2話「僕の大切なお友達」
翌朝、アポカリは昨日見つけた跡の場所を、頭の中で何度も思い返していた。
リリア「朝から難しい顔ね。器の数でも数えているの?」
アポカリ「それはもう間違えないよ! 昨日、森で変な跡を見つけたんだ」
彼は場所と形を説明した。リリアは途中で口を挟まず、最後まで聞いた。
リリア「今日、1人で確かめに行くのはだめよ」
アポカリ「うん。今日は採集だけにする」
返事は早かった。好奇心が消えたわけではないが、母を安心させたい気持ちも本当だった。
集落の広場では、ロウが採集人の壊れた道具を直していた。柄の割れ目を確かめ、使える部分を残している。
採集人「また壊しちまった。急いでいたんだ」
ロウ「急いでいたのに、壊れた道具を持って帰ってきた。十分えらいぞ。投げ捨てていたら、もっと困った」
採集人「そこを褒めるのか?」
ロウ「直すところが見つかったんだからな。次は足場を見てから使おう。ほら、ここは俺が直す。お前は新しい柄を選んでくれ」
アポカリは目を輝かせた。
アポカリ「ロウ、僕も見ていていい?」
ロウ「もちろんだ。興味津々って顔だ、」
アポカリ「そんな顔ある?」
ロウ「あるとも。今の顔は『次は僕がやる!』って顔だ」
アポカリ「当たり!」
ロウは笑い、割れた柄を見せた。アポカリはどこに力がかかったのかを考え、使い方を変えれば同じ壊れ方を避けられそうだと気づいた。
ロウ「いい目だな。考えたことを言ってみてくれ」
アポカリは説明した。
ロウは頷き、合っているところを先に褒めてから、見落とした点を教えた。アポカリは嬉しくなって、つい次の質問までしてしまう。
少し離れたところで、サナが籠を抱えてやってきた。
サナ「アポカリ。採集は?」
アポカリ「あっ」
サナ「忘れていた顔ね」
アポカリ「忘れてない! 今から行くところ!」
サナ「なら、行ってらっしゃい。帰ってきたら籠を手伝ってもらうからね」
アポカリ「はい!」
森では、昨日の跡を見つけた場所を避けて採集した。フララマ木を必要な分だけ採り、周囲に新しい変化がないかだけ確認する。帰りに、木漏フェグトが水辺へ降りてくるのを見かけた。長い胴を低くし、水面を見定めてから、素早く頭を伸ばす。
魚を捕らえた木漏フェグトは、枝へ戻ると獲物を飲み込んだ。アポカリはその様子をしばらく眺めた。
アポカリ「狙うときは、ちゃんと相手を見てるんだな……」
帰り道、昨日の跡の近くから、短く土を擦る音がした。
アポカリは足を止めた。音は1度。少し間を置いて、もう1度。
見に行きたい。けれど、今日は採集だけと約束した。
アポカリ「……帰って報告。これも立派な仕事」
自分に言い聞かせて、彼は集落へ戻った。
サナは籠の縁を直して待っていた。
サナ「遅かったわね。何か見つけたの?」
アポカリ「跡の近くで音がした。でも、ひとりでは見に行かなかったよ!母さんに言われたからね!」
サナ「えらいじゃない」
アポカリ「本当?」
サナ「本当。ただし、褒めたからってすぐ調子に乗らないこと!」
アポカリ「乗ってないもん!!」
籠の修理は、思ったより難しかった。アポカリが紐を引きすぎて編み目が歪み、サナが眉を吊り上げる。
サナ「ほら、力任せにしない。」
アポカリ「あー、もう!なんで上手く行かないんだー!!」
ロウが通りかかり、歪んだ籠を見て笑った。
ロウ「初めてにしてはいいぞ。縁が歪んだのは、どこに力をかけたか分かったってことだ。直せば次は上手くなる」
アポカリ「ロウは何でも褒めてくれるね」
ロウ「頑張ったところは褒めるさ。失敗したところは、一緒に直せばいい」
その言葉が、アポカリは好きだった。失敗したからといって、最初から全部だめになるわけではない。次にどうするかを考えればいいのだ。
夕方、アポカリはリリアに森の音を伝えた。彼女は心配そうに眉を寄せたが、彼が約束を守ったこともきちんと認めてくれた。
リリア「報告してくれてありがとう。明日は、必要ならサナやロウと相談しましょう」
アポカリ「うん。みんなで見れば、分かることも増えるよね」
リリア「そうね。でも、みんなで行くからといって、先頭を走っていいわけではないわよ」
アポカリ「……そこまで分かってるの?」
リリア「あなたの母ですから」
アポカリは笑った。明日は何が見つかるのだろう。楽しみで、少し怖い。その両方を抱えたまま、彼は眠りについた。
【注釈】
※フララマ木:マフラの深い林床に生える樹木で、薬用原料になる。採集では木そのものを傷めず、必要な分だけを持ち帰る。




