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英雄になるまでの旅路〜禁忌の森の少年、無能力の最強剣聖、嘘を見抜く転生者。3人の運命が交錯する〜王道群像ファンタジー!  作者: 皐月なる
3章「魔族の少女」【アポカリ編】

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16話「待ち合わせのない約束」

ファティマと初めて会ってから、数日が過ぎた。


 アポカリは彼女にまた会うかもしれないと思いながらも、わざわざ探しに行くことはしなかった。森は広い。採集する場所も日によって違うし、帰る道だっていつも同じとは限らない。


 だから、再び顔を合わせたのは、まったくの偶然だった。


 アポカリが倒木のそばで籠の中身を確かめていると、背後から声がした。


 ファティマ「や! また会ったねぇ」


 アポカリ「ファティマ? 本当だ。どうしたの、こんなところで」


 ファティマ「それ、こっちが聞きたいなあ。アポカリこそ何してるの?」


 アポカリ「採集の帰りだよ。籠の中を確認してたんだ」


 ファティマ「へえ。まじめだねぇ」


 アポカリ「普通だと思うけど……」


 ファティマは籠を覗こうとしたが、アポカリが少し傾けて見せると、勝手に手を入れずに目で確かめた。


 ファティマ「いろいろ入ってるね。これ、全部見分けられるの?」


 アポカリ「間違えないように、ちゃんと確かめてるよ。分からないものは採らないし」


 ファティマ「そっか。私なら途中で飽きちゃうかも」


 アポカリ「自分で言うんだ」


 ファティマ「だって、本当だもん」


 それから少しだけ話をして、ふたりは別々の道へ戻った。長く一緒にいたわけではない。それでも、アポカリは帰り道に、また会えたらいいなと思った。


 次に会ったのは、その数日後だった。


 今度はファティマが木の根元に座り、細い枝を何本も並べていた。何をしているのか尋ねると、森の中で見つけた枝を長さ順に並べているのだという。


 アポカリ「何のために?」


 ファティマ「……並べたら、何か分かるかなって」


 アポカリ「何が?」


 ファティマ「それを今、考えてるところ」


 アポカリ「また考えてるんだ」


 ファティマ「考えるのは大事なんだよ?」


 アポカリ「それはそうだけど」


 ふたりは枝を並べ直し、結局、何も分からないまま笑って終わった。


 その後も、森で何度か顔を合わせた。採集の途中で見かける日もあれば、帰り道の分かれ目で出会う日もあった。会うたびに長く話すわけではない。挨拶だけで別れることもあったし、気づけば少し遠回りして話し込んでいることもあった。


 ファティマは明るく、よくアポカリをからかった。時々、何でも知っているような口ぶりをするのに、妙なところで失敗する。枝を拾おうとして自分の足元につまずいたり、話の途中で何を言おうとしたのか忘れたりする。


 アポカリ「ファティマって、しっかりしてるのか、抜けてるのか分からないね」


 ファティマ「両方ってことじゃない?」


 アポカリ「そんなことある?」


 ファティマ「あるよ。今、証明してるところ」


 そう言いながら、彼女は手に持っていた枝を落とした。


 アポカリ「……証明できてるかも」


 ファティマ「そこは否定してよ!」


 笑い声が森に広がった。


 何度か会ううちに、アポカリはファティマの姿を見つけると、自然に声をかけるようになった。ファティマも、彼を見つけると手を振った。ふたりとも、会うために森へ来ているわけではない。けれど、会えた日は少しだけ帰り道が楽しくなった。


 ある日、いつものように別れようとした時、ファティマがふと口を開いた。


 ファティマ「ねえ、アポカリ。今日は何しに来たの?」


 アポカリ「採集の帰りだよ」


 ファティマ「ふーん、私に会いに来てくれたんじゃないんだぁ」


 ファティマ「私は会いたかったよ?」


 まっすぐに言われ、アポカリは返事に詰まった。ファティマは少し首を傾け、彼の顔を覗き込む。


 アポカリ「……そういうこと、普通に言うんだね」


 ファティマ「言っちゃだめだった?」


 アポカリ「だめじゃないけど……」


 何を言えばいいのか分からず、アポカリは籠の紐を直すふりをした。ファティマはそれ以上からかわず、満足したように視線を外した。


 ファティマ「じゃあ、また会おうね」


 アポカリ「うん。また」


 ふたりはその日も、次に会う日を決めずに別れた。


 けれど、偶然会えるのを待つだけでは、なかなか会えない日もある。次に会った時、ファティマはそのことを思いついたように話した。


 ファティマ「ねえ。毎回、偶然会うのを待つのって、ちょっと面倒じゃない?」


 アポカリ「まあ、会えない日もあるね」


 ファティマ「だったらさ、ここで会うって決めない?」


 彼女が示したのは、木々の間が少し開けた場所だった。倒木が横たわり、周囲を見渡しやすい。特別な場所ではないが、森の音も聞こえやすかった。


 アポカリ「待ち合わせ場所にするの?」


 ファティマ「そう。来られる日に来るの。毎日じゃなくていいから」


 アポカリは少し考えた。採集の場所によっては寄れない日もある。それでも、ここに来ればファティマに会えるかもしれないと思うと、悪くなかった。


 アポカリ「うん。分かった。来られる日は、ここに来るよ」


 ファティマ「約束ね!」


 アポカリ「毎日来られるとは限らないからね」


 ファティマ「そこは分かってるってば」


 彼女は笑い、アポカリも笑った。


 それからふたりは、森で偶然会うだけの関係から、決めた場所で会うこともある関係になった。特別な約束をしたというほど大げさなものではない。ただ、次に会う場所がひとつできた。それだけで、森を歩く時に少し楽しみが増えた。

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