第21話 フィールドボス戦1
数日前に戦った巨体が頭に浮かんだ。
「……もう一回、行ってみるか」
蒼太は前にフィールドボスと遭遇した辺りへ向かった。途中で通常のオークを何体か見つけたが、今はほとんど足を止めない。剣で倒して魔石を拾い、また奥へ進む。
しばらくして、曲がり角の先から重い足音が響いた。
通常のオークより明らかに重い。一歩ごとに石床へ響く音には覚えがある。蒼太は足を止め、角から先を覗いた。
通路の向こうに見覚えのある巨体がいる。太い肩も、腕も、周りのオークより一回り以上大きい。
「いた」
前に戦ったフィールドボスだった。
『またいたぞ』
『あいつ前に吹っ飛ばされたやつだろ』
『マジで再戦するの?』
『前よりかなり強くなってるけど大丈夫か』
コメントが流れていく横で、蒼太はアイテムバッグから盾を出して左腕へ通した。右手には剣を持つ。
フィールドボスがこちらを向き、低い唸り声と同時に走り出した。前に見た時と同じように速い。
振り下ろされた拳に合わせ、蒼太は身体を横へずらした。拳が肩のすぐ横を抜ける。そのまま一歩踏み込み、すれ違いざまに脇腹へ剣を振る。
ザシュッ!
刃が肉へ入った。前より深い。振り抜いた後も身体が流れず、次の動きへすぐ戻れる。
けれど、フィールドボスは止まらなかった。振り向きながら太い腕を横へ薙いでくる。
蒼太は今度は避けなかった。
腕が来る前に肩が動く。踏み込んだ足の向きも見えた。左腕の盾を少し傾け、拳がぶつかる瞬間に身体も横へ動かす。
ドンッ!!
重い衝撃が腕から肩へ抜けた。靴底が石床を擦り、一歩、二歩と横へ押される。それでも、身体は浮かなかった。
「おおっ!」
押された分だけ足を戻し、蒼太はすぐに剣を振る。外へ流れた腕の下へ入り、今度は脇腹を斜めに斬り上げた。
『耐えた!?』
『前これで何メートルも飛ばされてたぞ』
『受け方変わってる』
『盾で流したのか今の』
フィールドボスが吠え、さらに踏み込んでくる。右の拳をかわし、左から来た腕を盾で外へ流す。空いた肩へ一撃。大きく振りかぶってきたところでは懐へ入り、胴へもう一撃。
剣は確実に入っている。だが、浅くはなくなっても、通常のオークのようには倒れない。傷が増えても巨体は止まらず、拳が次々に飛んでくる。
蒼太は腕の動きを追いながら、何度も位置を変えた。右肩がわずかに沈めば拳が来る前に身体を外し、足が前へ出れば踏み込みに合わせて盾を向ける。ぶつかった力を斜めへ逃がし、そのまま剣を返した。
「いける!」
フィールドボスの腕へ刃が走る。
その直後、切り返してくると思っていた右腕ではなく、反対側の腕がすぐに飛んできた。
「っ!」
避けきれない。蒼太はとっさに盾を挟んだが、角度を作る余裕がなかった。
ドンッ!
盾ごと身体が押され、蒼太は石床を数歩よろめいた。左腕に重い痺れが残る。そのまま距離を詰めてきたフィールドボスが、もう一度拳を振り下ろした。
蒼太は横へ跳ぶ。さっきまでいた場所へ拳が落ち、低い音が通路へ響いた。
『入った!』
『危なっ』
『まだ普通に一発重いぞ』
『さっきみたいに全部は流せないのか』
蒼太は立ち止まらなかった。痺れの残る左腕を一度振り、また盾を前へ出す。今度はフィールドボスの肩から目を離さない。
次の拳を外へ流し、剣を一度だけ入れてから大きく横へ抜けた。距離が開く。
蒼太は剣をアイテムバッグへ戻し、杖を握った。左腕の盾はそのまま残す。
フィールドボスが向きを変えた時には、もう杖の先へ赤い光が集まっていた。火が丸く膨らむ。
「ファイヤーボール!」
火球が胸へぶつかり、炎が広がる。前に当てた時は、そのまま火の中から出てきた。今度は巨体が一瞬のけぞり、足が止まった。
蒼太はその隙に杖を向け直す。火ではなく、風を細く集める。
炎を振り払うようにフィールドボスが腕を動かしたところへ風を放つ。鋭い音が走り、さっき剣で傷をつけた肩へ新しい線が入った。
「よし!」
だが、フィールドボスは炎の残る身体のまま突っ込んでくる。
蒼太は盾を構え、正面から来た腕を斜めへ滑らせた。今度はきれいに外へ抜ける。そのまま杖をアイテムバッグへ戻し、メイスを握った。
重い先端を振り出しても、腕だけが引かれない。腰と足が自然についてきて、狙った軌道のまま振り抜ける。
外へ流れたフィールドボスの腕がまだ戻ってこない。
蒼太は一歩踏み込み、開いた脇腹へメイスを振り抜いた。
ゴッ!!
今までの斬撃とは違う鈍い音が響き、巨体が大きく傾いた。片足が横へずれ、そのまま膝が石床につく。
『うわっ』
『今のめちゃくちゃ入ったぞ』
『剣も盾もメイスも普通に使えてるのやばい』
『武器術ってこういう感じなのか?』
蒼太はメイスを下ろさなかった。
目の前では、フィールドボスが片手を床につきながら身体を起こそうとしている。脇腹には斬った傷が重なり、肩にも風でつけた線が残っていた。
それでも、まだ倒れない。
低い唸り声を上げながら、フィールドボスはもう一度立ち上がった。蒼太もその場で盾を構え直した。
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