17話「新しいお友達」
ファティマと待ち合わせるようになってから、しばらく経った。
ある日、アポカリは彼女に、ロウとサナを紹介しようと思いついた。森で会う友達ができたことは、ふたりにも話していた。けれど、実際に会わせたことはまだなかった。
アポカリ「ファティマ、今度、僕の知り合いに会ってみない?」
ファティマ「知り合い?」
アポカリ「ロウとサナ。僕のことをよく見てくれてる人たちなんだ」
ファティマは一瞬だけ考えるように黙ったが、すぐに笑顔を見せた。
ファティマ「いいよ。アポカリの大事な人なんでしょ?」
アポカリ「うん。そうだよ」
ふたりが集落の近くまで来ると、ロウはすぐに気づいて手を上げた。サナも作業の手を止め、アポカリの隣にいる少女へ目を向ける。
ロウ「君がファティマか。アポカリから話は聞いてるよ」
ファティマ「えっ、どんな話?」
ロウ「森で会って、一緒に遊んでるって。あと、アポカリが何かと楽しそうにしてる」
アポカリ「そんなに話してないよ」
サナ「話してたわよ。昨日も、帰ってきてから森の話をしていたじゃない」
アポカリ「ずっとじゃないって!」
ファティマはアポカリを見て、くすっと笑った。サナは彼女に向き直る。
サナ「ファティマ、でいいのよね。森の奥へ行く時は、ひとりで危ないところに入らないこと。アポカリも、友達ができると夢中になるから」
アポカリ「僕の話になってる!」
サナ「あなたの話でもあるの」
ファティマ「はーい。気をつけます」
返事は軽かったが、ファティマはサナの目を見てうなずいた。ロウは気負わせないように、話題を変えた。
ロウ「今度、集落の近くまで来ることがあったら声をかけてくれ。アポカリがまた変な遊びを思いついても、止める人間は多いほうがいい」
アポカリ「変な遊びってなに?」
ロウ「まだ何もしてないなら、これからの話だ」
ファティマ「それ、ちょっと見てみたいかも」
アポカリ「ファティマまで!」
三人の笑い声に、サナも小さく息を吐いた。目の前にいるのは、アポカリと同じように笑い、からかい、少し失敗もする少女だった。サナは警戒をすべて捨てたわけではない。ただ、最初から敵だと決めつけるつもりもなかった。
別れ際、ロウはファティマに軽く手を振った。
ロウ「またおいで」
ファティマ「うん。また来るね」
ファティマは笑顔で返したが、森の奥へ向かう途中、一度だけ後ろを振り返った。誰かがいるようには見えない。それでも、彼女は歩き出すまでに、ほんの少し間を置いた。
家へ帰ると、父が彼女を待っていた。
父「最近、帰りが遅いな。どこへ行っている?」
ファティマ「森だよ。歩いてただけ」
父「保護区の人間と会っているという話を聞いた」
ファティマの足が止まった。
父「この森は魔族のものだ。人間どもは保護区などと名づけて、私たちの森に勝手に居座っている。下等な人間に、ここで暮らす権利などない。保護区はいずれ消す」
ファティマはすぐに答えられなかった。いつものように冗談でかわそうとしたが、笑顔がうまく作れない。
ファティマ「……誰から聞いたの?」
父「誰からかは問題ではない。お前が何をしているかだ」
ファティマは視線を落とした。アポカリの顔が浮かぶ。ロウの笑い声も、サナの小言も。父に話せば、きっと森へ行くことを許されなくなる。
ファティマ「分かった」
それだけ答えて、彼女は部屋へ向かった。
父はそれ以上追及しなかった。けれど、ファティマが廊下の角を曲がったあとも、父の視線はしばらく入口のほうを向いていた。




