14話「最近のアポカリは遠くを眺める」
ロウは、集落の作業場で道具の柄を締め直していた。少し緩んだ木の柄を押さえ、楔を打ち直す。向かいではサナが、採集に使う籠の傷みを確かめていた。
サナ「最近、アポカリが森へ出る前に荷物を確かめるようになったわね」
ロウ「いいことじゃないか。前は、出てから忘れ物に気づくこともあったからな」
サナ「いいことよ。でも、短剣まで持っていこうとしていたら、話は別」
ロウは手を止めた。
ロウ「短剣?」
サナ「昨日、家の裏で包みを持っていたのを見たの。何をするつもりだったのかは知らないけど」
ロウは少し考えてから、また柄を押さえた。ジオから短剣をもらった時のアポカリの顔を覚えている。うれしそうで、何度も包みを確かめていた。
ロウ(旅人たちと過ごしてから、あいつの目は前より遠くを見るようになったな。知らないものを見たいんだろう。そういう顔をするようになったのは、嬉しい。)
ロウは木槌を置き、締まった柄を握って確かめた。
ロウ(でも、見たいものが増えれば、危ない場所まで見に行きたくなる。そこは、まだ子供なんだよな。)
サナは籠の縁を指でなぞり、ささくれを見つけると小さな刃物で削った。アポカリが森で何かを見つけた時の顔を思い出す。何でも知りたがるし、少し止められたくらいでは、納得するまで考え続ける。
サナ(成長したのは分かるわ。前より周りを見て、考えてから動くことも増えた。でも、考えた末に無茶をするなら、前より厄介じゃない。)
サナは削りくずを払った。
サナ(嬉しくないわけじゃないのよ。……怪我を増やさないでくれれば、それでいいの。)
ロウ「本人に聞いたのか?」
サナ「まだよ。決めつけて叱ったら、余計に隠すでしょう」
ロウ「分かってるじゃないか」
サナ「あなたは褒めるのが早いのよ。本人が何をしようとしてるか、ちゃんと確かめてからにして」
ロウ「はいはい。まずは聞いてみるさ」
サナ「その『はいはい』が一番信用できないの」
ロウは笑い、サナは呆れた顔をした。二人とも、アポカリが変わり始めたことには気づいていた。だが、急いで答えを出す必要はない。本人が何を考えているのか、まずは聞けばいい。
その日の夕方、森から戻ってきたアポカリは、籠を下ろすなりロウに声をかけた。
アポカリ「ロウ、短剣って、どうやったらうまく扱えるの?」
ロウはサナと顔を見合わせた。
ロウ「まず、どこで振った?」
アポカリ「……それは、先に聞かないでほしかったな」
サナ「つまり、振ったのね」
アポカリ「少しだけだよ!」
サナ「その『少しだけ』を、あなたが言うと心配になるのよ」
ロウは吹き出しかけ、サナに睨まれて口元を引き締めた。
ロウ「分かった。明日、使い方を教える。ただし、勝手に振り回さないこと。短剣は遊び道具じゃないからな」
アポカリ「うん。約束する」
サナ「その約束を守るところまで見届けるわよ」
アポカリは少し困った顔をしたが、すぐに笑った。
アポカリ「……じゃあ、明日ね」
ロウ「明日だ」
サナは何も言わず、籠を家の中へ運ぶアポカリの背中を見送った。小言はまだいくらでも出てきそうだったが、今はそれで十分だった。




