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英雄になるまでの旅路〜禁忌の森の少年、無能力の最強剣聖、嘘を見抜く転生者。3人の運命が交錯する〜王道群像ファンタジー!  作者: 皐月なる
6章「旅」【アポカリ編】

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33話「約束のない待ち合わせ」

※初めての方、そして前回の更新(第32話)からお越しいただいたみなさま、本当にありがとうございます!

ついに物語の第一部(マフラの森編)のクライマックスとなる、第6章「旅」の最重要エピソードに突入します。

この第33話では、あの第4章の悲劇的な別れから2年の時を経て、16歳に成長したアポカリと、魔族の少女ファティマが「初めて出会ったあの場所」でついに運命の再会を果たします。

【初めてお越しいただいた読者さまへ】

本作は、秘められた異形の力を持つ少年アポカリが、大切な人たちに見守られ、傷つきながらも過酷な外の世界へと旅立つ壮大な群像劇・ライトノベルです。

1話1話がスマホでサクサク読める絶妙なボリュームで整理されておりますので、もしこの33話の雰囲気が気になった方は、ぜひ目次の「プロローグ:世界の名はルナーテ」や「第1話」から、アポカリたちのこれまでの歩み(書籍1巻分の濃密なドラマが全て出揃っています!)を一気読みしていただけると、今夜の読書が何倍も熱く、深く楽しめるはずです。

それでは、2年分の想いが交錯する、切なくも温かい再会の時間をどうぞお楽しみください!

翌朝、アポカリはノートを1冊、布で包んだ。


 まだ、最後まで読めていないページがいくつもある。急いで読み終える気にはなれなかった。母さんが書いた文字を追う時間は、採集や食事の時間とは違っていた。


 ノートを置き、いつもの道具を確かめる。


 ロウの家を出る前、アポカリは戸口で一度だけ振り返った。何かを言いかけたように唇が動いたが、声にはならなかった。


 それから、森へ出た。


 採集は、前と同じようにできた。必要な草を見分け、傷つけないように摘み、持ち帰るものを選ぶ。手は覚えていた。けれど、見つけたものを母さんに見せようと考えてから、もういないのだと思い出すことがあった。


 そのたびに、足が止まった。


 それでも、アポカリは採集をやめなかった。


 ロウは、以前より少しだけ口数が戻ったアポカリを見て、何も聞かずに笑った。サナは、食事を抜いていないか、帰りが遅くなっていないか、前より細かく確かめるようになった。


 サナ「暗くなる前に帰ること。採集に夢中になって、時間を忘れない」


 アポカリ「分かってるよ」


 サナ「その返事は、前にも聞いたわ」


 アポカリ「……気をつける」


 サナ「最初からそう言いなさい」


 いつもと変わらないやり取りだった。


 アポカリは、ほんの少し笑った。


 その笑顔を見ても、ロウもサナも、何かを言い足そうとはしなかった。


 日々は、少しずつ過ぎていった。


 採集の帰りに、アポカリは短剣の練習をするようになった。ジオからもらった小さな刃物を手に、構えを確かめ、足の運びを繰り返す。最初は狙ったところへ刃先を運ぶだけでも難しかった。急げば姿勢が崩れ、力を入れすぎれば腕がぶれる。


 アポカリ「……もう1回」


 誰に聞かせるでもなく呟き、刃を構え直した。


 うまくいかない日もあった。手の皮がむけて、サナに練習を止められたこともある。それでも次の日には、また短剣を手に取った。


 魔物狩りにも出るようになった。危険を見つければ引き返し、無理だと思えばロウに相談する。以前より動けるようになっても、森の中で知らないことがなくなったわけではない。


 倒せる相手が増えたからこそ、近づいてはいけない相手がいることも、忘れないようにした。


 母さんを失った日のことが、消えたわけではなかった。


 ふとした拍子に、あの部屋の光景が戻ってくることがある。そんな時、アポカリは手を止め、呼吸が落ち着くのを待った。それから、できることをひとつずつ再開した。


 ノートは、時々読み返した。


 母さんが何を覚えていたのか。自分がどんな話をして、どんなものを見つけていたのか。そこには、アポカリ自身も忘れていた小さな出来事が残っていた。


 読み終えたノートは、元の場所へ戻した。旅道具も、すぐに持ち出すことはしなかった。カバンの縫い目を指でなぞることはあっても、まだ、それを背負って家を出る自分を想像できなかった。


 けれど、森で過ごす時間は、少しずつ以前の形を取り戻していった。


 季節は何度も巡った。


 気がつけば、アポカリは16歳になっていた。


 背が伸び、短剣を握る手つきも変わった。採集の道具を持って森を歩く姿を見て、ロウが「ずいぶん頼もしくなったな」と笑うこともあった。


 ロウ「もう、僕がついていかなくても大丈夫そうだな」


 アポカリ「まだ、ロウに教えてほしいことはあるよ」


 ロウ「そうか。じゃあ、もうしばらくは付き合わないとな」


 サナ「調子に乗らないこと。できることが増えたからって、何でもできるわけじゃないんだから」


 アポカリ「分かってるって」


 サナ「その返事も、前から変わらないわね」


 アポカリは笑った。サナも呆れたように息をついたが、その顔は少しだけやわらいでいた。


 前のように笑える日が増えた。


 それでも、胸の奥に残っているものがあった。


 ファティマに、会えていなかった。


 落ち着いてから、何度か森の中を探した。以前、2人で過ごした場所にも足を運んだ。けれど、彼女の姿は見つからなかった。


 あの日のことを、謝りたかった。


 ファティマが母さんを傷つけるはずがない。そう思う余裕もなく、疑いを口にしてしまった。出ていけと告げた声も、今では自分の耳に残っている。


 もし会えたら、まず謝ろう。


 そう決めていても、会えないまま季節が過ぎていった。


 ある日、アポカリは、初めてファティマに声をかけた場所へ向かった。


 木々の間を抜けると、見覚えのある一角が見えた。あの時と同じ場所ではあっても、木の葉の色も、地面に積もった枝も、少しずつ違っている。


 そこに、少女がいた。


 白みを帯びた金色の髪。小さな角。こちらを向いた瞳は、以前と変わらず猫のような形をしていた。


 ファティマは、アポカリを見て動きを止めた。


 アポカリも、すぐには声を出せなかった。


 ファティマ「……アポカリ?」


 アポカリ「うん。久しぶり、ファティマ」


 ファティマは何か言おうとして、口を閉じた。視線が揺れ、指先が服の裾を握る。


 ファティマ「……本当に、アポカリなんだね」


 アポカリ「そうだよ。そんなに変わった?」


 ファティマ「変わったよ。背も伸びたし……前より、ちょっと大人っぽくなった」


 アポカリ「ちょっとだけ?」


 ファティマ「ちょっとだけ!」


 返事が思ったより大きくなり、ファティマは自分で驚いたように目を丸くした。


 アポカリは、思わず笑った。


 ファティマも笑いかけたが、その顔はすぐにくしゃりと歪んだ。彼女は顔を伏せ、両手で目元を押さえた。


 ファティマ「……ごめんね」


 アポカリは笑うのをやめた。


 ファティマ「私、もう会わないって決めたのに……ずっと、会いたかった。会いに来たら、アポカリが困るかもしれないって思ってた。でも、どうしても……」


 言葉が途切れた。


 アポカリは、彼女の前で立ち尽くした。謝りたいことは、ずっと考えていた。けれど、目の前で泣いているファティマを見たら、用意していた言葉がうまく出てこなかった。


 アポカリ「……僕のほうこそ、ごめん」


 ファティマが顔を上げた。


 アポカリ「母さんが倒れていて、何が起きたのか分からなくて……誰かを疑うことしかできなかった。ファティマが何かしたはずないのに、あんなことを言った」


 ファティマ「……うん」


 アポカリ「本当に、ごめん」


 ファティマは首を横に振りかけて、途中で止めた。すぐに「気にしないで」と言うことはできなかった。あの言葉を聞いた時の恐怖も、傷ついた気持ちも、なかったことにはならない。


 それでも、ここまで来たかった。


 ファティマ「……あの時は、怖かったよ。アポカリの声も、あの部屋も。でも……アポカリが、どんな気持ちだったのか、少しは分かるから」


 アポカリは、うつむいた。


 ファティマ「だから、謝ってくれて嬉しい。私も、ずっと謝りたかった」


 アポカリ「ファティマは、謝らなくていいよ」


 ファティマは唇を結び、涙をぬぐった。


 ファティマ「……そう言ってくれるんだね」


 アポカリ「うん」


 2人の間に、しばらく言葉がなくなった。


 森の奥で、鳥が短く鳴いた。


 アポカリは、手を握ったり開いたりした。もっと話したいことはある。聞きたいこともある。けれど、何から話せばいいのか分からなかった。


 ファティマ「……ねえ。私がいない間、何をしてたの?」


 アポカリ「採集をして、短剣の練習をして……魔物狩りにも行くようになったよ」


 ファティマ「短剣? アポカリが?」


 アポカリ「そんなに驚くこと?」


 ファティマ「だって、前は植物の話を始めると、ずっと止まらなかったから」


 アポカリ「それは関係ないよ!」


 ファティマ「ふふっ。そうかな?」


 アポカリ「そうだよ」


 ファティマは、ようやくいつものように笑った。


 アポカリは、彼女の笑顔を見て、肩に入っていた力が少し抜けるのを感じた。


 アポカリ「ファティマは?」


 ファティマ「私は……家のことをしてた。森にも、前ほど来なくなった」


 アポカリ「そうなんだ」


 ファティマ「うん。でも、今日は来てよかった!」


 そう言ったあと、ファティマは少し照れたように目をそらした。


 アポカリ「僕も、会えてよかった」


 言葉にしてから、アポカリは自分の声が思ったより素直だったことに気づいた。ファティマも一瞬驚き、それから小さく笑った。


 2人は、しばらく森の話をした。


 以前のように、見つけた植物のことや、森の動物のことを話した。途中で言葉が途切れても、無理に埋める必要はなかった。黙っている時間も、前よりずっと苦しくなかった。


 やがて、アポカリは、これからのことを話した。


 アポカリ「僕、旅に出ようと思ってるんだ」


 ファティマの笑顔が、少しだけ止まった。


 ファティマ「……旅?」


 アポカリ「うん。ジオたちから聞いた外の世界を、自分の目で見てみたい。知らない場所へ行って、知らないものを見つけたいんだ」


 ファティマは、すぐには答えなかった。寂しいと思った。ようやく会えたのに、また遠くへ行ってしまう。そう考えると、胸の奥が少し重くなった。


 けれど、アポカリが話す時の目は、森で新しい植物を見つけた時と同じように輝いていた。


 その目を曇らせるようなことは、言いたくなかった。


 ファティマ「……そっか」


 アポカリ「うん」


 ファティマ「寂しいよ。せっかく、また会えたのに」


 アポカリ「……ごめん」


 ファティマ「謝らないで。アポカリが行きたいんでしょう?」


 アポカリは、ゆっくりとうなずいた。


 ファティマ「だったら、行ってきて。自分で見たいものを見つけてきてほしい。帰ってきたら、どんなところだったか聞かせてね」


 アポカリ「うん。約束する」


 ファティマ「今度は、ちゃんと帰ってきてね」


 アポカリ「帰ってくるよ。……たぶん、いっぱい話したくなると思う」


 ファティマ「それなら、聞くのが大変そうだね」


 アポカリ「ひどいな」


 ファティマ「ふふっ」


 2人は、また笑った。


 まだ、話しきれていないことはあった。あの日のことも、離れていた間のことも、すべてを今すぐ言葉にできたわけではない。


 それでも、2人はもう、互いを避けて森を歩く必要はなかった。


 別れ際、ファティマは少しだけ迷ってから、アポカリに手を振った。


 ファティマ「またね、アポカリ」


 アポカリ「うん。またね、ファティマ」


 彼女が木々の向こうへ消えるまで、アポカリはその場に立っていた。


 その日から、2人は時々、森で会うようになった。


 以前とまったく同じではない。会えなかった時間も、失ったものも、なかったことにはならない。それでも、少しずつ、話せることが増えていった。



それとアポカリの話を聞いている時間は変な遊びを思いつくよりもその少し大人びたアポカリの横顔を眺める時間が増えた。


 そして、再会から数ヶ月が過ぎた。


 旅立ちの支度は、少しずつ整っていた。


 アポカリには、出発する前に確かめておきたいことがひとつ残っていた。


 かつて、ジオたちと一緒に森を歩いていた時、誰も戦おうとせず、逃げるしかなかった魔獣――グラドゥーン。


 あの時は、ただ恐ろしかった。


 今の自分なら、どうするのか。


 アポカリは、まだ答えを知らなかった。

プロローグから一気にここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

ついにマフラの森のあの場所で、2年ぶりの再会を果たしたアポカリとファティマ。お互いの後悔を乗り越えて不器用に向き合うシーンは、書いていて自分でも胸が熱くなりました。

寂しさを堪えて「行ってきて」と背中を押してくれたファティマの言葉を胸に、アポカリはついに、外の世界へ旅立つ決意を固めます。

――しかし、森を出るその前に。

アポカリには、どうしても自分の力で確かめておかなければならない「因縁」が残っていました。

次回・第34話は、金曜日(10/23)の18:00頃に更新予定です!

2年前、ジオたちと命からがら逃げ惑うしかなかった、あのマフラ深林の最凶魔獣――グラドゥーンとの、リベンジマッチが始まります。

傷だらけになりながら、自分の意志と、ジオから受け継いだ大刃だけで大蛇に立ち向かうアポカリ。しかし、極限の死闘の中で、あの「黒いモヤ」が再び暴走を始めてしまい……!?

2年間の修練のすべてをぶつける、泥臭く、最も熱い決戦回になります。金曜日の夕方をお楽しみに!

【読者のみなさまへのお願い】

もし「面白い!」「金曜日のグラドゥーン戦が気になる!」と思ってくださったら、このページの一番下にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して応援していただけると、本当に執筆の励みになります……!

アポカリの最初の旅立ちを、ぜひ一緒に見守ってください!


挿絵(By みてみん)


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