第8話:「え……自分の手牌って?」
びしょ濡れのドレスが肌に貼り付く不快感と、芯まで冷え切った寒さに震えながら、私は再び麻雀の卓へと座らされた。
冷たい水滴がポタポタと床に落ちる。
周囲のギャラリーたちは、惨めな姿を晒す私を見て面白そうに嘲笑の声をあげている。
「それでは、2局目を開始します」
ディーラーの合図とともに自動卓が動き出し、再び私に配牌が配られた。
私は震える手で自分の手牌を整える。
――信じられないことに、さっきと全く同じ、一、九、字牌がすべて綺麗に揃った「国士無双13面待ち」のテンパイ配牌だった。
(また同じ……! こんなの、仕組まれているとしか思えないわね)
最初のツモはウーピン。
さっきと同じだ。
アガリ牌ではないため、そのまま河へ捨てる。
隣の男が牌をツモり、2萬を捨てる。
これも変わらない。 そして対面の男が牌をツモり、字牌である東を捨てた。
私はここで反射的に「ロン」と言いそうになる口をぐっと抑え込んだ。
先ほどの教訓が頭をよぎる。
油断すれば、またいつの間にか牌がすり替えられているはずだ。
恐る恐る隣の河を確認してみると、案の定――さっきまで南家が捨てたはずの「2萬」は、いつの間にか「1萬」に書き換わっていた。
ここでうっかり声を上げていれば、またしても見事にフリテンでハメられていたところだった。
(危なかった……! 危うくまた罠に引っかかるところだったわね)
私は冷や汗を拭う暇もなく、次の自分のツモ順に集中した。
そして、山から引き引いてきた牌を確認する。
――「白」だ。
(これだ……!)
ツモアガリであれば、どんなに河の状況がフリテンになっていなかろうと、関係なくアガリが成立する。
私は濡れたドレスのことも忘れ、力強く自分の手牌を卓に倒した。
「ツモ、国士無双13面待ち!」
今度こそ勝った。
そう確信して顔を上げた私を待っていたのは、対戦相手3人組の気味の悪い、ねっとりとした笑みだった。
「おいおいお嬢ちゃん、自分の手牌をよく見てみろよ」
「え……自分の手牌って?」
嫌な予感が全身を駆け抜け、私は自分の手元に視線を落とした。
さっきまで完璧に13種が揃っていたはずの私の手牌から、なんと「中」の牌が忽然と消え失せていたのだ。
その代わり、今引き引いてきたはずの白がもう1枚増えており、手牌には白が3枚並んでいる。
これでは役満・国士無双どころか、何の役も成立していない、ただのバラバラの役なしだ。
アガリでも何でもない状態でツモを宣言してしまった私は、あえなく「チョンボ(ルール違反)」の判定を下された。
「おいおい、お嬢ちゃんは麻雀のルールも知らないのかい?」
「出直してきた方がいいんじゃないか? とは言っても、もう出直すこともできないのか。一生ここで奴隷だもんな」
周囲のギャラリーから、下品な笑い声とやじが一斉に響き渡る。
悔しさと情けなさで涙が出そうになるのを、私は必死に歯を食いしばってこらえた。ここで折れたら、本当に終わりだ。
「もう一度……もう一度だけ、チャンスをください……!」
私はびしょ濡れのゴスロリ衣装のまま、目の前の男たちに深く頭を下げた。
これ以上ないほどの屈辱だったが、這い上がるためにはこうするしかなかった。




