第24話 百万円
通路の奥へ進んでいくと、やがて前方に大きな両開きの石扉が見えた。
「ここか」
蒼太は少しだけ足を止めた。水魔法を試していた時より身体の重さはましになっている。左腕と肩にはまだ痛みが残っていたが、動けないほどではない。
石扉へ手をかけ、ゆっくり押し開ける。その先には、広い石造りの空間があった。
中央に一体のオークが立っている。通常の個体より大きく、肩も腕もさらに太い。それでも、蒼太は見た瞬間に思った。さっきまで戦っていたフィールドボスほどではない。
『ボス部屋きた』
『あれがここのボスか』
『でかいけどさっきのやつより小さく見える』
『感覚バグるな』
蒼太は剣を抜いた。
ボスが低い声を上げ、こちらへ走り出す。太い腕が振り上がった。
速い。けれど、肩が動くのも、足が踏み込むのもはっきり見えた。蒼太は拳が来る前に半歩外へずれる。腕がすぐ横を通り過ぎたところで懐へ入り、胴へ剣を振り抜いた。
ザシュッ!
深く刃が入る。
ボスは倒れず、振り向きながら反対の腕を薙いできた。蒼太は一歩下がってかわし、その腕が戻る前にもう一度踏み込む。今度は肩口から斜めに斬った。
巨体が大きくよろめく。
「おっ」
もう一発来ると思っていた蒼太の前で、ボスの膝が石床についた。そのまま身体が前へ傾き、重い音を立てて倒れる。少しして、全身が淡い光へ変わり始めた。
『え?』
『もう終わり?』
『Dランクのボスだよな?』
『さっきのフィールドボス何だったんだよ』
『あいつやっぱおかしかっただろ』
『蒼太も普通に強くなりすぎ』
蒼太は剣を下ろしながら、倒れた場所を見た。
「……全然違ったな」
残った魔石を拾う。通常のオークより大きい。それでも、アイテムバッグの中に入れたばかりのフィールドボスの魔石ほどではなかった。
魔石を収納したところで、部屋の中央に淡い光が集まり始める。
「おっ、宝箱」
何もなかった石床の上で光が形を作り、一つの宝箱になった。蒼太はすぐに近づいて蓋を開ける。
中に入っていたのは魔石だった。
「またでかいのある!」
手に取って角度を変えながら眺める。何に使うものかは分からないが、通常のオークから出るものとは明らかに違う。
『今日魔石めっちゃ増えてない?』
『アイテムバッグなかったら絶対持ち帰れないだろ』
『何体分入ってんだあれ』
「何体分だろ」
蒼太自身も、もう正確な数は覚えていなかった。
宝箱の魔石もアイテムバッグへ入れる。少しして、部屋の端に青白い光の円が浮かび上がった。
「帰れる」
蒼太は周囲を一度見てから、その中へ入った。視界が白く染まり、次に足元の感触が戻った時には、ダンジョン入口近くへ戻っていた。
撮影用ドローンを呼び戻す。
「今日はこれで終わります。ありがとうございました」
『おつ!』
『数日間お疲れ』
『フィールドボス倒したのやばかった』
『水魔法も気になる』
『また配信してくれ』
蒼太は配信を終了し、管理施設へ戻った。そのまま戦利品の買い取りを頼む。
「買い取りお願いします」
受付の職員がアイテムバッグへ目を向けた。
「量はどのくらいありますか?」
「オークの魔石が……百個以上あります。あと、フィールドボスとボスの魔石と、宝箱から出た魔石も」
職員の手が少し止まる。
「百個以上ですか?」
「はい」
確認を取ったあと、蒼太は通常の買い取りカウンターではなく、奥にある広い査定室へ案内された。中には大きな作業台がいくつも並んでいる。
「こちらへ出していただけますか」
「分かりました」
蒼太はアイテムバッグへ手を入れ、まず通常のオークの魔石を取り出した。一個、もう一個。そこからは何度も手を入れ、作業台の上へ同じくらいの大きさの魔石を並べていく。
十個、二十個、三十個。それでもまだ終わらない。職員も途中から一人ではなくなり、何人かで確認を始めた。
蒼太はさらに魔石を出す。
「まだあります」
「……はい」
作業台がいっぱいになると、隣の台まで使うことになった。
最後に、正式ボスの魔石と宝箱から出た魔石を置く。そして一番最後に、フィールドボスの大きな魔石を取り出した。
近くにいた職員の視線が集まる。
「こちらは?」
「途中で出たフィールドボスです」
職員は一瞬だけ魔石を見てから、すぐに確認作業へ戻った。
「査定に少しお時間をいただきます」
「分かりました」
蒼太は査定室を出て、管理施設の待合スペースへ向かった。椅子へ座ると、身体から力が抜ける。
「疲れた……」
ダンジョンの中ではずっと動いていた。こうして何もせず座っていると、数日分の疲れが急に戻ってくる。蒼太は飲み物を買い、ゆっくり飲みながら待った。
しばらくして、名前を呼ばれる。
買い取り窓口へ戻ると、職員が端末をこちらへ向けた。
「査定が終わりました。合計で、1,087,640円になります」
「……え?」
蒼太は表示された数字をもう一度見る。
一、〇八七、六四〇。
「百万円!?」
「はい」
「マジで!?」
思わず画面へ顔を近づける。Eランクダンジョンを攻略した時は、十二万円を超えただけでもかなり驚いた。それが今回は、ダンジョンで集めた戦利品だけで百万円を超えている。
「すげえ……」
疲れていたはずなのに、一気に目が覚めた。
「お願いします!」
手続きを終えると、1,087,640円がスマートフォンの電子決済残高へ反映された。蒼太は表示された金額を何度か見直してから、ようやくスマホをしまった。
管理施設を出る。外はもう暗くなっていた。
数日ぶりに外の空気を吸ったところで、今度は腹が大きく鳴った。
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