第4話:「うーん、女性用のスクール水着じゃないですかね」
騒ぎの余韻が残る放課後、私は一人で気だるく学校の校門をくぐり、夕暮れに染まる街路樹の道を歩いていた。
秋風が少し肌寒く、ポケットに突っ込んだ両手が心地よく冷えている。
静かな住宅街へと差し掛かった時、少し前を歩くスーツ姿の男2人と、買い物の袋を提げた高齢の女性が言い争っているのが目に入った。
「おい、お前のせいでコーヒーがかかったじゃねえか。このスーツ高かったんだぞ、どうしてくれんだよ」
「そ、そんなこと言われましても……あなたたちがスマホを見ながら歩いていらしたから、ぶつかって……」
「うるせえな! こっちは仕事で急いでるんだよ。弁償しろって言いてえところだが、今日はこれで勘弁してやるよ!」
男たちは威圧的な態度でまくし立てると、怯える女性の手から無理やり財布をひったくり、そのまま何食わぬ顔で歩き出してしまった。
まったく、朝から胸糞悪い連中ばかりだ。
学校のいじめっ子といい、他人に迷惑をかけておいて開き直るクズどもには、どうにも虫唾が走る。
私はやれやれと息を吐き、去っていく男たちの背中を冷めた目で追いかけた。
(――お灸を据えてやるには、ちょうどいいか)
私は足音を殺して男たちに急接近し、ひょいと背後から声をかけた。
「ねえ、お兄さんたち」
「んだよ、ガキ……って、なんだお前」
振り返った男の顔を、私は微塵も動じない笑顔で見上げてみせる。
「これ、落としましたよ」
「は? なんだこりゃ」
「うーん、女性用のスクール水着じゃないですかね」
私は今日、学校のプールで使わなかった自分のスクール水着 を、しれっと男の目の前に突き出してやった。
「ば、馬鹿野郎! こんなもん俺たちのわけが――」
「あれ? そうでした? 失礼しましたー」
私はわざととぼけた声を出しながら、男が混乱している隙に、すれ違いざまの手癖を利かせておばさんの財布をすんなりと抜き取っていた。
「ちょっと待て、お前……!」
男たちが慌てて懐を探り、異変に気づいたその瞬間、私は大声で叫んだ。
「あ、お巡りさん、こっちでーす!」
指を差された方向を慌てて振り返った男たちは、びくっと盛大に肩を揺らした。
もちろん、本物の警察なんて呼んでいない。
ただのハッタリだ。
「ちっ……! 厄介なガキだ、おい、行くぞ!」
「覚えてろよ!」
男たちは周囲の目を過剰に気にして顔を真っ青にすると、そのまま慌てて走り去っていった。
数歩離れた場所で、私は男たちからスリ返した女性の財布をそっと取り出し、目の前に立つ女性に差し出した。
「はい、おばあちゃん」
「まあ……! 私の財布、どうもありがとうございます……!」
女性が心底ホッとした顔を浮かべ、何度も頭を下げる。
私は「落とし物には気をつけてね」とだけ言い残し、夕暮れの街へとヒラリと身を翻したのだった。




