第6話:「なんでこんな恥ずかしい服を着なきゃいけないわけ!?」
「なんで麻雀なんかで勝負しなきゃいけないのよ」
私は目の前に立つトキという女性に、わずかに苛立ちを混じらせた疑問を投げかけた。
ただの不良少女である私を、わざわざ裏社会の組織が囲い込みたがる理由がどうしても腑に落ちなかったのだ。
「この施設の麻雀は、一部の退屈を持て余した富裕層の者たちに非常に人気でして。そこで高額な閲覧料や賭け金を徴収して、我が社の大切な資金源にしているのです。もしそこにあなたが参加し、見世物として卓を囲んでくれるだけでも、うちに大きな収益をもたらすのですよ」
トキはビジネスライクな笑みを浮かべながら、淡々とそう告げた。
私を人間としてではなく、組織の金儲けの駒、あるいは一時の娯楽道具としてしか見ていない。
その冷酷な物言いに、腹の底から黒々とした怒りが湧き上がってくる。
だが、私に拒否権など残されていなかった。
ここで突っぱねれば、昨日のおばさんの財布一件やこれまでの素行の証拠を警察や学校にばらまかれ、私の学生生活も未来も一瞬で奈落の底に突き落とされる。
「……わかったわよ。やってやればいいんでしょ」
「ええ、その返事を期待していました。ただし、あそこの麻雀施設は狂っています。心して臨んでください。」
(忠告……? 一体この人は味方なの、それとも――)
私が吐き捨てるように答えると、トキは満足げにうなずき、一人の部下に目配せをした。
部下が持ってきた黒い布袋を被せられ、私はそのまま車へと押し込まれる。
窓から見える景色が何度も変わり、やがて街の喧騒から遠ざかった地下深くへと連れ去られていった。
やがて車が停止し、袋を外された私の目の前に広がっていたのは、赤黒い照明が怪しく照らす広大な地下空間だった。
壁には高級な調度品が飾られ、フロアのあちこちでは高級スーツを着た大人の男たちが葉巻をくゆらせている。
まさに、一部の特権階級だけが足を踏み入れることのできる、淫靡で狂った裏社会の遊技場だった。
「さあ、準備をしてもらいます」
トキに連れられて通された控室のような場所で、差し出された制服を見て、私は思わず絶句した。
そこにあったのは、漆黒の生地に幾重ものレースやフリルがあしらわれ、胸元が大きく空いた、悪趣味なまでのゴスロリ衣装だった。
不良として生きてきた私が、人生で一度たりとも身にまとったことのない、最も対極にあるような代物だ。
「ちょっと待ってよ!」
私は衣装を見て咄嗟に叫んだ。
「なんでこんな恥ずかしい服を着なきゃいけないわけ!?」
「言ったでしょう。この麻雀は一部の富裕層の娯楽、いわば最高のショーなのです。観客たちの目を引き、より興奮させるための演出として、この衣装を着てもらうことが参加の絶対条件ですよ」
問答無用で押し切られ、私は半ば強引にそのフリフリのドレスへと着替えさせられた。
鏡に映る自分の姿は、いつも尖らせていたはずの気負いが完全に空回りしているように見え、屈辱感で顔から火が出るほど熱くなった。
そのまま冷徹なギャラリーたちの視線が待ち受けるフロアの中心へと連れ出され、私はいかにも成金趣味といったおじさんたち3人を相手に、重々しい自動麻雀卓の席へと無理やり座らされた。
周囲を取り囲む観客たちが、私のゴスロリ姿を見てヘラヘラと下品な笑い声をあげている。
その視線と嘲笑を背中に浴びながら、私は震える指先を抑え込み、目の前の勝負に全神経を集中させるしかなかった。
「それでは、地獄の幕開けです。……対局を開始してください」
トキの冷淡な合図とともに、自動卓がガタゴトと音を立てて牌を組み上げ、私に最初の配牌が配られた。
一息つき、自分の手元に並んだ牌に目を落とした瞬間――私の心臓は、恐怖と歓喜が入り混じった衝撃で激しく跳ね上がった。
そこにあったのは、一、九、字牌がすべて完璧に揃った、あまりにも美しすぎる「国士無双13面待ち」のテンパイ配牌だったのだ。
(こんな奇跡みたいな配牌が初手から揃うなんて……! 勝てる、これなら絶対に負けない……!)
胸の奥で勝利の確信が弾けた。
だが、この極彩色の地下施設で微笑む悪運が、そのまま私に微笑み続けるはずがないことも、心のどこかで冷たく予感していた。
すべてを狂わせる最初の罠が、音もなく静かに動き出そうとしていた。




