第10話:「お前の負けだ、さっさと服を脱ぎな!」
「――どうします? 服を脱ぐ覚悟はできたかい?」
男たちの下卑た笑い声と、ギャラリーたちの期待に満ちた冷酷な視線が、びしょ濡れのドレス姿の私に突き刺さる。
ここで負ければ、恥ずかしさどころか女性としての尊厳のすべてが踏みにじられ、二度と這い上がれなくなる。
(ふざけないでよ……! こんな連中の思い通りになんて、なるもんか!)
私は震える手をぐっと握りしめ、濡れたパニエの重みを押し殺して自動卓の前に座り直した。
引くことは出来ない。
もし引き下がれば文字通りすべて終わりだ。
「……いいわよ。その勝負、受けて立つわ」
私の言葉に、男たちは「ほう、強がりを」と鼻で笑う。
「それでは、三局目を開始します」
ディーラーの合図とともに、三度目の配牌が自動卓から配られた。
見慣れた手元を覗き込むと、やはり先ほどまでと全く同じ、一、九、字牌が綺麗に揃った「国士無双13面待ち」のテンパイ配牌だった。
どうあっても私をフリテンやチョンボに嵌め込み、全裸の恥辱へと追い込むためのプログラム。
だが、私はもう迷わない。
最初のツモ牌に手が伸びるその瞬間、私は誰よりも早く、そして力強く宣言した。
「――オープンリーチ、国士無双、十三面待ち聴牌!」
卓の空気が、一瞬で凍りついた。
「……なんだって?」
「今、なんて……オープンリーチだと!?」
男たちが顔を見合わせ、ギャラリーたちからどよめきの声が漏れる。
麻雀のルールにおいて、オープンリーチとは自分の手牌をすべて晒して行うハイリスクな立直だ。
一瞬ざわつきはしたが、彼らはすぐに「自ら首を絞めたバカな行為だ」と冷ややかな嘲笑へと変わった。
周囲の男たちやギャラリーは、シノが何を血迷ったのかとバカにしたように大笑いしたのだ。
私はそんな彼らを冷ややかな笑みで見返し、先ほどと同じように1巡目のウーピンを捨て、対面の東をスルーする。
そして、2巡目にツモった牌を勢いよく卓に叩きつけた。
「――ツモ、国士無双、十三面待ち!」
その宣言に、男たちは待ってましたと言わばかりに顔を歪めて大笑いした。
「ばーか! ほら見ろ、また手牌の『中』が消えて白が重なってるぞ!」
「役なしのチョンボだ!」
「お前の負けだ、さっさと服を脱ぎな!」
対戦相手の男たちが勝ち誇ったように自分の手牌や河を指さし、ギャラリーたちも「おい脱げよ」「見世物だぞ」と下卑たやじを飛ばす。
だが、私は少しも慌てず、冷徹に微笑み返した。
「……バカはあんたたちよ」
「なっ……なんだと?」
「私は最初に、こう宣言したはずよ。『オープンリーチ』ってね。」
「それが何だっていうんだ!?」
「『一度オープンリーチを宣言した後は、自分の手牌の構成、待ち、そして役を一切変更・修正することはできない』。……違う?」
男たちの笑みが、ピクリと凍りついた。
「私はこの局の最初に、オープンリーチで国士無双十三面待ちをテンパイしていると完全に手牌を晒して固定したのよ! 今、私の手牌の『中』が消えていようが、さっきみたいに河の牌や手牌がこっそりすり替えられていようが、そんな後からのイカサマなんて一切関係ない! オープンリーチを宣言した瞬間の手と役が公式に認められる以上、私のこのツモアガリはルール上、完全な真実(100%の正解)なのよ!」
「なっ……!?」
男たちの顔から血の気が完全に引いていく。
彼らのイカサマのシステムは、「シノが何も知らずにロンやツモを宣言し、そこに後出しで河や手牌を書き換えてチョンボに仕立て上げる」というものだった。
しかし、オープンリーチによって「宣言した瞬間の点数・役・待ち」がルール上ですべて固定されてしまった今、後から手牌をいじくろうが何しようが、公式なルールと宣言の効力の前には一切通用しなくなったのだ。
「ふざけんな……そんな屁理屈が通るわけ――!」
男たちが慌てて立ち上がり、必死に反論しようとしたその時だった。
「そこまでですね」
静まり返った部屋の中に、冷徹で美しい声が響いた。
それまで一歩引いた場所で傍観していたトキが、ゆっくりと歩み寄ってくる。
彼女は冷ややかな目で対戦相手の男たちを一瞥すると、きっぱりと言い放った。
肌にぴったりとフィットしたチャイナドレスに身を包んだトキの姿に、男たちは動揺の色を隠せない。
「ト、トキさん……! これはあいつのイカサマというか、詭弁で……」
「いいえ。ルールに則って正当にオープンリーチを宣言し、役を成立させたのはシノさんです。……私の知る限り、この施設の公式ルールにおいて、宣言されたオープンリーチの効力と固定された手牌の真実を覆す権限は、誰にもありませんよ」
トキのその冷徹で絶対的な一言で、男たちの反論は完全に封じ込められた。
顔を真っ青にした男たちは、これ以上言い逃れができないと悟り、悔しそうに歯を噛み締めながらその場に崩れ落ちた。
「……くっ……!」
「この勝負、シノさんの勝ちとします」
その瞬間、私の全身から力が抜け、卓に崩れ落ちそうになった。
やった……勝ったんだ。
あの狂った泥沼のイカサマ勝負に、私は自分の機転で勝ってみせたのだ。




