↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄になるまでの旅路〜禁忌の森の少年、無能力の最強剣聖、嘘を見抜く転生者。3人の運命が交錯する〜王道群像ファンタジー!  作者: 皐月なる
4章「追憶」【アポカリ編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/49

22話「お母さんの想いと願い」

 リリアはアポカリの肩から手を離し、少しだけ笑った。


 リリア「ねえ、アポカリ。あなたは、これからどうしたい?」


 アポカリ「どうしたいって?」


 リリア「森の外のこと。旅人たちの話を、よく覚えているでしょう?」


 アポカリは、すぐには答えなかった。


 外の世界を見たい。どんな場所があるのか、自分の目で確かめたい。旅人たちが持っていた道具や、聞いたことのない土地の名前。知らないことは、まだいくらでもある。


 けれど、それを口にすれば、母を困らせるかもしれないと思っていた。


 アポカリ「……見てみたいとは思うよ。でも、今すぐ出ていきたいわけじゃない。ここにも、母さんも、ロウもサナもいるし」


 リリア「そうね。ここはあなたの家だもの」


 アポカリ「うん」


 リリア「でも、ここだけがあなたの居場所だとは思っていないの」


 アポカリは顔を上げた。


 リリア「私はね、あなたがいつか外へ行きたいと言うんじゃないかって、ずっと思っていたわ。旅人たちの話を聞く時の顔を見ていたら、分かるもの」


 リリア(この森の中で、あなたはたくさんのことを覚えた。けれど、森の外には、まだ知らないものがいくらでもある。保護区の中だけでは、いつか窮屈になるのかもしれない。)


 リリア「もちろん、危ないこともあるわ。私だって心配よ。でも、心配だからって、あなたの行きたい場所をなくしてしまいたくない」


 アポカリ「母さん……」


 リリア「あなたは、まだこの森のことさえ全部は知らないでしょう? 外の世界なんて、もっと知らないことだらけよ。それでも、見たいと思うなら、いつか見に行けばいいの」


 アポカリは言葉を探した。許してもらえたことが嬉しいのに、母を置いていくような気持ちもして、胸の中が落ち着かなかった。


 リリア「いつまでも私のそばにいなくていいのよ」


 アポカリ「でも、母さんをひとりにするのは……」


 リリア「私は大丈夫。寂しくないと言ったら嘘になるけれど、あなたがここにいることだけを理由に、外へ行くのを諦めてほしくないわ」


 アポカリはうつむいた。


 リリア「それに、あなたがどこへ行っても、私の子どもであることは変わらないもの」


 その言葉は、いつもの母の声だった。大きな決意を宣言するような言い方ではない。ただ、当たり前のことを伝えるように、穏やかだった。


 リリア「もうひとつ、覚えておいてほしいことがあるの」


 アポカリは顔を上げた。


 リリア「魔族だから怖い、人間だから正しい。そんなふうに、種族だけで決めないでほしいのよ」


 アポカリは、ジオとファティマの顔を思い浮かべた。


 リリア「ジオさんみたいに、面白くて楽しい魔族もいるでしょう。ファティマみたいに、優しくて純粋な子もいる。反対に、恐ろしくて、誰かを傷つけることを何とも思わない魔族もいるわ」


 リリアは一度言葉を切った。


 リリア「人間も同じよ。優しい人もいれば、ひどいことをする人もいる。どちらの種族にも、いろんな人がいるの」


 アポカリ「……うん」


 リリア「だから、誰かの言葉だけで決めないで、自分で見て、考えて、あなたが信じたいと思った人を信じてほしい。もし大切な人が困っていたら、できる範囲で助けてあげて。あなた自身のことも、大切にしてね」


 アポカリは母の顔を見つめた。


 リリア「誰にでも手を差し伸べなさい、なんて言うつもりはないわ。あなたひとりで何もかも助けられるわけじゃないもの。でも、怖いからという理由だけで、相手を知ろうとすることまでやめないでほしいの」


 アポカリ「……分かった。僕、ちゃんと考えるよ」


 リリア「ええ。それでいいの」


 母はアポカリの髪を撫でた。昔から何度もしてきた仕草だった。


 リリア「あなたには、あなたのしたいことをしてほしい。人間か魔族かなんてことに縛られずに。どこに行って、誰と出会って、何を好きになるのか。自分で決めていいのよ」


 アポカリ「……僕、外の世界を見てみたい」


 ようやく口にした言葉は、思っていたより小さかった。


 リリアは驚かなかった。ただ、嬉しそうに目を細めた。


 リリア「そう。いつか、見に行けるといいわね」


 アポカリ「母さんは、寂しくない?」


 リリア「寂しいわよ。きっと、何度も心配すると思う。でもね、あなたが行きたい場所を見つけたのなら、それを大事にしてほしいの」


 アポカリは母の手を握った。


 アポカリ「ありがとう、母さん」


 リリア「どういたしまして」


 リリアは、息子を抱きしめた。アポカリもその腕の中で、少しだけ肩の力を抜いた。


 外へ出たいという気持ちを、初めて隠さずに話せた。すぐに旅立つわけではない。何も決まっていない。それでも、母が自分の気持ちを知っていて、否定しなかったことが嬉しかった。


 リリア「明日はファティマと森へ行くの?」


 アポカリ「うん。会えたら、今日の話を少ししてみようと思う」


 リリア「全部話さなくてもいいのよ。あなたが話したいと思ったことだけで」


 アポカリ「分かってる。父さんのことを、全部説明するのは難しそうだし」


 リリア「ふふ。そうね。私だって、まだ話し足りないくらいだもの」


 アポカリは笑った。


 その夜、いつもと同じ家で、いつもと同じように母と過ごした。けれど、眠る前に思い返した言葉は、いつもとは少し違っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。