アストラル号出航
「私は本艦アストラル号艦長ジャック・ドレイヤーである。大型クリスタル、テュポンの襲来による緊急戦闘があったもののアストラル号守備隊の活躍により本艦と地球の危機を救った。一連の戦いで殉職した全ての空間騎兵、艦艇乗組員に心からの敬意と哀悼の意を表する。これより本艦移民船アストラル号は地球と永遠の別れを告げ、太陽系のさらにその先にあるであろう新天地を目指す。この先、楽な道ではないだろう、しかしこの船に暮らす300万人が手を携えれば必ずや乗り越えられると信ずる、ともに新たな希望を掴む旅に出よう。」
ドレイヤーはマイクを置き艦長席に腰を下ろした
「なかなかよい演説でした艦長、可もなく不可もなくです、地球の歴史には載りませんが本艦の歴史には載ることを考えると何とも味気ないものですが。」
宮越が揶揄ってくる
「演説はレティシアにやらせればいいだろ私は口下手なのだ、原稿を読むのも性に合わん。」
少し下のフロアの副司令官席にいたレティシアが言う
「艦長、私をなんだと思っていらっしゃるので?別に口上手という訳ではないのですが?」
「そうか?君の熱い演説を私は気に入っているのだがな。」
レティシア中将が声を荒げるが声からして顔が赤くなっているのが想像に難くなかった。
「艦長、時間です。」
オペレーターが報告した
「主推進装置起動、船外各データのモニタリングを厳とせよ。」
「オペレーター、ピアティフ。本艦の操舵オペレーションを開始します。ミーミルを航海補助モードへ」
「承認、オペレーターピアティフを本艦の操舵オペレーターと認識、これより航行に関するあらゆる補助を行います。」
オペレーターであるピアティフ大尉はミーミルと共に船の操艦を始める
「ドックの分離シークエンスを開始、1番から120番アンカーを解除します。」
「ドック管制システムへのアクセス成功、ドック推進装置逆噴射を開始。」
「ドックの本艦からの離脱を確認、引き続きエンジン始動にかかります。」
「推進装置オールグリーン、全て規定値内」
「機関担当より連絡、起動準備完了とのことです。」
ドレイヤーは航行に関しての最初の指示を出す
「エンジンの航行使用を許可、アストラル号出航せよ。」
「了解しました。全融合エンジンを接続。」
「全融合エンジンを接続します、接続成功。メイン噴射口よりイオン流の放出を確認、噴射に関する全数値は正常、アストラル号航行を開始しました。」
巨大な船体がゆっくりと動き始めた頃、月面でも動きがあった。
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「私は月面基地総司令官ならびに内惑星防衛軍司令官、ブブリクだ。今日この日、星々の海という我々の知らない未知の世界へ旅立つ者達をこうして見送れることを光栄に思う。新たな新天地での諸君らの繁栄と安定を切に願う。アストラル号護衛艦隊へ、全艦出撃せよ。」
ブブリクによる演説の後、月面各所の基地よりアストラル号を護衛する艦隊が次々と離床していく。
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「ナガト、ムツ、アタゴの嵐の海基地からの発進を確認、続けて、ヨーククレーター基地よりアイオワ、ニュージャージー、クリーブランド、ブレマートン、ボルチモア、アラスカが順次出撃中です。静かの海基地からもプリンスオブウェールズ、ランカスター、チェシャー、ベルファスト、ロドニーが出撃済みです。」
「ならば我々もいくとしよう。全部署へ通達、本艦はこれより出航する!」
艦橋右側に座っていた艦長による指示が飛び、その船は出航のために動き出す。
「ガントリーロック解除、反重力機構始動」
「機関出力規定値へ到達、機関始動可能」
「反重力機構の正常作動確認、船体、ドック底部より1.4メートルの浮上を確認。」
「錨を上げろ!」
「航海長、出航を許可する。」
「了解しました、機関接続、点火!」
「武蔵、離床!」
武蔵の機関にエネルギーが回り、青白いイオン流を噴き出しながらドックを離れ、解放された上部から宇宙へと昇っていく。
「私はアストラル号護衛艦隊司令、城島賢治少将である。本艦武蔵はこれよりアストラル号へ向け航行、護衛艦隊集結ののち共に未知領域探索へと向かう、アストラル号に住まう300万人の命は我々が預かっていると思え、任務を果たすことが我々の価値である。地球と月へ別れを告げよ、さらば蒼き星よ、さらば白き星よ。」
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アストラル号C地区、中央ターミナル
「出航したか。随分とあっさりしているものだ、もう少し揺れた方が面白いのだがな。」
隣に座る男がそう言う
「これだけ大きいですし離床するわけでもありませんから、揺れないのは当然ですよ。もっとも、実感が湧かないのはそうですがね。」
その言葉を聞いて男は微笑む
「まぁ、お前にとってはほんの20数年過ごしただけの星だからな、あの青い星は。そういえばケイ、なんでまたこの船に乗ることになったんだ?別に生活に困っていたわけでも地球を去りたかった訳でもないだろうに。」
「まぁ、地球にいても暑くて敵わないですから、未知の世界に出るのも悪くない、そう思っただけです。シュリフェンダーさんの影響もあるかもしれません。エーベルヴァインさんこそ何故この船に?」
隣の男はアントラセン・エーベルヴァイン。階級は中佐。経歴を挙げれば長いが代表的なところだと元ドイツ宇宙軍最精鋭部隊アイゼンヴォルフの歴代最長の隊長を務め、国連軍最精鋭部隊の一つ、ヴァルチャー中隊の元隊長といったところだ。
「俺か?俺はこの船に美人が多いと聞いて来たんだ、俺も今年で153歳、そろそろいい妻でも欲しくなってな。」
「まだ153歳じゃないですか、今どき300歳での結婚も珍しくないですよ。それでも普通の人は300年連れ添うんですし急いでいいことはないですよ。」
「27歳のくせに良さげな女と仲良くしてるお前に言われたかねぇよ、お前こそダイアナちゃんには手を出さないのか?予定がないなら俺がもらいたいくらいだが。」
(何故こうもこの人は美人に目がないのだろうか、ダイアナとこの人だとこの人がダイアナの椅子にされる未来が見える見える。)
「紹介しても構いませんが合わないのでは?雰囲気とオーラは大人のお姉さんですが、中身は27歳の女の子ですよ?」
「流石に若いよな、お前と同じで赤子のようなものだ。まぁ、我々のように老化抑制剤を使えるからこその視点だが、使えない者からしたら十分食べごろの女性だがな。」
「ダイアナの相手は大変ですよ?老化抑制剤無しだと過労で早死にしてしまうでしょう。」
「俺の知ってる彼女はじゃじゃ馬だったが手綱をしっかり握れば良い子だった、今はどうなんだ?」
「歳の割にやけに妖艶で大胆、計算高くて人を手玉に取るのが上手い、どうです?」
「彼女が生まれるのがあと100年早かったら俺は全力でアタックしにいっていただろうな、俺の好みだ。」
「エーベルヴァインさん、僕は貴方が心配になってきました。変な女に引っかかるのだけは勘弁してくださいよ?」
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A地区 サンクトゥス教ベルモンテ教会
「これにて本日の禊を終わります、皆様お疲れ様でした。お食事をいかがでしょうか?主神アスタルト様は敬虔で努力家の信徒の皆様全てに微笑みを与えてくださいますから。」
サンクトゥス教は約400年前に誕生した西アジアにあった宗教の一つが発展して生まれた宗教である、現在はキリスト教、仏教、イスラム教に並ぶ4つ目の大規模宗教となっている。信仰する神はアスタルト、寛容さとひたむきな努力を宗教上の方針としている。
「是非ご一緒させていただきます。」
「お腹が空いてしまいましたのでありがたく。」
「ありがたくいただきます。」
教会で日課の禊を終えた聴衆は祭壇から下りてくる女性に頭を下げてから移動していく。
その女性こそ、サンクトゥス教の大司教にして聖女とも呼ばれながら、シスターという身分に今は落ち着いているサンクトゥス教の主要人物、オルフィア・セレスティーヌその人である。
「ふふ、どうぞそちらのお部屋へ、アウレリアが既に食事を整えておりますわ。」
広くなっている隣の部屋ではオルフィアの妹であるアウレリアとその他の修道女達が食事の用意を終えていた。
「どうぞ、こちらへ。」
一般の人々と共にオルフィアは席に座る、アウレリアやその他の修道女達は壁際で待機する。
「星々の輝きに今日のこの日も感謝いたします。」
オルフィアをはじめとした人々は手のひらを頭の上に掲げ、祈りの言葉を述べたのち、一呼吸おいて食事を始めた。
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C地区、中央商業区画、株式会社スタープロデュース
「という訳で君達には出航記念ライブを開いてもらうよ。」
クレール・アスティエ、天宮世奈、ハン・ビョルの3人はマネージャーのハン・ヒョジュンからの話を聞いていた。
「うんうん!やっぱり景気づけに1発やっちゃお〜!」
クレールが勢いよく椅子から立つ
「とはいえ最近はあまり練習もできていなかっただろうから新曲はスキップだ、合計6曲、君達が得意なものを厳選したよ。公演は2週間後、太陽系離脱に合わせて行う予定だ。」
「あの、公演会場はどこでやるんですか?」
「この船には格納式の天体観測用の大型透明ドームがある、そこの使用許可を取った。収容人数は10万人だ。」
「おぉ…!10万人、なかなかですね。」
「というわけだ、この船に来てからの初ライブ、いつも通りにやっていこう。それと、君たちの要望に合わせて例の件も進めていくよ。」
「ふふ!、流石ヒョジュンさん。私達のこともちゃんと考えてくれるんだね♡」
揶揄い気味ながら愛想満点の笑みを浮かべながらビョルは話しかける。
「まぁ、人気者や注目を集める人こそケアを大切にしなきゃいけないからね、君達ほどにもなると特にね。幸い、この船には300万人しかいない、それにある程度厳選された人ばかりだ君たちにとっては幾分か楽になるだろう。」
「地球だと飲み物を買いに行くのも気をつけなきゃいけなかったからね…」
ボソッとクレールが呟く
ステラリスは女性主体のアイドルグループとしては前例のない規模で大ヒットしたがその弊害として彼女達は自由な外出ができなくなったり、メディア対応で心身ともにすり減ったりと知らず知らずのうちに追い込まれていた
「だからこそ父さんが君達にこの船を提案したんだよ、この船の艦長もある程度は手を貸してくれるし、この船のメディアにも牽制はしておいた、君達の思うように過ごすといい。」
「そ、れ、で〜。私気になるお店があるんだけど、どうかな〜?♡」
デバイスを2人が覗き込む
「うわ〜!美味しそう!行こ行こ!」
「まぁ…たまにはこういうのも悪くはないと思います。」
3人の様子を見てヒョジュンは心が温まった。
「食べ過ぎには気をつけるんだぞ?」
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アストラル号中央航法戦闘司令室
「護衛艦隊の順次合流を確認しました、しかしながらテュポンとの戦闘に本来護衛艦隊に参加するはずだった艦艇も投入されたため、戦艦が4隻、重巡洋艦が2隻欠員です。」
「ブブリク大将はなんと言っていた?」
「テュポンとの戦闘で地球艦隊は総力の40%を喪失し余裕がない。と」
「まったく、400年ぶりにご挨拶にきた大型種があのような化け物だったなど、悪運にも程があるな。」
「ブブリク大将からの提言で、現在アステロイド基地にて修復にあたっている第九艦隊の残存艦を引き取るのはどうかとのことです。」
「第九というとフランスか、しかしもう太陽系には戻れない旅、行きたくない者も多いだろう。」
「船の頭数を揃えておけば人員は艦内で養成してもいいですし、当面の間本艦を守る船さえあればどうとでもなると考えます。」
「レティシア中将、そうは言うがいずれにせよ本艦には建艦能力も備えられている、無理に補充などせずともいいだろう?」
「本艦で建艦するにはその資材をどこかで調達しなければなりませんがそれはしばらくは先の話になります、その間にクリスタルの襲撃がないとも言えません、多いに越したことはないかと。」
「緊急招集では本来は乗りたくない人間も乗るかもしれない、そういった人間が後々に不安要素となることは避けたい。」
「監視を強化すれば済む話かと、それに我が艦隊が第九艦隊と合流するのは4日後です。それまでに下船させましょう。そうすれば問題の種も減らせるかと。」
「君がそこまで言うなら仕方あるまい、分かった君の案を採用する。その旨を内惑星、外惑星防衛軍司令官並びに第九艦隊司令官へ通告せよ。」
こうしてレティシア中将の支持もあり、アストラル号は第九航宙艦隊、リシュリュー、ジャン・バール、ダンケルク、ブルターニュの戦艦4隻、アルジェリー、コルベールの重巡洋艦2隻を収容することとなった。
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第九航宙艦隊旗艦リシュリュー
「なるほどな…、いっそのことだついていくとしよう。通信士、全艦放送へ」
通信士が艦隊全艦への放送へ切り替える
「第九艦隊の諸君、司令官のルーネだ、先ほど内惑星防衛軍ならびに外惑星防衛軍より我が艦隊に別命が下された。それは、第5次移民船の護衛艦隊への編入である。二度と太陽系へと戻ることは叶わない旅だ、艦隊に残るか転属するかは自由とする、猶予を三日間設ける諸君らのいかなる決断も私は支持する。以上だ。」
「君はどうするんだね?シュナイダー君」
艦橋に報告をしにきた元ホルスの翼中隊所属のシュナイダーにルーネは話しかけた
「帰るべき家は失いました、アストラル号に乗ろうと思います。それにケイ・エバンズ大尉も乗船してるとのことですし、彼には一度会ってみたかったですから。」
「そうか、少なくとも私ひとりぼっちではないようだな、よろしく頼むよ、シュナイダー君。」
サンクトゥス教・・アスタルトを主神とする一神教、他の宗教に関しても寛容であり、クリスタルとの戦争による混乱から信者が激増した。現在、サンクトゥス教No.2もアストラル号に乗船している。セレスティーヌ姉妹はサンクトゥス教の中でも特に信者からの信頼が厚く、主教の座も近いと言われていた高官




