第13話 初めての魔法
放った二本目の矢は、一本目より中央へ寄ったものの、それでも的の端に刺さった。
「うーん、難しいな」
蒼太はもう一度弓を見てから、いったん床へ置いた。まだ使っていないメイスも持ってみる。剣より先端に重さが集まっていて、振ると腕を引っ張られる感覚が強い。盾も腕へ通し、標的から返ってくる衝撃を受けるように構えてみた。
どれも使えないわけではない。ただ、剣ほど思った通りには動かなかった。それでも、実際のダンジョンで使えばどうなるのかは気になる。
「上山さん。魔法も試してみますか?」
前田の声に、蒼太はすぐ振り向いた。
「やります!」
さっきから気になっていた細長い杖の横へ、前田が二冊の本を置く。
「今回は、火魔法と風魔法のスキルブックを用意しています」
「二つともいいんですか!?」
「はい。契約内容にも含まれています」
蒼太はすぐに近づいた。一冊目を手に取り、前田から使い方の説明を受ける。その通りにスキルブックを使い、続けてもう一冊も使用した。
ステータスを確認すると、スキル欄には火魔法と風魔法が増えていた。
「おお……本当に増えた」
剣術や体術を覚えた時とは違う。戦って身につけたわけでもないのに、自分の中に今までなかったものが増えている。
蒼太はすぐに杖を取った。
「これで使えるんですよね?」
「はい。まずは標的へ向けて試してみてください」
少し離れたレーンへ移動する。正面には武器を試したものとは別の、魔法用の標的が置かれていた。
蒼太は杖を前へ向ける。
火を出す。
そう考えてみるが、すぐには何も起きなかった。
「……どうやるんだ?」
もう一度、杖の先へ火が集まるところを意識する。今度は、先端の少し前に小さな赤い光が生まれた。
「おっ!」
赤い光が揺れ、そのまま小さな火へ変わる。蒼太は目を離さず、標的へ飛んでいくところを思い浮かべた。
「ファイヤーボール!」
火が一気に丸く膨らみ、杖の先から飛び出した。
ボンッ!
火球が標的へぶつかり、赤い炎が表面へ広がる。
「うおっ! 出た!」
蒼太はすぐに杖を見た。
もう一回。
今度は声に出さず、さっきと同じように火が集まるところを思い浮かべる。少し時間はかかったが、また赤い火が生まれた。
「いけるじゃん」
そのまま標的へ向けると、二発目の火球が飛んでいった。一発目より少し小さい。それでも、狙った方向へは飛んでいる。
蒼太は続けて何度か試した。大きくしようとすると形が崩れたり、急いで飛ばそうとすると途中で消えたりする。それでも、一回ごとに少しずつ感覚が分かってくる。
「これ、面白いな!」
剣とはまったく違う。触れていない相手へ、自分から火を飛ばせる。
しばらく火魔法を試してから、今度は風魔法へ切り替えた。杖を向け、前へ押し出すような風をイメージする。
最初は何も見えなかった。けれど杖を振ると、少し遅れて前方の空気が大きく動いた。標的の表面へ風がぶつかり、低い音が返ってくる。
「おお!」
もう一度。
今度は杖を振らず、正面へ風を集めるように意識する。目にはほとんど見えない。それでも標的へ当たった瞬間、表面が揺れた。
火とは感覚がまるで違う。蒼太は何度も杖の向きを変えながら、正面だけでなく斜めからも風をぶつけてみた。
「これ、いろいろできそうだな」
火を飛ばす。風をぶつける。それだけでも、剣しかなかった昨日までとはできることが一気に増えている。
前田から施設の利用方法や支援品について残っていた説明を一通り聞いたあと、蒼太はそこで前田と別れた。
「では、今日はご自由に使ってください」
「ありがとうございます!」
前田がトレーニングエリアを出ていくと、蒼太は並べた装備へ戻った。せっかく全部ある。
剣をもう一度振り、斧を持ち、メイスも標的へ当ててみる。盾を構え、弓も何本か射る。途中からは杖も混ぜて、火や風も試した。
一つやると、次もやりたくなる。気づけばかなり時間が経っていた。
「暑っ……」
額の汗を腕で拭う。そこで、センターへ来た時に見た案内表示を思い出した。トレーニングエリアを出てシャワールームへ向かい、汗を流す。
着替えて外へ出る頃には、腹もかなり減っていた。食事スペースへ行き、メニューを見る。
「ステーキ定食……」
蒼太は少しだけ見直した。
「これも無料なんですか?」
「契約探索者の方は無料ですよ」
「じゃあ、これお願いします!」
しばらくして運ばれてきた皿には、大きなステーキが乗っていた。横には野菜が添えられ、ご飯と汁物もついている。
「普通にめっちゃちゃんとしてる……」
一口食べる。
「うまっ!」
肉は柔らかく、噛むとしっかり味が広がった。訓練したあとなのもあって、箸が止まらない。
ご飯を食べ切り、ステーキもほとんどなくなったところで、スタッフが近くを通った。
「追加もできますよ」
「ステーキもですか?」
「はい」
「じゃあ、お願いします!」
結局、蒼太はステーキもご飯もおかわりした。かなり腹いっぱいになるまで食べてから、今度は休憩用の個室を借りる。
部屋へ入ると、ベッドと机があり、壁にはテレビもついていた。
「ここまであるのか……」
アイテムバッグを置き、ベッドへ倒れ込む。テレビをつけたまま少しだけ横になるつもりだった。
満腹なのと、昼からずっと動いていた疲れもあって、気づけばそのまま眠っていた。
目を覚まし、スマホを見る。
「え、もうこんな時間?」
窓の外はもう暗い。蒼太はしばらくベッドの上でぼんやりしてから起き上がり、アイテムバッグを背負った。
蒼太は部屋を出て、そのまま白峰探索者サポートセンターをあとにした。
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