第7話:「そりゃいい、面白いじゃないか!」
「それでは対局を開始します」
自動卓が動き出し、私の手元に配牌が配られた。
それを見た瞬間、私は自分の目を疑った。
なんと、一、九、字牌がすべて美しく揃った、「国士無双13面待ち」のテンパイ配牌だったのだ。
こんな奇跡的な配牌がくるなんて。
心臓が大きく跳ねる。
最初のツモはウーピン。
アガリ牌ではないため、そのまま河へ捨てる。
隣の男が牌をツモり、2萬を捨てるが、これも私の当たり牌ではない。
そして、対面の男が牌をツモり、字牌である東を捨てた。
私はすかさず声を張り上げた。
「ロン、国士無双13面待ち」
この勝負もらった――!
「フフフ、よく見てみなお嬢ちゃん」
向かいの席に座る男が、嫌らしい笑みを浮かべながら私の捨て牌を指さした。
「え?」
促されるまま自分の河に目を向けて、私の血の気が一気に引いた。
さっきまで確実に「南家が捨てた2萬」だったはずの牌が、いつの間にか「1萬」にすり替わっている。
つまり国士無双13面待ちの当たり牌、これでは完全にフリテンだ。
アガリなんて成立するわけがない。
「そう、見事なフリテンだ。お前の負けだよ」
何が起きたのか全く理解できないまま、私はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「さあ、勝負はお嬢ちゃんの負けで終わりだ」
このままでは、私は本当にGGGの奴隷になってしまう。
「待って、こんなの納得できない。さっきまであんたが捨てていたのは2萬だったはず……!」
「おいおい、さっきまでとか意味のわからないこと言うなよ。どう見ても1萬が切ってあるじゃないか」
確かにそうだ。
私が何を言ったところで、目の前の河を見れば「1萬」が捨てられている。
これでは私がいくら叫んだって、ただの負け犬の言い訳にしか聞こえない。
「もう1回、もう1回チャンスをください……!」
私はその場に頭を下げ、必死に再戦を願った。
「何を言ってやがる。再戦なんてするわけないだろ。お前はもう負けが確定しているんだからな」
冷たく突っぱねられ絶望しかけたその時、もう一人の男がニヤニヤと割って入ってきた。
「まあまあ、いいじゃないですか。ギャラリーの皆さんに楽しんでいただくのもこの施設の醍醐味だ。……ある条件をクリアできれば、再戦してあげましょう」
「その条件とは?」
「この建物の上の階にVIP専用のプールがあります。そこで、その格好のまま端から端まで泳ぎ切ったら、また再戦してあげますよ」
「そりゃいい、面白いじゃないか!」
対戦相手の男たちとギャラリーの連中が、下卑た笑い声をあげる。 正直、こんな何重にも重なったゴスロリの衣装でプールを泳ぐなんて、自殺行為に近い難易度だ。しかし、ここで引き下がれば私は一生の奴隷エンド行きだ。やるしかない。
「……やってやるわよ!」
私は上の階のプールへと移動し、水へと飛び込んだ。
瞬間、ドレスの生地やパニエが一気に水分を吸い込み、鉄の塊のように私を底へ引きずり下ろす。
ギャラリーたちはカメラを向け、私の不格好な泳ぎざまを指さしてゲラゲラと笑い転げていた。
(……あぁ、さっき学校のプールで使わなかった自分のスクール水着でも中に忍ばせておけばよかった……!)
そんな馬鹿げた後悔を頭の片隅で巡らせながらも、私は泥臭く、必死の思いでプールの対岸まで泳ぎ切った。
「いやー素晴らしい! 見事に無様、いや、見事な泳ぎ方でしたよ!」
散々嘲笑われた後、私は体を拭く間もなく、びしょ濡れのゴスロリドレスを着たままの状態で再び麻雀の部屋へと連れ戻され、無理やり椅子に座らされた。
冷たい水が滴り落ち、服が肌にべったりと張り付いて最高に気持ち悪い。
寒さと屈辱で体が震える。
だが、ここで折れるわけにはいかない。
私に残された道は、この地獄の卓で勝つことだけなのだから。




