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英雄になるまでの旅路〜禁忌の森の少年、無能力の最強剣聖、嘘を見抜く転生者。3人の運命が交錯する〜王道群像ファンタジー!  作者: 皐月なる
6章「旅」【アポカリ編】

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32話「母が残してくれたもの」

ここまで読んでくださりありがとうございます!!

急遽仕様が分からず一気にひとつのページにいっぱい載せてしまって……


あとから分けました!!これからはこんな感じで投稿します!

よろしくお願いします!

アポカリは、目の前にあるものを、もう一度見た。


 それは、何冊ものノートだった。


 大きさも厚さも、少しずつ違う。表紙の色が薄くなったものもあれば、まだ新しいものもある。いくつかは重ねて置かれ、残りはその隣に並んでいた。


 アポカリは、そっと手を伸ばした。


 一番上のノートを手に取る。表紙を開くと、見慣れた文字が目に入った。


 母さんの字だった。


 アポカリは、最初のページから読み始めた。


 そこに書かれていたのは、特別な出来事ばかりではなかった。


 朝、なかなか起きてこなかったこと。採集から帰ってきて、珍しい葉を見せたこと。食事の時に、森で見つけたものについて夢中で話していたこと。


 母さんが覚えている、僕の毎日だった。


 ページをめくる。


 次の日の記録がある。その次の日も。その先にも。


 アポカリは、途中で別のノートを開いた。


 そこにも、僕のことが書かれていた。


 採集に出かけた日のこと。帰ってきた時の様子。いつもより機嫌がよかった日。少し疲れていた日。


 母さんは、こんなことまで覚えていたんだ。


 アポカリは、もう一度、最初のノートに目を戻した。


 自分では、何でもない一日だと思っていた。忘れてしまったことだってある。けれど、母さんの文字の中には、その日の僕が残っていた。


 どこへ行ったのか。


 何を見つけたのか。


 どんな話をしたのか。


 読み進めるうちに、アポカリの指がページの端で止まった。


 少し新しいノートだった。


 日付を確かめ、次のページを開く。


 そこには、母さんが僕に父さんの話をした日のことが記されていた。


 あの日、僕は母さんに、父さんがどんな人だったのかを尋ねた。


 聞きたかったことがたくさんあった。母さんは、僕の質問にひとつずつ答えてくれた。


 その日のことを、母さんは覚えていた。


 アポカリは、文字を追いながら、あの時の部屋を思い浮かべた。


 母さんの声。向かいに座っていた自分。話を聞きながら、もっと知りたいと思っていたこと。


 読み終えても、すぐには次のページを開けなかった。


 ノートを持つ手に、少し力が入った。


 母さんは、僕と過ごした日々を、こんなふうに残していたんだ。


 アポカリは、別のページを開いた。


 そこには、母さんの願いが書かれていた。


 僕が行きたい場所へ行き、好きなものを見つけて、自分で選んだ道を歩いていけるように。


 うまくいかないことがあっても、好きなことを諦めずにいられるように。


 旅に疲れた時には、いつでも帰ってきていいのだと。


 アポカリは、ゆっくりと文字を読み直した。


 最後のほうに、母さんがいちばん伝えたかったことが書かれていた。


 どこにいても、何があっても、ずっと笑顔でいてほしい。


 それが、母さんの願いだった。


 アポカリは、ノートを見つめた。


 母さんは、僕がどこへ行くのかを決めていたわけじゃない。ただ、僕が自分で選んだ場所へ行くことを願ってくれていた。


 帰ってきてもいい。


 帰ってこなくても、笑っていてくれたらいい。


 そう書いてあるように思えた。


 頬に、何かが伝った。


 アポカリは気づかず、次の行を読もうとした。けれど、文字がぼやけてうまく読めなかった。


 目元をこすって、もう一度ページを見る。


 涙が、紙の上に落ちた。


 アポカリ「……母さん」


 声に出した途端、喉の奥が詰まった。


 もう一度呼ぼうとしたが、言葉にならなかった。


 母さんに、聞いてほしいことがあった。


 見つけたものを見せたかった。今日あったことを話したかった。明日も、その次の日も、いつもみたいに声をかけてほしかった。


 けれど、返事はなかった。


 アポカリはノートを胸元に引き寄せた。


 涙が止まらなかった。


 母さんの弔いの儀式の日も、何もかもが遠くにあるようだった。母さんがいなくなったことを、頭では分かっていたはずなのに、どこかでまだ帰ってくると思っていた。


 いつもの場所にいないだけで、どこかへ出かけているのだと。


 そう思っていたかった。


 でも、このノートには、母さんがいた。


 僕の知らないところでも、僕を見ていてくれた母さんがいた。


 アポカリは、声を押し殺そうとした。けれど、こらえきれず、嗚咽が漏れた。


 ロウもサナも、何も言わなかった。


 アポカリは、しばらくその場で泣き続けた。


 どれくらい経ったのか分からない。


 涙をぬぐい、顔を上げた時、部屋の隅に置かれたものが目に入った。


 大きなカバンだった。


 その隣には帽子とブーツがあり、短剣を下げるための剣帯と、折りたたまれたローブも置かれていた。


 アポカリは、ゆっくりと近づいた。


 カバンに触れる。丈夫な布地に、丁寧な縫い目が並んでいた。帽子の内側にも、ブーツの縁にも、剣帯にも、ローブにも、手仕事の跡が残っている。


 母さんが作ったものだ。


 ひとつずつ手に取るたび、アポカリは細かなところまで目を向けた。縫い目が曲がらないように整えられた部分。使いやすいように工夫された留め具。長く使えるよう、しっかりと縫い合わされた布。


 母さんが、これを作っていた。


 僕がいつか旅に出ることを考えて、用意してくれていたのだろうか。


 アポカリは、カバンの持ち手を握った。


 母さんは、僕がどこへ行くのかを知らなかったはずだ。それでも、いつか自分の知らない場所へ行く僕のために、ひとつずつ作ってくれていた。


 自由に歩いてほしい。


 好きなものを見つけてほしい。


 疲れたら帰ってきてほしい。


 さっき読んだ文字が、頭の中によみがえった。


 アポカリは、カバンを抱きしめた。


 アポカリ「……母さん、僕……」


 続きが出てこなかった。


 何を言いたかったのか、自分でも分からなくなった。


 ただ、母さんに会いたかった。


 もう一度、声を聞きたかった。


 アポカリは、その場にしゃがみ込んだ。カバンを抱えたまま、顔を伏せる。


 涙が、またこぼれた。


 ロウがそばに来た。何かを言いかけたようだったが、結局、言葉にはしなかった。


 サナも、少し離れたところに立っていた。


 アポカリは、2人のことを気にする余裕もなく、泣き続けた。


 母さんがいないことは、変わらない。


 日記を読んでも、手作りの道具を見つけても、母さんが帰ってくるわけではない。


 それでも、母さんが僕のために残してくれたものが、ここにあった。


 アポカリは、涙で濡れた顔を上げた。


 ノートをもう一度、手元に引き寄せる。閉じることはできなかった。まだ読みたいページがあった。知らなかった母さんの言葉を、もっと読みたかった。


 アポカリは、ゆっくりと立ち上がった。


 日記を手に取り、旅道具のそばに腰を下ろす。


 窓から差し込む光が、床の上を少しずつ移っていた。


 アポカリは、次のページを開いた。


 母さんが残してくれた日々を、もう少しだけ読んでいたかった。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


母リリアが残した手作りの道具、そして日記――。

母の深い愛を知り、大粒の涙を流したアポカリ。ここから少年は、いつか夢見た「森の外の世界」へと歩み出す準備を始めていきます。


そして、大変お待たせいたしました!

いよいよ本日、【水曜日の18:00】に33話を投稿いたします!


数年の月日が流れ、16歳になったアポカリ。

かつて激しい絶望の中で別れることになってしまった魔族の少女・ファティマと、ついに運命の再会を果たします。


背が伸び、少し大人っぽくなったアポカリを見た彼女の反応は――?


本日18:00、約束の場所で、皆様をお待ちしております!


少しでも続きが気になりましたら、下にある【☆☆☆☆☆】の評価や、ブックマークで応援していただけると新章執筆の大きな励みになります。どうぞよろしくお願いいたします!


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