる。アポカリは倒木の向こうへ回り込んだ。灰ドゥルクの胴が木にぶつかり、動きが止まる。アポカリは刃を振ったが、鱗に弾かれた。


 サナ「アポカリ、こっち!」


 彼女が投げた紐の束が足元を転がった。アポカリはすぐに拾い、倒木の割れ目に通した。普段、籠を縛るために使う太めの紐だ。魔物を縛れるとは思わない。ただ、動きを止める一瞬が欲しかった。


 灰ドゥルクが回り込んでくる。アポカリは紐を引き、倒木の下に挟まった枝を引き抜いた。枝が落ち、魔物の前脚に当たる。動きが鈍った瞬間、サナが別の石を岩場へ投げた。


 魔物の頭が音へ向く。


 アポカリは飛び込んだ。今度は硬い鱗ではなく、首の付け根で重なった鱗の隙間を狙う。刃が浅く入った。


 灰ドゥルクが叫び、尾を振り回す。アポカリは吹き飛ばされ、肩から地面へ転がった。息が詰まる。サナが悲鳴を上げた。


 サナ「アポカリ!」


 アポカリ「大丈夫! まだ動ける!」


 痛みで目の前がちらついた。それでも、魔物が負傷した側をかばい、体を返すたびに少し遅れることは見えた。倒木の先は狭い岩場。そこへ誘えば、長い体を一気に回せない。


 アポカリ「サナ、岩の向こうへ! 僕が引きつける!」


 サナ「そんなの、危ないに決まってるでしょう!」


 アポカリ「でも、今ならできる!」


 サナは一瞬だけ歯を食いしばり、岩場へ走った。


 アポカリは地面を蹴って灰ドゥルクの注意を引く。魔物が突進してくる。彼はぎりぎりで横へ飛び、岩の張り出しの向こうへ滑り込んだ。灰ドゥルクは勢いを殺せず、狭い岩の間へ頭から突っ込む。


 首が岩に挟まった。


 アポカリ「今だ!」


 サナが倒木の枝を押し込み、魔物が頭を抜けないように支えた。アポカリは立ち上がり、両手で刃を握った。怖い。手が震える。それでも、ここで離せば、また誰かが襲われるかもしれない。


 アポカリ「ごめん!」


 刃が、首の付け根の隙間へ深く入った。


 灰ドゥルクは激しく身をよじった。岩が鳴り、枝が折れる。アポカリはすぐに飛び退き、サナも岩の上へ逃れた。魔物は数度、尾で地面を叩いた。やがて動きが弱まり、頭が地面へ落ちた。


 もう動かなかった。


 しばらく、2人とも声が出なかった。


 サナ「……倒したの?」


 アポカリ「うん。たぶん……いや、ちゃんと見よう」


 2人は十分に距離を取り、魔物が動かないことを確かめた。勝った。自分たちで、本当に倒したのだ。


 アポカリは急に笑い出した。膝が震えているのに、笑いが止まらない。


 アポカリ「やった……! 僕、倒したよ!」


 サナ「倒したわね! でも、次はこんな無茶をする前に相談しなさい!」


 アポカリ「はい!」


 サナ「返事がいいのが、また腹立つわね!」


 2人は魔物の死骸に近づかず、位置を覚えて集落へ戻った。道中、アポカリの肩は痛んだが、家へ着くころには痛みも傷も跡形なく消えていた。残っていたのは、裂けた袖と泥だらけの服だけだった。


 リリアは戸口で彼の服を見るなり、眉を上げた。


 リリア「アポカリ。その服、どうしたの?」


 アポカリ「えっと……森で転んだ」


 サナ「転んだ、だけじゃないわよ! 灰ドゥルクを倒したの!」


 アポカリ「サナ!」


 サナ「言うわよ。心配させたんだから!」


 リリアは息子を見た。腕にも肩にも傷はない。けれど、服は破れている。


 リリア「……まずは中に入りなさい。話は全部聞きます」


 アポカリ「はい……」


 叱られる。間違いなく叱られる。そう思ったのに、アポカリの胸には、怖さと一緒に小さな誇らしさが残っていた。


【注釈】

※灰ドゥルク:マフラの古木林、沼地、霧の多い岩陰に生息する蛇竜型の魔物。平均体長は約1.4メートル。魚を食べ、岩陰から待ち伏せして近距離で襲う。危険度が高く、通常動物とは異なる魔力反応を示す。

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