3話「ボールペンにいいところ持ってかれたんだけど…」
間違って先に投稿してしまいました!!
一挙2話公開!!
サーバーがダウンしていてログインが出来なかった期間もあったので一気に2話投稿してもいいかな!と開き直っております!!
さぁ正義の能力は一体なんだったのかお楽しみ下さい!!
青い光が消えた検査室で、俺は変わってしまったボールペンをひっくり返していた。
軸は深い青色。銀色の細い模様が走り、中央には小さな石のようなものが埋め込まれている。見た目だけなら、文房具というより高級な装飾品だ。
正義「なあ、チャッピー。これ、どうやって使うんだろうな」
チャッピー「普通のボールペンなら、紙に字を書く道具にゃ。でも、今のこれは普通じゃない可能性が高いにゃ」
正義「じゃあ、まず普通に書いてみるか」
チャッピー「未知の物体に対して、確認の第一手が『いつもどおり使う』なのは正義らしいにゃ」
正義「使い方が分からないんだから、知ってる使い方から試すしかないだろ」
チャッピー「理屈は合ってるにゃ。周りに被害が出ないなら、にゃ」
俺は近くの机にあった紙切れを借り、ペン先を当てた。
さらさらと、黒いインクで線が引けた。
正義「あれ? 普通のボールペンだ………」
正義「え?」
グスタフ「え?」
宮廷術師「え?」
チャッピー「にゃ?」
全員の視線が、紙の上の黒い線と、見た目だけは妙に豪華になったボールペンを行ったり来たりした。
正義「いや、だって、あんなに光ったんだぞ? もっとこう……あるだろ、特別な機能とか」
チャッピー「見た目だけ豪華になった普通のボールペン……という可能性も、まだ消えてはいないにゃ」
正義「それはそれで困るな!」
俺は軸を軽く回してみた。地球にいたころのボールペンと同じように、カチッと小さな音がした。
その瞬間、ペン先から青白い線が伸びた。
正義「……え?」
線は紙に触れていない。空中に、細く光る一本の線が浮かんでいた。俺が手を動かすと、線もついてくる。紙の上ではなく、何もない空間に直接書かれている。
俺は慌てて手を止めた。
青い線はその場に残ったまま、数秒遅れて小さな光の粒になり、ふっと消えた。
助手「今の……空中に線が?」
宮廷術師「筆記用具が、空間に描画したというのか……?」
正義「俺が聞きたいです!」
チャッピー「空中に字が書ける機能が追加されたみたいにゃ」
正義「みたいって何だよ! 見たまんまじゃないか!」
チャッピー「線は確認したにゃ。でも、何のための機能なのかはまだ分からないにゃ」
俺はペンを持ち直した。さっきは無意識に線を引いただけだ。今度は、空中に短い横線を一本書いてみる。
青い線が、すっと現れた。
続けて縦線。もう一本、縦線。最後に横線。
正義「……書ける。書けるぞ!!紙がなくても書ける!!」
助手「紙を使わずに記録ができるなら、かなり便利な道具ですが……」
宮廷術師「問題は、その線が何でできているかです。光なのか、マナなのか、それとも別の何かなのか」
チャッピー「術式を書くための機能じゃないかにゃ」
正義「術式?」
チャッピー「この世界の魔法は、詠唱や術式、魔法陣を使うんだったにゃ。もし空中に字や線を残せるなら、術式を書く用途があるのかもしれないにゃ」
宮廷術師「発想としてはあり得ます。しかし、術式は単なる文字ではありません。線の配置、意味、マナの流れを正しく組み立てる必要があります」
正義「つまり、字を書けば何でも魔法になるわけじゃない?」
宮廷術師「そのとおりです」
チャッピー「なら、術式が書かれた本を見せてもらうにゃ。比べれば何か分かるかもしれないにゃ」
グスタフ「術式の基礎書を用意させましょう。危険な術が記されたものは避け、初歩の記録を持ってこさせます」
正義「ありがとうございます。できれば、見た目で分かる本がいいです。俺、この世界の文字はまだ読めないので」
助手「図が多いものをお持ちします」
チャッピー「図が多い本、助かるにゃ。正義が読めない文字を前にして、雰囲気だけで分かった顔をする前にゃ」
正義「しないよ。後で困るもん!」
チャッピー「正義は歴史が苦手にゃさっきの陛下の歴史の話覚えてるかチェックするにゃ」
正義「勘弁してください。」
助手が持ってきた本には、細い線と幾何学模様、円の内側に書かれた文字が並んでいた。火を生み出す術式、水を集める術式、光を灯す術式。図の横には、現地の文字で説明が添えられている。
俺には文章は読めない。それでも、図の違いなら分かる。
宮廷術師「こちらは火の初歩術式です。こちらが水を集める術式。どちらも小規模な現象を起こすためのものですが、使い方を誤れば危険です」
正義「火と水で、図が全然違うんですね」
宮廷術師「必要なマナの流れも、制御の手順も異なります」
チャッピー「正義のペンで、その形を空中に写せるか試すにゃ」
宮廷術師「待ってください。術式は見た目を真似ればよいというものでは――」
正義「じゃあ、今は試さないほうがいいですか?」
術師は言葉に詰まった。
宮廷術師「……まずは、何も起きない線や簡単な図から試すべきでしょう」
チャッピー「安全第一にゃ。いきなり火を出すのはなしにゃ」
正義「分かった。まずは本の図を写すだけにする」
俺は空中に小さな円を描いた。ペン先が動くたび、青い線が宙に残る。円を閉じ、外側に短い線をいくつか加えた。
何も起きない。
正義「ただの図だな」
チャッピー「今のところはそう見えるにゃ」
次に、基礎書に載っていた火の術式を写そうとした。細かな線が多く、そっくりには描けない。線を一本引き間違え、途中で止める。
正義「難しいな。これ、書き順も決まってるのか?」
宮廷術師「術式によっては、線を引く順番も重要です」
チャッピー「正義、無理に本の図を再現しなくてもいいにゃ。まずはペンが何を認識するのか確かめるにゃ」
正義「認識?」
チャッピー「さっきから線を描くたび、ペンと私の間に小さな反応があるにゃ。……正確には、今まで検出できなかった信号が、少しずつこちらへ流れてきてるにゃ」
正義「いつの間にそんなことを?」
チャッピー「正義が円を描いてる間にゃ。黙って観察してたにゃ」
正義「俺が下手な円を描いてるのを?」
チャッピー「空中に円を書くのは難しいにゃ」
チャッピーが俺の肩から机へ降りた。青い目が、ペンと空中の線を交互に見ている。
チャッピー「ひとつ仮説があるにゃ。正義が書いた文字を、ペンが術式として登録して、私がその意味を変換できるのかもしれないにゃ」
宮廷術師「文字を術式として登録? そんな機能は聞いたことがありません」
チャッピー「まだ仮説にゃ。実際に今確認するにゃ」
正義「でも、俺が書くのは日本語だぞ。この本の文字とは違う」
チャッピー「だからこそ試す価値があるにゃ。ペンが文字そのものを登録するのか、意味を読み取るのか、それとも別の仕組みなのか。今は分からないにゃ」
チャッピーの言葉を聞き、俺は空中に漢字をひとつ書いた。
火。
青い線が重なり、文字が空中に浮かぶ。
何も起きない。
正義「……火って書いただけだな」
チャッピー「待つにゃ。ペンから来てる信号が変わったにゃ」
チャッピーの耳がぴんと立った。青い瞳の奥に、細かな光が走る。
チャッピー「リンクを確認……文字情報を受信……意味を照合……術式の構造へ変換……にゃ」
宮廷術師「そんなことが……」
空中の「火」が、震えた。
文字を形作っていた青い線が一本ずつほどけ、細い光の筋へ変わっていく。筋は文字の周囲を巡り、互いに交差し、瞬く間に複雑な円環を描き始めた。
空中に幾重もの術式が展開した。
青い線の内側を、金色の光が駆け抜ける。円環の中心には、赤い火花がひとつ生まれた。火花は針の先ほどの大きさだったのに、次の瞬間には小さな太陽のように輝いた。
空気が震える。
術式の輪が一段、二段と重なり、床に描かれた魔法陣とも違う、立体的な紋様を空中に組み上げていく。赤い光が線を伝い、円環の外周を一周した。
チャッピー「変換完了にゃ」
正義「えっ、ちょっと待っ――」
火が生まれた。
轟音とともに炎が噴き出し、天井近くまで伸びた。赤と金の光が室内を染め、炎の中心には青い術式の輪が回転している。熱風が机の上の書類を吹き飛ばし、壁に掛けられた布がばさりと揺れた。
助手「火が出たあああっ!」
宮廷術師「術式を停止しろ! 誰か、消火の準備を!」
正義「俺、火って書いただけだぞ!?」
チャッピー「変換は成功したにゃ! でも、出力制御が間に合ってないにゃ」
正義「成功って言うな! 部屋が燃えてる!」
炎は壁際のカーテンに燃え移った。術師が詠唱を始め、助手が水を呼ぶための術式を展開する。衛兵が扉から駆け込んできた。
衛兵「何が起きた!?」
正義「俺が『火』って書いたら火が出ました!」
衛兵「説明が短いのに最悪だ!」
チャッピー「正義、ペンを止めるにゃ! いえ、ペンは動かしてないにゃ!? じゃあ変換を解除する方法を探すにゃ」
正義「今すぐ頼む!」
炎が天井の梁へ舌を伸ばした。術師たちの消火術がぶつかり、赤い火の粉と白い蒸気が散る。俺はペンを握ったまま、どうすればいいのか分からず立ち尽くした。
正義「チャッピー! 消せないのか!?」
チャッピー「術式の構造は登録できたけど、出力と持続時間の制御が未設定にゃ! 今、解除命令を探してるにゃ」
正義「登録する前に確認してくれよ!」
チャッピー「こんな反応速度で発動するとは思わなかったにゃ」
正義「俺も思わなかったよ!」
その瞬間、チャッピーが大きく目を見開いた。
チャッピー「変換の入口を切るにゃ」
チャッピーが短く鳴くと、ペンの中央に埋め込まれた青い石が一度だけ強く光った。空中の術式が軋むように揺れ、炎の噴き出す勢いが落ちた。
宮廷術師「今だ! 消火術を重ねろ!」
複数の術式が炎を包み込む。火柱は縮み、赤い火の粉が一つずつ消えていった。最後に残った小さな炎が青い光に吸い込まれ、消失した。
部屋には焦げた匂いと、煙と、床に散らばった書類が残った。
誰も、すぐには口を開かなかった。
正義「……火…出たな」
チャッピー「感想が落ち着きすぎにゃ! 火事になったにゃ」
俺はペンを見下ろした。指先が少し震えていた。
正義「ごめんなさい。俺がやったことだ」
宮廷術師「謝罪は後です。まず、負傷者がいないか確認を。全員、火傷はありませんか」
幸い、ひどい怪我をした者はいなかった。カーテンと机の端、壁の一部が焦げ、いくつかの書類は灰になっていた。グスタフ皇帝は室内を一巡し、被害を確かめてから俺を見た。
グスタフ「正義殿、怪我はありませんか」
正義「俺は大丈夫です。皆さんは?」
グスタフ「今のところ、軽い火傷も確認されていません。ですが、次は同じことを起こさないようにしなければなりません」
正義「はい……」
チャッピー「私も、術式の理解が足りなかったにゃ。文字を術式へ変換できても、マナの流れや出力を制御できるとは限らないにゃ」
正義「つまり、今のは使い方を間違えたってことか?」
チャッピー「正確には、使い方を理解しないまま発動させたにゃ。ペンと私がリンクしたことで、正義が書いた日本語を意味情報として受け取り、術式に変換できた。でも、制御するための条件を精査できていなかったにゃ」
宮廷術師「日本語?の一文字から、こちらの術式が組み上がった……。そんなことが可能なのか」
チャッピー「可能だったことは確認できたにゃ。でも、仕組みを完全に理解したわけじゃないにゃ」
正義「じゃあ、次はもっと弱い火を出せばいいのか?」
チャッピー「まだダメにゃ! 出力を小さくするだけじゃなく、発動条件、持続時間、範囲、停止方法、マナの流れを調べる必要があるにゃ」
正義「分かった。もう書かない!!!」
チャッピー「約束にゃ。今度は、私が術式への理解を深めてからにゃ」
チャッピーは一度、ペンの青い石に前足を触れた。石が淡く光り、チャッピーの目にも細い光が走る。
チャッピー「……それなら、もう一つ確認するにゃ。さっきの火の術式と同じように、『水』も変換できるかどうかにゃ」
正義「今、もう勝手に書かないって言ったよ?」
チャッピー「今度は、発動しないように接続を監視しながら試すにゃ。術式を変換するところまで確認して、実際の発動は止めるにゃ」
宮廷術師「安全に停止できると確認できるまでは、実験を中断するべきです」
チャッピー「同意にゃ。まずは登録された文字情報だけを確認するにゃ」
正義「……本当に止められるんだな?」
チャッピー「止める方法を探してからやるにゃ」
正義「今の返事、ちょっと怖いぞ」
チャッピーはペンとリンクした状態を保ち、発動を抑えるための術式を組もうとした。俺は一度ためらってから、空中に「水」と書いた。今度こそ、チャッピーが発動を止めるはずだった。
チャッピー「ペンが反応したにゃ。文字を登録するにゃ……変換を開始……発動は停止するにゃ」
青い光が紙の文字から立ち上がり、空中へ浮かんだ。線がほどけ、別の紋様へ組み替わる。
チャッピーの瞳に光が走った。
チャッピー「変換を確認したにゃ。停止制御……停止制御……にゃ」
空中の術式が一瞬、青白く脈打った。
チャッピー「……あにゃ」
正義「その『あ』は何だ!?」
次の瞬間、部屋の空気が冷たくなった。
天井近くに水の球が生まれた。最初は人の頭ほどの大きさだったものが、見る間に膨れ上がり、部屋の半分を覆うほどになる。
宮廷術師「水の術式が発動している!?」
チャッピー「停止制御が間に合わなかったにゃ」
正義「火の次は水かよ!」
水の球が弾けた。
大量の水が、天井から滝のように降り注いだ。
助手「うわあああっ!」
衛兵「書類を守れ!」
宮廷術師「書類より人を守れ!」
水は机を叩き、椅子を倒し、床を一気に水浸しにした。俺は顔を腕で覆ったが、頭から足までずぶ濡れになった。チャッピーも水の中に転がり、警察帽を斜めにしたまま顔を出す。
正義「…………」
チャッピー「…………にゃ」
正義「今、何か言ったか?」
チャッピー「水が多すぎて、言葉が出なかったにゃ」
水は数秒で止まった。止まったあとも、床を流れた水が扉の下から廊下へ流れ出している。
グスタフ「……部屋の修繕費は、あとで計算しましょう」
正義「すみません。本当にすみません」
グスタフ「正義殿だけの責任ではありません。実験を許可したのは私ですし、術師たちも安全性を確認できていませんでした」
宮廷術師「しかし、次の実験は十分な準備が整うまで延期すべきです」
チャッピー「そのとおりにゃ。術式への理解度がまだ足りてないにゃ。もっとマナを制御できる術式に精査してみるにゃ」
正義「今度こそ、ちゃんと考えてくれ」
チャッピー「もちろんにゃ。『より深く思考する』を起動するにゃ」
チャッピーの目が青白く輝いた。ペンの石にも光がともり、空中に細かな記号がいくつも浮かぶ。
チャッピー「術式構造を再解析……マナ流量を推定……発動範囲を照合……停止条件を再構築……にゃ」
チャッピーはその場で動かなくなった。
耳も、しっぽも、ぴたりと止まっている。
正義「……チャッピー?」
チャッピー「………………………………………………にゃ」
正義「おい」
チャッピー「………………………………………………にゃ」
正義「まさか、考えすぎて固まった?」
返事はない。
助手「これは……処理中なのでしょうか」
正義「たぶん。今はそっとしておこう。」
宮廷術師「先ほどまで部屋を燃やし、水浸しにした道具の解析を、猫に任せてよいのでしょうか……」
正義「俺も不安です。でも、今止める方法も分からないので」
グスタフ「まずは濡れた床を片づけましょう。誰か、布と乾いた衣服を」
衛兵たちが動き出した。俺も手伝おうとしたが、グスタフ皇帝が手で制した。
グスタフ「正義殿は、こちらへ。話しておきたいことがあります」
俺は濡れた髪を拭きながら、皇帝の後について隣の小部屋へ移った。チャッピーはまだ、机の上で完全に停止している。
扉が閉まると、グスタフ皇帝の表情が変わった。
グスタフ「正義殿。あなたに、改めて協力をお願いしたい」
正義「魔族との戦いですか」
グスタフ「そうです」
皇帝は窓の外へ目を向けた。さっきまでの穏やかな声から、冗談めいた響きが消えている。
グスタフ「私は、どうしても魔族を滅ぼしたい。魔族をこの世界から消し去りたいのです。その考えを変えるつもりはありません」
あまりにもはっきりした言葉だった。
正義「……どうして、そこまで?」
グスタフ「理由はあります。ですが、今ここで話すことが……まだ出来ないのです。」
皇帝は俺を見た。目をそらさなかった。
グスタフ「それでも、私は魔族を滅ぼしたい。あなたに協力してほしいと思っています」
俺は返事をしなかった。
魔族が何をしたのか、俺は知らない。人間側がどんな被害を受けたのかも、魔族側がどう考えているのかも、実際に見ていない。皇帝が本気でそう望んでいることだけは、今の言葉で分かった。
でも、相手の話を聞かずに、どちらかを正しいと決めることはできない。
正義(心の声)「自分の目で見てみないと、分からない。魔族が本当に滅ぼされるべき相手なのかも、人の言い分がどこまで正しいのかも」
俺は元の世界に帰りたかった。家族や友達に何も言わず、突然いなくなったままだ。帰る方法があるのかどうかさえ分からない。
この世界で情報を集めるには、ここにいる人たちの協力がいる。少なくとも今は、皇帝と敵対して何も知らないまま放り出されるより、話を聞きながら確かめるほうがいい。
正義「分かりました。ひとまず……協力します」
グスタフ「……ありがとうございます。それに、こちらの事情に付き合わせてしまい申し訳ありませんでした。」
正義「ただし、俺は魔族を滅ぼすと決めたわけじゃありません。実際に何が起きているのか、自分で確かめたいんです。話を聞く機会もください」
グスタフ「……………」
グスタフは何も答えられなかった。
正義「それと、俺を勝手に戦場へ送り込まないでください。何ができるのか、まだ分かっていないので」
グスタフ「当然です。あなたの安全を考えずに扱うつもりはありません」
その言葉を、どこまで信じていいかはまだ分からない。それでも、皇帝は俺の意思を無視して押し切ろうとはしなかった。
そのとき、廊下の向こうから足音が駆け込んできた。
衛兵「陛下! ご報告です!」
グスタフ「どうしました」
衛兵「街の外に魔物が現れました! 見張りが確認し、現在、門の外で警戒に当たっています!」
グスタフ皇帝はすぐに表情を引き締めた。
グスタフ「数は?」
衛兵「まだ確定していません。複数いる可能性があります。住民に被害が出る前に、対応が必要です」
皇帝は俺を見た。
グスタフ「正義殿。さっそくで申し訳ありませんが、現場へ向かうことになります」
正義「……俺、戦い方を習っていませんけど」
衛兵「しかし、勇者様なら――」
正義「勇者って呼ばれてるだけです。火を出したら部屋を燃やして、水を出したら部屋を水浸しにした人間ですよ」
衛兵「それは……確かに、今の部屋の状態を見ると……」
正義「納得しないでください。俺だって困ってるんです」
グスタフ皇帝は短く息を吐き、衛兵に指示を出した。
グスタフ「正義殿を前線に立たせるつもりはありません。まずは状況を確認し、危険なら退避させる。護衛をつけなさい」
衛兵「承知しました!」
俺たちが検査室へ戻ると、チャッピーはまだ机の上で固まっていた。
正義「チャッピー。そろそろ戻ってきてくれ」
チャッピー「………………………………………………にゃ」
正義「魔物が出たらしいぞ」
チャッピー「………………………………………………にゃ」
正義「置いていくぞ」
チャッピー「データ不足で精査できなかったにゃ」
正義「急に戻ったな!?」
チャッピー「現場情報が不足してるにゃ! 魔物の種類、数、距離、行動、周辺環境が分からないと、適切な対処を精査できないにゃ」
正義「今の長い沈黙は何だったんだよ!」
チャッピー「深く考えてたにゃ」
正義「結果は?」
チャッピー「データ不足にゃ」
正義「深く考えなくてもわかるだろ!!そんなもん!!」
チャッピー「今から情報を集めるにゃ!!」
チャッピーは濡れた警察帽を頭に戻し、俺の肩へ飛び乗った。帽子のつばから水滴が落ち、首筋に入った。
正義「冷たっ!」
チャッピー「現場で目を覚ますための刺激にゃ!!」
グスタフ「準備ができ次第、門へ向かいます。正義殿、危険を感じたら必ず護衛の指示に従ってください」
正義「分かりました!!見学だけでいいですか!?」
グスタフ「それで構いません」
正義「構わないんだ」
チャッピー「本当に見学だけで終わるかにゃぁ」
俺は青いボールペンをポケットにしまった。もう一度使うのは、チャッピーが安全だと確認してからだ。少なくとも、外で火事と洪水を起こすわけにはいかない。
チャッピー「ペンの検証は後回しにするにゃ。今は現場の情報を優先するにゃ」
正義「それがいい。……本当にそれがいい」
俺たちは濡れた服のまま、魔物が現れたという街の外へ向かった。
勇者としてではなく、何も知らない人間として、自分の目で確かめるために。
お読みいただきありがとうございます!!
これからは毎日24時に投稿させてもらいます!!
時間がある限り皆さんにこの小説を楽しんで頂けると嬉しいです!!
まだまだこれから展開がございますので是非よろしお願いします!!
ブクマ!!高評価!!感想等いただけると今後の勉強にもなるし参考にもなるし励みにもなります!!
是非!!これからもよろしくお願いします!!
次回は正義の初魔物との戦闘です!お楽しみに!!




