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英雄になるまでの旅路〜禁忌の森の少年、無能力の最強剣聖、嘘を見抜く転生者。3人の運命が交錯する〜王道群像ファンタジー!  作者: 皐月なる
5章「喪失」【アポカリ編】

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26/50

25話「目覚めた部屋」

5章目です!!


ここまで付き合って下さりありがとうございます!!

楽しんでくれてますでしょうか!!

最初に聞こえたのは、木がきしむ小さな音だった。


 アポカリは目を開けた。見慣れない天井が、ぼんやりと視界に入る。しばらく、そこがどこなのか分からなかった。頭の中に薄い膜が張ったようで、考えようとすると、意識がすぐにほどけてしまう。


 体を起こそうとして、背中に痛みが走った。


 アポカリ「っ……」


 そばにいたロウが、すぐに身を乗り出した。


 ロウ「おい、無理するな。まだ起き上がらなくていい」


 アポカリはロウの顔を見た。少し離れたところにはサナもいる。二人とも、何かを言おうとしているようだった。


 ここがどこか、ようやく思い出した。ロウの家だ。けれど、どうしてここで寝ているのかは分からない。家へ帰る途中だった気もするし、誰かの声を聞いた気もする。記憶をたどろうとすると、頭の奥が鈍く痛んだ。


 手を動かすと、指先がひどく重かった。自分の体なのに、長い間使っていなかった道具のように、思った通りに動かない。アポカリは、もう一度ロウの顔を見た。何かを聞けば、きっと分かる。そう思った。


 その顔を見て、アポカリの頭にひとつのことが浮かんだ。


 アポカリ「……母さんは?」


 口にした途端、ほかのことはどうでもよくなった。目が覚めた理由も、背中が痛むことも、ここがロウの家であることも、あとで聞けばいい。


 ロウは返事をしなかった。サナも、すぐには口を開かなかった。


 自分の声がかすれている。喉がひどく乾いていた。ロウが水を差し出し、アポカリは両手で受け取って少し飲んだ。


 ロウ「ここは俺の家だ。お前は、4日間も眠っていたんだぞ」


 アポカリ「4日……?」


 ロウ「そうだ。まだ体も戻っていない。今は、ちゃんと休め」


 アポカリは水の入った器を握ったまま、二人の顔を見比べた。4日間。そんなに長く眠っていたなんて、すぐには実感できなかった。けれど、それよりも先に確かめたいことがある。


 アポカリ「母さんは? 母さんも、ここにいるの?」


 ロウとサナが目を合わせた。


 ほんの一瞬だった。それでも、アポカリには二人が何かを言いかけて、やめたように見えた。


 アポカリ「……どうして、何も言わないの?」


 ロウ「アポカリ。今は目を覚ましたばかりだ。落ち着いてから話そう」


 アポカリ「でも、母さんが……」


 ロウ「頼む。少しだけでいいから、休んでくれ」


 ロウの声は強くなかった。いつもなら、無茶をしたアポカリをたしなめる時にも、最後には少し笑ってみせる。けれど今は、その笑顔がなかった。


 サナは唇を結んだ。何かをこらえるように片手で口元を押さえ、椅子から立ち上がる。


 サナ「……ごめんなさい。少し、外に出るわね」


 アポカリが声をかけるより早く、サナは部屋を出ていった。足音がいつもより速い。扉が閉じる直前、彼女の肩が小さく揺れたように見えた。


 アポカリ「サナ……?」


 返事はなかった。


 ロウはベッドのそばに腰を下ろした。アポカリから目をそらさずにいたが、すぐに話し始めることはできなかった。両手を組み、親指を何度かこすり合わせてから、ようやく口を開いた。


 ロウ「俺とサナが、お前を見つけた時のことを話す」


 アポカリは小さくうなずいた。話を聞けば、母が今どこにいるのか分かる。そう思って、ロウの口元を見つめた。


 ロウ「たまたま、お前の家の近くを通りかかったんだ。玄関の戸が開いたままになっていた。あの家でそんなことは、あまりないだろ。嫌な感じがして、中を見に行った」


 ロウは一度言葉を切った。あの光景が目の前によみがえったのか、視線がわずかに落ちる。


 ロウ「中に入ったら、リリアが倒れていた。そのすぐそばに、お前が座り込んでいた。泣いていて……周りには、黒いモヤみたいなものが広がっていた」


 アポカリの指が、器の縁を強くつかんだ。


 黒いモヤ。


 思い出そうとした途端、胸の奥がひやりとした。あの時のことは、ところどころが抜け落ちている。母の声。床に広がった赤い色。手の中にあった、冷たい指先。それから、何かが自分の中からあふれ出したような感覚。


 アポカリは息を止めた。


 ロウ「俺たちが声をかけた時には、モヤはいつの間にか消えていた。お前は、こっちを見たあと……そのまま倒れたんだ」


 アポカリ「……僕が?」


 ロウ「そうだ。サナと一緒にお前を抱えて、ひとまず俺の家に連れてきた。ずっと眠ったままだったから、目を覚ますのを待っていたんだ」


 ロウはそこで話を止めた。


 部屋の外からは何も聞こえない。さっきまであった木のきしむ音も、いつの間にか止んでいた。


 アポカリは、ロウが話したことを頭の中で追おうとした。玄関が開いていた。ロウとサナが入ってきた。黒いモヤが消えた。そして、自分は倒れた。


 その間に、母はどうなったのだろう。


 アポカリは器を膝の上に置いた。手が震えている。何が起きたのか、少しだけ思い出せる。でも、知りたいことはまだ何も分かっていなかった。

読んでくださりありがとうございます!!

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