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英雄になるまでの旅路〜禁忌の森の少年、無能力の最強剣聖、嘘を見抜く転生者。3人の運命が交錯する〜王道群像ファンタジー!  作者: 皐月なる
6章「旅」【アポカリ編】

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35話「それでも僕は森の外へ行く」

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!

昨日、ログイン不具合の影響で少し更新が乱れてしまい、楽しみにしてくださっていた皆様にはご心配をおかけしました。

そこで本日はそのお詫びも兼ねて、本来日曜日(明日)に予定していた最終回「第35話」を、1日前倒しして【土曜の夜】にお届けします!

金曜日、因縁の魔獣グラドゥーンを見事に討伐したアポカリ。

しかし、その代償として発動した「黒きモヤ」の力は、彼の中に深い懸念を植え付けました。

「きっとまた誰かを傷付けてしまう。」

その恐怖と向き合いながらも、少年は母リリアが残したカバンを背負い、ファティマに見送られ、ついにマフラの森の外へと一歩を踏み出します。

第1部から紡がれてきた、少年の旅立ちの結末をぜひ見届けてください!

保護区に戻ってきたアポカリの手には、布に包まれた魔獣核があった。


 グラドゥーンの魔獣核だった。


 ロウとサナは、それを見てしばらく黙っていた。アポカリは2人の顔を交互に見た。


ファティマと再会してから数ヶ月、旅の支度は少しずつ進んでいた。


 母さんが残してくれたカバンを開き、持っていくものを確かめるたび、ロウは旅の道具について親身に相談に乗ってくれ、サナは細かな注意を厳しくも温かく投げかけてくれた。



「勝てるかどうかは分からない。それでも、向き合うことさえできないのか、自分で確かめたい」


 あのグラドゥーンのもとへ向かう前、アポカリが告げた決意を、二人は止めずに送り出してくれたのだった。



 アポカリ「……ただいま」


 ロウ「おかえり」


 サナ「無事に帰ってきたのね」


 サナはそう言ってから、アポカリの顔を確かめるように見た。何か聞きたいことがあるようだったが、すぐには口にしなかった。


 アポカリ「これ、持ってきたんだ。魔獣の核は高く売れるらしいから、旅の費用にできると思って」


 ロウ「そうか。なら、大事にしまっておけ。なくしたら困るだろう」


 アポカリ「うん。気をつけるよ」


 サナ「それと、あなた。これも持っていきなさい」


 サナが差し出したのは、革袋だった。


 受け取ったアポカリは、中をのぞいて目を丸くした。ルシスが、思っていたよりずっと多く入っている。


 アポカリ「えっ、こんなに?」


 ロウ「旅に出るんだ。必要になるものも、思いがけず出てくるものもある」


 サナ「無駄遣いしなさいって意味じゃないからね。食べるものや泊まる場所を惜しんで、困ることにならないようにってこと」


 アポカリ「分かってるよ。ありがとう、ロウ、サナ」


 革袋をしまうと、アポカリは母さんが残してくれたカバンを背負い直した。


 いよいよ、出発する日だった。


 保護区の人々が集まり、アポカリを見送ってくれた。いつも見かける顔が、今日はあちこちにある。声をかけてくる人もいれば、少し離れたところから手を振る人もいた。


 その中を、ファティマが歩いてきた。


 ファティマ「アポカリ、これ」


 差し出された手のひらには、小さな首飾りが載っていた。


 アポカリ「首飾り?」


 ファティマ「うん。持っていって」


 アポカリは受け取った。飾りを見ていると、ファティマが少しだけ視線をそらした。


 ファティマ「……私もいつか会いに行く!」


 アポカリ「え?」


 返事をする間もなく、ファティマが背伸びをした。


 頬に、柔らかな感触が触れた。


 アポカリ「なっ……ファ、ファティマ!?」


 ファティマ「なに? 嫌だった?」


 アポカリ「そういうことじゃなくて……!」


 顔が熱くなっていく。アポカリは首飾りを握ったまま、どう返せばいいのか分からずに目を泳がせた。


 ファティマはそんな彼を見て、少し笑った。


 ファティマ「じゃあ、またね。ちゃんと会いに行くから」


 アポカリ「……うん。待ってる」


 言い終えると、アポカリはますます顔を赤くした。


 ファティマは何も言わず、今度は手を振った。


 その少し後ろに、ヘリが立っていた。


 ヘリは保護区の見張りを務める魔族で、以前、アポカリの剣の修行にも付き合ってくれた人物だった。口数は少ない。けれど、稽古のときも、アポカリが失敗したときも、必要なことだけを静かに教えてくれた。


 ヘリ「そろそろ行くぞ」


 アポカリ「はい。お願いします、ヘリさん」


 歩き出す前に、ヘリは保護区の方を一度振り返った。


 ヘリ「保護区の外へ出るのは、本当は許されていない」


 アポカリ「……分かってます」


 ヘリ「分かっていて行くんだな」


 アポカリ「うん。僕、外の世界を見てみたいんです」


 ヘリはそれ以上、問い詰めなかった。


 ヘリ「なら、ついてこい。少しでも見つかりにくい道を通る」


 アポカリ「ありがとうございます」


 2人は森の中へ入った。


 ヘリは必要なこと以外、ほとんど話さなかった。分かれ道では立ち止まって周囲を確かめ、通ってよい道と避けるべき場所を短く伝えた。アポカリも余計な質問をせず、その後ろを歩いた。


 いつもなら、見慣れた木々の間を歩くことに不安はなかった。


 けれど今日は、同じ森の景色が少し違って見えた。


 この先に、自分の知らない場所がある。


 そう思うと、足を進めるたびに胸が落ち着かなくなった。


 やがて、ヘリが足を止めた。


 ヘリ「ここから先は、自分で行け」


 アポカリは前方を見た。木々の向こうに続く道がある。ここから先は、今までのように誰かが案内してくれるわけではない。


 アポカリ「……ここまで、ありがとうございました」


 ヘリ「礼はいらん。剣の稽古も、まだ途中だ」


 アポカリ「そうですね。戻ってきたら、またお願いします」


 ヘリは小さくうなずいた。


 ヘリ「戻ってくるつもりなら、道を忘れるなよ」


 アポカリ「はい」


 アポカリはもう一度頭を下げ、歩き出した。


 背中には、母さんが残してくれたカバン。懐には、ロウとサナから受け取ったルシスと、グラドゥーンの魔獣核。そして、ファティマからもらった首飾りがある。


 まず目指すのは、ジオたちから聞いた国だった。


 クライゼウ大陸にある、旅人の国――旅邦ヴェルセイン。


 アポカリは、まだ知らない。


 自分が暮らしてきた森が、外の世界では「禁忌の森」と呼ばれていることを。


 自分が「受け入れの民」であることを。


 彼はまだ、何も知らない。


 それでも、少年は森の外へ向かって歩き続けた。








 ――


 二年前。クライゼウ大陸、ヴェルガード旧関所。


 古い石壁に囲まれた部屋で、フィンは椅子に座っていた。


 扉の向こうから足音が近づく。


 魔族「連れてまいりました」


 フィンは顔を上げた。連れてこられた魔族は、立っているのも苦しそうだった。衣服には汚れがつき、呼吸も乱れている。


 フィン「人間にやられたって?」


 魔族「違う!! あ、あれは変なんだ!」


 声が部屋に響いた。


 次の瞬間、空気が重くなった。


 魔族は膝を折り、床に手をついた。肩が震えている。息を吸おうとしても、胸を押さえつけられているようにうまく吸えない。


 フィン「……どういうことだ?」


 魔族「黒いモヤが……辺りに広がったんだ。何が起きたのか分からなかった。近づこうとしても、身体が……まるで、押しつぶされるみたいに……!」


 フィンは黙って聞いていた。


 魔族「人間の力なんかじゃない! あんなもの、見たことがない……!」


 フィン「ほう……」


 フィンは頬杖をついた。


 しばらく、何も言わなかった。


 やがて、その赤い目がわずかに細められる。


 フィン「……黒いモヤ、か」


 その言葉を最後に、部屋は静かになった。


 ――


⸻


リリアの家


窓から吹き込んだ風が、机の上の日記のページをめくった。


何枚かのページがぱらぱらとめくられ、やがて、幼いアポカリについて記されたところで止まった。


『あれ以来、アポカリから黒いモヤが出ることはなかった。


いや、あれは黒というより、もっと灰色に近い色だった。


あれはいったい、何だったのだろう。


それと――』


⸻


初出用語の注釈


※フィン:魔王の息子


※ヴェルガード旧関所:クライゼウ大陸東側の旧境界街道にある歴史的遺構。フィンが一時的な作戦拠点として使用している。


※魔獣核:魔獣から得られる核。素材として取引されることがあり、アポカリは旅の費用に充てるつもりで持ち帰った。


※旅邦ヴェルセイン(りょほうヴェルセイン):クライゼウ大陸にある、旅人が行き交う国。


※禁忌の森:アポカリが暮らしてきた森に、外部から付けられた呼称。アポカリ本人はその名を知らない。


※受け入れの民:ルナーテにおける人々の区分の1つ。アポカリ本人は自分が該当することを知らない。

――ルナーテ・アポカリ編1部 完――

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

ログイン不具合による変則的な更新となってしまいましたが、無事に第1部の結末を皆様にお届けできて感無量です。

ヘリに導かれ、まだ見ぬ外の世界「旅邦ヴェルセイン」を目指して歩み出したアポカリ。しかし、彼がいた森は外では「禁忌の森」と呼ばれ、彼自身もまた「受け入れの民」という宿命を背負っていることを、少年はまだ知りません。

さらに、ヴェルガード旧関所では魔王の息子フィンが不穏な動きを見せており、物語の歯車が大きく回り始めました。

そして、なんと明日【日曜日】からは、この物語の「もう一人の主人公」の視点へと移ります!

新章――【遠藤正義(えんどうせいぎ)編】、開幕。

このルナーテの世界において、彼は一体どのような運命を背負い、アポカリたちの物語とどう交錯していくのか。

今回公開した「公式世界地図」の舞台を使い、ここから3人の主人公による本格群像劇ファンタジーがいよいよ真価を発揮します!

アポカリの旅立ちを見届けて「ここからの群像劇が気になる!」「明日の新章も読みたい!」と思っていただけましたら、ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、これからの壮大な物語を応援していただけると、執筆の物凄いエネルギーになります。

それでは明日、新しい主人公の物語でお会いしましょう!

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