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クロエの悩み

アストラル号E地区

「疲れたなぁ…」


クロエは疲れた身体を動かして3次元エレベーターから降りた、一応街灯はあるものの薄暗い道をクロエは歩く、ボックス型の家の一つの呼び鈴を鳴らす。


扉が開くとクロエはピョンと家の中に入る

「ただいま〜!お母さん!お父さん!リュカ!」


家に入ったクロエは母と父と抱き合った、ここ最近は演習と座学と訓練で家に帰ることができていなかったため久しぶりの再会である。


「クロエ、お腹空いたでしょ?ご飯できてるわよ。」


狭い部屋に組み立てテーブルと椅子が置かれていた。クロエはそのうちの一つに座る。


「今日はシチュー?」


「えぇ、そうよ。私とパパね、新しい仕事を貰えたの、給料もそこそこ上がったわ、だから食べるものには困らないのよ?もちろん、居住区を変えられるほどのお給料はないんだけれどね…」


「だから、俺も空間騎兵になるよ!この船の部隊は給料がいいんだろ?なら、俺もなれば…」


「リュカ?何言ってるのよ、貴方はちゃんと勉強してお母さん達にお肉を沢山食べさせてあげるんでしょ?」


クロエはリュカに空間騎兵になって欲しくなかった、いつ死ぬとも分からない戦闘が起こる中でもし、子供達が2人とも死んでしまえば残された2人があまりにも可哀想であるから


「それに、リュカは喘息持ちなんだから空間騎兵にはなれないよ?もしなるにしても喘息を治してからじゃなきゃ。」


「で!でも、喘息が治ればいいんだろ!?な、治すからさ、頑張って治すから、そしたら俺も…」


頑張ってどうこうなる問題でもない、リュカもそのうち分かるだろうとクロエは思った


「治ったらね?治せたら。」


「はいはい、食べましょう?せっかく温かいのに冷めたら勿体無いわよ?」


「リュカ、男としてお前の気持ちは分かるが今はまだ決断するには早い、今は遠くの未来じゃなく目の前の未来を見るといい。」


こうして4人は食事を始めた、先ほどの話とは変わりたわいもない面白話やクロエのぼやきが飛び交った


「ふふ、それでね、ルイったら俺がエバンズを超える!とか言ってたのに模擬戦でボコボコにされちゃったのよ?」


「ねぇクロエ。その、ケイ・エバンズさんってどんな人なの?」


母からの問いにクロエは少し考えて答えた

「う〜ん、優しくて強くてカッコいい人かな?レーナちゃんもイケメンって言ってたから間違いないはず!」


リュカが動転していた

「ク、クロエ姉はその人のこと、好きなの?」


「う〜ん、どうなんだろうね。まだそこまで深い関係でもないしちょっと知り合いってだけだから、憧れの人…かな。」


その時家の呼び鈴が鳴った

「私が出るね。」


玄関を開けるとクロエは目が白黒になってしまった


「お食事中でしたかな?少しお話があって伺ったのですが、また出直すとしましょうか。」


つい先ほどまで話をしていたエバンズさんが立っていたのだ


「え、あ、う、ど、どうぞ!はは、食べ終わったところですから!お、お話…とは?」


「クロエ・ベルナール少尉、本日アストラル号標準時15:00をもって貴官を中尉に昇進させる。」


「………はい?」


エバンズ大尉から階級章の入った小さな箱と新しい軍帽が渡される


「実のところ前もって計画はされていたんだ、本来なら出航して少ししてから君の昇進式を行う予定だったのだけれど、先日の戦闘で中隊長クラスが8名戦死してね、君の昇進を少し早めることになったんだ。昇進式も執り行わない、すまないけれどね。」


クロエは頭では多少理解しかけていたがなかなか状況を飲み込めないでいた


「そして…同時にしばらくの間君を拝借する。」


クロエは余計混乱した、借りられるとは?


「君は本日付けで特殊戦術戦闘隊所属だ、僕のウィングマンにしばらくの間就いてもらう。ローズ大尉が全治3ヶ月の骨折をしてね、代役として君が選ばれたんだ。」


(代役?うぅ…流石にいきなり正式なウィングマンにはならないか…それもそうだよなぁ…)


そんなことを思いつつクロエは答えた

「わ、分かりました!よろしくお願いいたします、エバンズ大尉。」


「かしこまらなくていいよ、しばらくの間よろしくお願いするよ。ベルナールさん。」


差し出された手をクロエは慌てて握る

「こ、こちらこそ!足を引っ張らないよう頑張ります!」


「君は頑張り屋さんですから、心配していませんよ。」


突然の褒め言葉にクロエは今にも舞い上がりそうだった


その時リュカがするりと横を抜けた

「な、なぁ!アンタ、軍の偉い人なんだろ?俺も空間騎兵になれるか!?」


()

はてさて、ベルナールさんの横から抜けてきたこの少年にいきなりそのことを言われてもなんと答えるべきであろうか?


「リュカ・ベルナール?確か、18かそこら?」


その少年はコクコクと頷いた、以前ベルナールさんが言っていた血の繋がっていない弟とはこの子のことか。


「18歳なら軍学校に入学して君の場合は4年間そこで学び、適性検査を受けてから君に適性があれば空間騎兵養成コースに入れる。」


「視力は今の時代どうにでもなる、聴力も同様だが、何か自病は?」


黙りこくっている、何か自病でもあるのだろうか?


「えぇっと…、リュカは喘息持ちで…パリの空気にやられてしまって、だから激しい運動とかは…」


(なるほど喘息持ちか、まぁ、治すことができれば問題はないが少なくとも今年の軍学校には間に合わないだろうな)


「まぁ、完治したなら話は変わるがそうすぐに完治するものでもないでしょう?本気で目指したいなら止めはしないが喘息が治らなくては土俵にも立てないということは知っておいた方がいい。」


リュカは完全に下を向いてしまった

(言いすぎてしまっただろうか?しかし、やたらに死にそうな奴を軍に入れるわけにはいかないからな。)


「ね、リュカ。自分の未来についてもう少し考えてみなさい?いい?」


(まぁ、無理に変えろというのも本人にとっては嫌な話だろうな。)


「それでは私はここで、次の待機の時にまた会いましょう。ベルナールさん。」


ベルナールさんははっとしたように扉を押さえた


「あ、あの!ベルナールだとリュカも父も母も反応してしまいますから、私のことはクロエと呼んでください!」


「分かりました、改めてお願いしますね、クロエさん。」


()

B地区軍民両用病院


扉をノックしてから開ける

「さて、翼をもがれた気分はどうかな?ダイアナ。」


右足を吊るされて左腕をギプスで巻かれたダイアナがベッドに寝ていた


「随分と嫌みなのね、私と飛べなくて1番悲しいのは貴方じゃないの?」


相変わらず余裕そうな顔をしている、特に心配は要らなそうだと思った


「あぁ、寂しいな。とはいえレティシア中将の提案でベルナールさんが君の復帰までのウィングマンを務めてくれることになった、ボッチではないよ。」


ダイアナの顔を見ると明らかに不機嫌になった


「あらあら?良かったじゃない、小動物系の愛らしい白金髪のボブヘアーの胸の大きい子と一緒に任務につけて。」


(ここは機嫌を取るか…)


「それを、お姉さん系の美人の栗色の長髪をたなびかせる胸がとっても大きな君が言うかい?」


「貴方はどっちがタイプかしら?」


「僕は僕の味方でいてくれる方が好きだ。」


「意地悪な人…、でも今はそれで良しとするわ、我慢できない女はモテないもの。」


(助かった、何とか機嫌を戻してくれた…)


「紅茶でも飲む?いつも通りにミルク一杯と角砂糖2個?」


「えぇ、いただくわ。角砂糖を1個増やしてもらえる?」


()

クロエは家族皆んなが眠ったあと、1人部屋の隅でデバイスを操作していた


(ここは…少し狭すぎるなぁ。ここは少し高いし…、全部を踏まえると選べるのはこれだけか…、はぁ〜、物件探しって大変だな。もう少し稼がなくちゃいけないなぁ。)


D地区の様々な物件を探してみるが家族が住むにはあまりにも狭すぎる部屋、価格に手が届かない部屋、価格も広さもちょうどいいがいくら何でもセキュリティーが甘いもの、そう易々と引越しはできないため長く暮らせる家を探すが良いものは見つからない


ふとクロエは寝ている家族に目を向ける、ここも狭い部屋だが皆んなで並べば横になって眠れる、とはいえ父も母も身体を蝕まれているしリュカも喘息持ちだ、自分がなんとかしなくてはとクロエは改めて思うのであった。


()

アストラル号某所


「このプラン、貴方はどう思う?」

シスターは隣に座る男にそう問う


「ケイ・エバンズをこちらに引き込むことができれば我々の使命は果たすことができますでしょう、しかし本当に可能でありますでしょうか?ケイ・エバンズには弱みらしい弱みもありません。」


「ふふ、弱みを握っての服従は所詮は紛いもの、ゆっくり刷り込んでいくのよ、神の信徒になるまでね。」


「上手くいかなかった場合はどういたしますか?」


「その時は貴方が消しなさいアブラハム、貴方なら彼も十分に葬ることができるでしょう?」


「承知しました聖女様、その時が来た時には必ずや。」


聖女と呼ばれるシスターは満足そうに微笑む

「そういえば、あの女狐の始末には失敗したようですね。」


「申し訳ございません、私の不得のいたすところなんなりと罰をお与えください。」


「神はそれほど狭心ではありません、それにあの女狐もケイ・エバンズと共に戦える腕の持ち主、楽に葬れるなどとは思っていませんわ、今は急いで殺す必要もないでしょう、彼女を泳がせておきなさい、いい釣り餌となっていただきましょう。」


アブラハムは深く礼をしたのち一枚の写真を渡した

シスターはそれを見て少し驚く


「あらあら、貴方も随分と派手なことをいたしますのね」


「四肢はもぎ取りました、まともに動くことは叶わないでしょう、神の信託に応えられなかった上に悔い改めることもしない異端者でした。」


「アブラハム、神はそれほど狭心ではありませんわ、とはいえ元より彼らは神を信じない祝福なきもの、神様の知るところではありません、彼らが己の責務を果たせなかったのは由々しきことですがまだ彼らには神を信じさせる余地がある、彼らには引き続きもてなしを授けて差し上げなさい、彼らもいずれ忠実な信徒となりますわ。」


「承知いたしました。」


誰にも把握できないほどゆっくりと、しかし確実に不穏の水は広がっていた。

17式長槍(ランス)・・ヴァルキリーの近接兵装の一つ、脚部に格納できる長剣と異なり背部推進ユニットの上に保持する必要があるため持ち運びや取り回しに難がある一方、リーチと遠心力を用いた斬撃や突きは長剣の威力を遥かに上回り使いこなすことができれば安全に敵を鏖殺できる。

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