第23話 水魔法
剣を下ろしてからも、蒼太はすぐには動かなかった。
張っていた力が抜けると、身体の重さが一気に戻ってきた。蒼太は壁際へ寄り、アイテムバッグから飲み物を取り出す。何口か飲んで息を整えた。
「……疲れた」
それでも、倒れたフィールドボスを見ると自然に口元が上がった。
しばらくすると、巨体の輪郭が淡く光り始めた。通常のオークと同じように身体が光の粒へ変わり、石床の上から消えていく。
あとに残ったのは、通常のオークのものより明らかに大きな魔石だった。
「でかっ!」
蒼太はすぐに近づいてしゃがみ込んだ。何日も見てきた通常のオークの魔石とは、ひと目で違う。
「これ、すげえな」
そのまま手を伸ばしかけたところで、魔石の横にもう一つ残っているものへ気づいた。
本だった。
「……スキルブック?」
『え?』
『本落ちてるぞ』
『フィールドボスのドロップ?』
『スキルブックじゃね!?』
蒼太はすぐに本を拾い上げた。前田から火魔法と風魔法を覚えた時にも、スキルブックを使ったことがある。何のスキルなのかは分からないが、それならなおさら気になる。
「使ってみるか!」
その場でスキルブックを使い、すぐにステータスを開く。スキル欄へ目を走らせると、見覚えのない名前が一つ増えていた。
「水魔法!」
『水!?』
『三つ目きた』
『火、風、水か』
『フィールドボス倒して魔法増えるのすごいな』
蒼太はステータスを閉じると、ほとんど間を置かずアイテムバッグから杖を取り出した。
身体は重い。左腕も肩も痛い。それでも、新しく覚えた魔法をそのままにしておく方が気になった。
杖を前へ向ける。
まずは単純に、水が先端へ集まるところを思い浮かべた。
少しすると、杖の先の空気が揺れた。透明なものがふくらみ、小さな水の塊になる。
「おお、水だ!」
蒼太は杖の先を覗き込み、すぐに少し離れた石床へ向けた。火魔法を初めて試した時よりずっと早い。そのまま前へ飛ぶところをイメージする。
水の塊が杖の先から離れ、石床へ向かって飛ぶ。狙った辺りへ当たった瞬間、ばしゃっと弾けて周囲を濡らした。
蒼太はしばらく濡れた床を見た。
「……これだけ?」
ちゃんと出た。狙った方向にも飛んだ。
けれど、それだけだった。
もう一度、水を集める。今度はさっきより量を増やそうとすると、杖の先でまとまった水が大きくなった。蒼太は少し期待しながら前へ飛ばす。
水は途中で形を崩し、広がりながら床へ落ちた。
「あー」
すぐに次を試す。今度は量を増やさず、もっと勢いよく押し出すように意識した。最初より速く飛んだものの、途中で端から細かく散っていく。石壁へ届いた頃には、最初に作った塊より小さくなっていた。
『水出すのは早いな』
『でも攻撃って感じじゃない』
『そのままだとただ濡れるだけか?』
蒼太は濡れた石床と壁を見比べた。
火なら当たれば燃える。風なら押せるし、細く集めれば浅くても切れた。水は出しただけでは、まだそのどちらにもならない。
「細くしたらどうなる?」
風魔法を試した時のことを思い出し、水を一か所へ集める。丸く広がっていた水が少しずつ細くなった。
そのまま前へ伸ばそうとした瞬間、形が崩れる。水は途中で途切れ、床へ散った。
「難しいな」
もう一度試す。今度は細い形を少し長く保てたが、前へ飛ばすとやはり途中で崩れた。力を込めすぎると散り、形を保とうとすると勢いが弱くなる。
蒼太は何度か同じことを繰り返した。少しずつ長く保てるようにはなっているが、剣や火球の代わりにそのまま戦闘へ持ち込めるほどではない。
「出すだけならいけるんだけどな」
もう一度試そうと杖を上げかけたところで、左腕の重さと肩の痛みが戻ってきた。
「……今日はこのくらいにするか」
蒼太は名残惜しそうに杖をアイテムバッグへ戻した。フィールドボスが残した大きな魔石も拾い上げ、奥へ収納する。
少しだけ休んでから、蒼太は通路の奥へ歩き出した。
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