第5話:「……脅し、のつもり?」
昨日の夕暮れから一晩が明けた放課後。
私はいつものように気だるく校門を出ようとしていたが、なぜか周囲の空気が妙にピリついているのを感じた。
「シノさん、少しお時間をよろしいですか」
声をかけてきたのは、見覚えのない上品なスーツ姿の女性だった。
私より少し年下に見えるその人は、スッと無機質な名刺を差し出してきた。
そこに書かれていたのは「グロウ・グローバル・グループ(略してGGG)」という会社名と、『トキ』という名前だった。
「……誰よ、あんた」
「先日は、うちの社員がお世話になったと聞きました」
トキと名乗る女性の言葉に、私はわずかに眉をひそめる。
昨日の、あのスーツの男たちのことか。
警戒心を強める私をよそに、トキは穏やかでありながら底冷えのする笑みを崩さない。
「私どもの会社では、この町の主要な監視カメラの映像を自由に閲覧できる環境が整っていましてね。あなたが社員から財布を……正確には、うちの社員にスクール水着を突き出し、その隙に財布を抜き取っているところが、綺麗な映像でしっかりと記録されていましたよ」
「っ……!」
言葉を失う私に、トキは静かにトドメを刺すように続けた。
「ええ、もちろん彼らが先に高齢の女性から財布を奪っていたのは把握しています。ですが、警察や世間一般の目にその映像がどう映るか。あなたがうちの社員から財布をスリ取った『常習犯の不良少女』として処理されるのは明白です。それに、これまでのあなたの学校での素行や、ちょっとした悪事の証拠もいくつか集まっていますよ」
「……脅し、のつもり?」
私が睨みつけると、トキは涼しい顔で首を横に振った。
「いいえ、脅しというよりは交渉です。私たちはあなたのその『手癖の良さ』と『度胸』を買っているのです。ぜひ、うちの会社で働いてみませんか?」
「お断りよ。あんな人たちのいる下劣な会社で働くなんて真っ平ごめんね」
ピシャリと撥ねつける私に、トキは少しも動じず、冷徹な事実を突きつけた。
「そうですか。ですが、こちらには動かぬ証拠があります。あなたが『拒否できる立場』にあるとお思いですか?」
反論の言葉を喉の奥へと飲み込んだ私に、トキは静かに、そして逃げ場のない提案を持ちかけた。
「一つ、賭けをしましょう。私どもの所有する特殊な施設で麻雀を打ってもらいます。勝つことができれば、過去の経緯は全て不問にしましょう。ですが――負ければ私どもの会社で、一生奴隷として働いてもらいます」
選択肢など最初から与えられていない。ここで断れば、私の日常は一瞬で終わる。
追い詰められた私は、歯を食いしばりながら返答を絞り出すのだった。




