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英雄になるまでの旅路〜禁忌の森の少年、無能力の最強剣聖、嘘を見抜く転生者。3人の運命が交錯する〜王道群像ファンタジー!  作者: 皐月なる
3章「魔族の少女」【アポカリ編】

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18話「アポカリのお母様にご挨拶」

次にファティマが森へ来た時、いつもより口数が少なかった。


 アポカリはそれに気づいたが、すぐに理由を尋ねなかった。ファティマは普段なら、会うなり何かをからかってくる。今日は挨拶をして、倒木に腰を下ろしただけだった。


 アポカリ「何かあった?」


 ファティマ「どうして?」


 アポカリ「今日は、いつもより静かだから」


 ファティマ「私だって、静かな日くらいあるよ」


 アポカリ「それはそうだけど」


 ファティマは笑った。けれど、いつものようにアポカリをからかう言葉は続かなかった。


 しばらくふたりで森を歩いた。アポカリは採集の場所を見せ、ファティマは足元の枝を拾って、細いところを指で折ろうとした。思ったより硬かったらしく、折れずに枝先が跳ね返る。


 ファティマ「いたっ」


 アポカリ「大丈夫?」


 ファティマ「大丈夫。枝のほうが強かっただけ」


 アポカリは笑いかけて、彼女が少しだけ安心したように笑い返すのを見た。いつものファティマが戻ってきた気がしたが、それでも何かを隠しているような気配は消えなかった。


 アポカリ「家の人と、何かあった?」


 ファティマは枝を見つめた。


 ファティマ「……私が誰と会っているか、気にしてるみたい」


 アポカリ「僕と会ってること?」


 ファティマ「たぶんね」


 アポカリはすぐには返事をしなかった。自分が魔族の少女と遊んでいることを、彼女の父はよく思っていないのかもしれない。けれど、ファティマが何を考えているのか、父がどんな人なのか、アポカリにはまだ分からないことが多かった。


 アポカリ「……会わないほうがいい?」


 ファティマ「それは、やだな」


 返事は早かった。ファティマ自身も、口にしてから少し驚いたように目を瞬かせた。


 ファティマ「だって、ここに来るの、楽しいんだもん」


 アポカリは少しほっとした。


 アポカリ「じゃあ、また会おう。無理はしなくていいけど」


 ファティマ「うん。ありがと」


 その日は、いつもより早く別れた。ファティマは森の奥へ向かい、アポカリは集落へ戻った。彼女が見えなくなってから、アポカリは一度だけ振り返ったが、追いかけることはしなかった。


 家へ帰ると、リリアが夕食の支度をしていた。アポカリは手を洗いながら、何かを思い出したように顔を上げる。


 アポカリ「母さん。今度、友達を家に連れてきてもいい?」


 リリア「友達?」


 アポカリ「うん。ファティマっていう子。森で会って、一緒に遊んでるんだ」


 リリアは少し驚いたあと、表情を和らげた。


 リリア「そう。あなたと同じくらいの年の子?」


 アポカリ「僕より2歳上なんだって。16歳」


 リリア「まあ。お姉さんなのね」


 アポカリ「でも、そんなにお姉さんって感じじゃないよ。よく僕をからかうし」


 リリア「ふふ。そういう友達もいいじゃない」


 アポカリはほっとしたように笑った。ロウもサナも大切な人たちだが、ふたりはずっと年上だ。同じような話をして、同じところで笑える友達ができたことを、リリアは素直に嬉しく思った。


 リリア「今度、連れていらっしゃい。飲み物くらい用意するわ」


 アポカリ「ほんと? ありがとう、母さん」


 数日後、アポカリはファティマを家へ連れてきた。玄関の前まで来ると、ファティマは急に足を止めた。


 アポカリ「どうしたの?」


 ファティマ「ううん。ちょっと緊張しただけ」


 アポカリ「ファティマでも緊張するんだ」


 ファティマ「するよ! 誰にでもするわけじゃないけど」


 アポカリ「それ、どういう意味?」


 ファティマ「さあ?」


 いつもの調子が少し戻り、アポカリは笑った。


 リリアが戸を開けると、ファティマは背筋を伸ばした。


 リリア「いらっしゃい。あなたがファティマね」


 ファティマ「は、はい。ファティマです。お邪魔します」


 普段より丁寧な声に、アポカリは横で目を丸くした。ファティマはそれに気づき、小さな声で言う。


 ファティマ「笑ったら、あとで怒るからね」


 アポカリ「笑ってないよ」


 リリア「ふたりとも、そこに立っていないで入って。飲み物を用意するわ」


 家の中で、ファティマは少し照れながら椅子に座った。リリアは彼女を見て、穏やかに微笑んだ。アポカリが友達の話をする時の表情を、最近よく見かけるようになっていた。相手がどんな子なのか、まずはゆっくり知ればいい。


 しばらくは、森の話や、アポカリが短剣の練習で失敗した話で笑い声が続いた。ファティマは何度かアポカリをからかい、リリアはそのたびに楽しそうに目を細めた。


 帰る時、ファティマは玄関で一度振り返った。


 ファティマ「また来てもいいですか?」


 リリア「もちろん。アポカリと仲良くしてくれてありがとう」


 ファティマは少し頬を赤くし、こくりとうなずいた。


 ファティマ「……はい」


 彼女が森の道へ消えたあと、リリアは戸を閉めた。アポカリは満足そうに息をつき、短剣の包みを棚から取った。


 アポカリ「明日、ロウにもう一度見てもらおうかな」


 リリア「そうね。でも、夕飯の前に振り回さないでね」


 アポカリ「家の中ではやらないよ!」


 リリア「家の外でも、ちゃんと教わってからよ」


 アポカリは笑い、短剣を元の場所へ戻した。


 その家を、少し離れた木立の陰から見ている者がいた。


 ファティマが通った道をたどり、気配を隠して後を追ってきた魔族だった。家の戸が閉じるのを見届けると、その者は口元をゆっくりと歪めた。


 魔族「……やっとだ。やっと見つけた」


 声は森の音に紛れ、家の中には届かなかった。

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